ネットビジネスの「鍵」 想定力とデータ
ある日突然「ワタシはオンナだよね」と妻が夫に言ったとしたら、どのような状況をイメージするべきでしょうか。常識的に考えれば「そうだよオンナだよ。それがどうしたの?」という返答はありえません。もしもこの様な返答をすれば、かなり厳しい状況を引き起こしてしまうことは誰でも想定できるかと思います。(笑)
ここで読者の皆さんに質問です。このケースにおいて、かなり厳しい状況 という「想定」のトリガーになったものは何でしょうか?
正確にブレークダウンするとすれば、尋ねる必要がないぐらい明白な事柄について「敢えて」確認を求めるということについての「違和感」がこのケースの「想定」のトリガーになっているわけですが、もしもこの時に「アタリマエ」という捉え方をして違和感を持たずに看過してしまえば、潜在する危機に気づくことができないということになるでしょう。
ネットビジネスは一般的にはユーザー=お客様とその場で直接お話しすることができません。来訪した人数や閲覧経路などのデータはありますが、お客様の顔が見えないので何歳ぐらいのどんなお客様が来訪されているのかも分かりません。それよりも前にアクセスログなどのデータだけでは男性か女性でさえ分からないのです。
受注が確定した後の段階では受注情報ex.お客様の名前など一定レベルのプロフィールが入手できるので、男女の区別や年齢などについてはある程度の把握は可能です。でもこれはあくまで「購入に至ったお客様」だけのプロフィールであって、「購入しなかったお客様」のプロフィールではないということに留意すべきです。たとえば来訪者が100人で受注が2件、その2件とも男性からの受注であったとして来訪者のほとんどが男性と言い切ることができるしょうか。
仮説として一番極端な例を挙げれば、来訪者100人の内98人が女性で女性の来訪者はすべて途中離脱をし、残り2人の男性来訪者の全てが受注に至ったという可能性もゼロではありません。仮にショップが仮説通りの状態であったなら、当然ながらこれは緊急の対策を施す必要がある状態であると言えます。
ショップに限らずWEBビジネスの全ておいて、売上や利益あるいはユーザー数増などの「向上策」とは「まだ来訪されていないお客様」や「来訪されたが購入や資料請求には至らなかったお客様」に対して行うのが一般的です。ウチのショップやサービスをまだ知らないお客様に対してアプローチするための手段が各種の広告やSNSでの露出増などの施策であり、買わなかったお客様への対応が購買導線の向上やカゴ落ち対策などの諸々のCVR(購買率)向上策であるわけです。もちろんリピート率向上のためのCRM(顧客関係管理)などもありますが、これは受注に至ってからの話であり一度も受注に至らなければCRMは成立しないことをお忘れなく。
つまり、前述のケースで言えば「買わなかった98人のお客様」への対策こそが最重要課題であり、この「買わなかったお客様群」の人物像や嗜好、不安や疑問あるいは商品やサービスを選択する際の判断基準こそがサイト運営者の本当に「知りたいこと」ではないでしょうか。たとえごく一部であっても あるいはかなりの誤差を含んでいたとしても「知りたいこと」が少しでも見えてくればこれがキャッシュに直結することは言うまでもありませんが、現状で入手できる「買わなかった人/使わなかった人」に関してのデータは余りにも情報が薄いのです。
たとえば前述の極端な例でもデータとしては来訪者100人/購買率2% となります。一見すればデータ上では何ら変哲のない数字であり、業種にもよりますが「購買率は結構イイ線行っているねっ♪」という感想で終わってしまうのがほとんどではないでしょうか。
でもこれは「そうだよオンナだよ。それがどうしたの?」と看過してしまうのと同じぐらいの厳しい事態を引き起こしてしまうかも知れません。なぜそうなってしまうのでしょうか。
データの有用性を否定しているわけではないのです。想定力=仮説を立てるチカラを持ち合わせないと、解決や成長のための小さなトリガーを見過ごしてしまう可能性があるということを申し上げたいのです。
データは重要です。「想定」のトリガーも、多くの場合【 異なる形のデータ 】の中に隠れていると思っています。今注目している主要データAと参考までに閲覧したデータBを照らしわせた際の「小さな不整合=ちょっとした違和感」こそがトリガーになるのではないでしょうか。
前述の例で言えば、データA=受注データ CVR:2% 男性客100% ということになり、これだけでは何ら違和感はありません。ここに異なる形のデータBとして/来訪元のサイトURL一覧があり、来訪元サイトを“念のため/一応”見に行ったらば、かなりの割合で女性向けのサイトが目についた/検索キーワード一覧を見たらば男性は使わない様なキーワードがちらほら/電話で質問されたお客様の〇割は女性だった/ここで初めて違和感を持つことができるわけです。
