Tik Tok Shopの日本上陸について思うこと
米国でのTik Tok ShopのGMVは2024年に約80億USドル
Tik Tok Shopが6月に日本で開始されると報じられています。Tik Tok Shopの特徴は動画やライブ配信を通じて商品を購入できる点です。まさにライブコマースの一形態と言えます。中国ではDouyin(抖音)が人気であり、その後米国でTik Tok Shopが2023年9月に正式にローンチしました。米国のGMVを調べたところ、2024年は約80億USドル、日本円換算で1.2兆円(150円/USドルで計算)と、短期間で既に巨大な規模となっています。月別で見てみると、11月、12月に一気に伸びていることが分かります。中国でDouyin(抖音:中国でのTik Tok)が人気であることはご承知の通りですが、そのレベルには全然至っていないもの、米国でもTik Tok Shopがこれだけ勢いがあることに、ある意味驚きを感じます。
日本のライブコマース市場規模は2024年に600億円台と推定
Tik Tok Shopが日本に上陸し、どこまでGMVが伸びるのか、私は強い関心を持っています。なぜならば、国内のライブコマース市場規模は未だ大きくなく、そのマーケットにどれくらいのインパクトを与えるのか見てみたいからです。
私の推計では、国内のライブコマース市場規模は2023年時点で512億円、2024年は正式に推計していませんが、おそらく600億円台の後半あたりと見ています。Tik Tok Shopも所詮同じレベルではないかと見る向きもあるかもしれませんが、とは言え、Tik Tokがベースになっているので、消費者のリーチと認知度が従来のライブコマースとは異なります。また米国でも急速にGMVが増えているため「では日本はどうなるのか?」と純粋に思う次第です。
ソーシャルコマース拡大の起爆剤になるか?
Tik Tok Shopの上陸に強い関心を抱くのには、もうひとつ理由があります。それは「ソーシャルコマースが日本でどのようなっていくか」という点です。ソーシャルコマースの定義は曖昧な点がありますが、
①SNSを通じた直接的、間接的な購入、
②ライブコマース、
③クラウドファンディングの購入型、
④共同購入の4点がメイン
と私は捉えています。①については、カートへのリンクを張っていなくても、別建てのECサイトで購入した場合には「広義のソーシャルコマース」と言っても良いかもしれません。ソーシャルコマースに関するEC業界の関心は以前から強いと思いますが、キーワードとしてそれほど大きく取り上げられてこなかった印象があります。
しかしTik Tok Shopの上陸によって、いよいよソーシャルコマースが日本でも本格化するのではないかという気が少しばかりしています。100%断言するわけではありませんが、米国の状況を見ると、多少なりともインパクトは残しそうな予感がします。
Temuの存在
ところで、Tik Tok Shopの上陸に際して、Temuのことを振り返っておきたいと思います。Temuが日本に上陸したのは2023年7月です。あっというまに顧客基盤が拡大し、2024年の国内のGMVは3,000億円に達したのではと私は見ています。Temuによって、中国系ECへの抵抗感がない消費者は多いと思います。Temuが日本で「地ならし」したことは、Tik Tok Shopにとって大きな意味があるのではないでしょうか。もちろんTik Tok自体の認知度が高いことが大きなポイントではありますが、Temuの存在は実は大きいかもしれません。
人々の消費行動は変化するか?
大きなインパクトとまではいかないまでも、多少のインパクトをTik Tok Shopが残すことになったと仮定しましょう。となれば、そもそもソーシャルコマースって何だろうかという議論が国内で巻き起こるでしょう。1997年に楽天市場が始まり、2000年にはAmazonが日本でも始まりましたが、それ以降は基本的に日本のEC市場、EC業界には大きな変化はあっただろうかと私は思っています。
しいて言えば、スマートフォンの普及により、モバイルファーストになっている点や、近年の生成AIがもたらしているインパクトはあるでしょうか。
一方でソーシャルコマースは消費行動の変容です。消費者がモノを買うときの情報収集の手段や、モノの買い方が変化することを意味します。Tik Tok Shopの上陸は、ソーシャルコマースを通じて消費行動は変化していくのかという、ある意味試金石のような出来事になるかもしれません。既存のEC事業者は、この動向に対し敏感になっておいていただければと思います。
米国Tik Tok ShopのGMV月別推移
出典:Momentum Works Pte(Statista経由で取得)

JECCICA客員講師 本谷 知彦
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役