主要データA(男性)がしっかり頭に入っているからこそ、データB(女性)に触れた時に違和感を読み取ることができると言えるかも知れません。逆に言えば主要データをきちんと把握していないと想定力は養われないとも言えるでしょう。この様な例もあります。データA:平均顧客単価が1万円の雑貨ショップ。データB:発送作業現場を見ると、小さめの梱包ばかりが目についた。この梱包では1万円分の商品は入らないかも?という違和感から顧客単価のデータを詳しく見てみたら3千円と1万2千円の二極に分かれていたなど、データBに相当する事象は大変幅広いものです。Bについては一般的なデータだけでなく“その他の情報“や”事象“などを含めての”データ“と言う方が適切かもしれませんが。
男性⇔女性であればまだ分かりやすいのですが、これが法人客と個人客(大口/小口)あるいは富裕層と低価格反応層、スペック重視のヘビーユーザーと使えればOKのライトユーザー、都市部と地方、年齢層などなど・・・キャッシュに直結するサイト運営者が「知りたいコト」はまだまだ沢山あります。そしてその多くが「正確な数値指標が存在しない項目」なのです。
仮に、受注状況としては男性100%であるにも関わらず「女性向けのサイトからの流入が目立つ」「女性からの電話での質問も少なからず」という事象に気づくことができたとしても、では来訪者の何パーセントが女性なのか?ということについては事実上データを取るすべがなく、その数値も推測の域を超えることはないと思います。
従って違和感というトリガーに気づいたとしても、これに対する施策もまた推測の域を超えないのです。 増してや「買わなかった理由」などの「ユーザーの心情や環境」に起因することが購入を左右している場合には、運営者側としてはその理由を「想定」する以外に方法がありません。
ex.ベッドを買うのは良いけれど、今ウチにあるベッドをどう処分すればいいのだろう/寝返りをうつたびにギシギシと音がしたりしないかな?/重さは?持って運べるかな/女の子でも組み立てられるかな?/ウチの玄関から入るかな?(梱包サイズ)/etc.これらの「心情や環境」に起因する事柄が購入を左右する決定的な要素であった場合、事実上これらをデータとして収集する手段がないのでユーザーの心情や環境を「想定」する=汲み取るほかになく、その対応策もまた「想定」=データの裏付けのない状態において、ある意味では試行錯誤的に施策することとなるのはご理解頂けるかと思います。
データマインニング(あるいはアナライズ)の難しさもここにあるのではないでしょうか。データマインニングは、前述のデータB(異なる形あるいは異なる場所で持たれているデータ、あるいはその他の事象)との照合が行いにくく、メインとなるデータAのみでサイトの向上策を見つけ出そうとする傾向になりがちです。つまり「想定」のトリガーに気がつきにくい環境にあるのです。また仮にある種の「想定」ができたとしても、その根拠を(データとして)示すことが難しいので試行錯誤を伴うDoプランを進めながら最適解を見つけ出すという手法も取りにくい体制にあるのも一因かと思います。
「想定」=仮説を立てることができて、かつ、試行錯誤が許される環境においてはデータは大変に有益なツールです。試行錯誤的に行ったDoプラン=「想定」が「アタリなのか?ハズレなのか?」の答えは必ずデータに表れます。
前述の例で言えば、「・・・女性にも持ち運びやすい〇〇」というテキストを追加したら購買率(=データ)が向上した場合、想像していた以上に女性の来訪者が多い という想定がアタリであったということになるわけです。PDCAで言うのであれば、Plan⇒Do(Try)までのステップではデータよりもむしろ(ある意味では何ら裏付けのない)想定=仮説を中心にした上で、Checkのステップでは徹底的にデータを活用しDo(Try)の成否や効果の度合を確認しながら最適解を見つけ出し、Actionのステップでは最適解を根拠に拡張拡充横展開♪というサイクルの方が円滑に進めやすく成長度も大きいと思っています。Planのステップにおいて、データAのみからトリガー=次の成長のためのヒントを見つけ出すことについては「ある程度は見つかるが、見過ごしてしまうものも少なからず?」とも思うのです。
実は、笹本は過去一度も電話やメールだけの遠隔コンサルティングをしたことがありません。飛行機と船を乗り継いで行く必要がある離島のクライアント様でも毎回必ず「現場」に訪問してコンサルティングを行ってきました。現場に行かずに入手できるメインのデータAだけでは情報が薄すぎて見いだせる成長のトリガーも限られたものになり、またこれに対する施策も一般的な手法どまりになってしまうと思うのです。
「想定」のトリガーに気づくためには、どうしてもデータB(異なる形あるいは異なる場所で持たれているデータ、あるいはその他の事象)に触れる必要があり、データBは現場以外には存在しないのではないでしょうか。
主要データを頭に入れた上で、お客様の姿や気持ちを汲み取りつつの現場主義こそが想定力を養い、「想定力こそがデータを本当に活かす」と思っています。
JECCICA客員講師 笹本 克
全国各地で有名ネットショップを輩出。 自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務める。 DeNA社やYahoo!Japanショッピング事業部スタッフへのレクチャーや、ドリームゲートの起業講座の他、上場企業から中小企業までコンサルサイトの累計は約600社、多岐にわたる業種でのコンサルティング実績も豊富。