ファッション業界とAI
AIは日を追うごとに私たちの生活に欠かせない一部になってきており、それはファッション業界でも同様のようです。ファッション業界向けにAIテクノロジーのベンチャー支援リーダーとして2020年にロスアンゼルスで創業したAI.Fashionという会社は、独自のテクノロジーにより強化された仮想写真撮影、高度なデザインと画像のカスタマイズ、リアルタイムのインタラクションを可能にするAIプラットフォームを提供しています。
AI.Fashionプラットフォームは、モデル希望者がアップロードしたポートフォリオ、セルフィー、プロによるショットなど数十枚の写真を、AIによりさまざまな地域やオーディエンスに合わせてローカライズし、ファッションキャンペーンやEコマースサイト向けのイメージを作成します。モデルは、経験レベルに関係なく、トップファッションブランドに発見されたり、AI.Fashionが審査したブランドと働いたりする機会を得ることができ、使用されたイメージで報酬を得ることができます。モデル業は一見華やかに見えますが、キャスティングの列で長時間並んで待ったり、キャスティングディレクターから厳しい質問をされたり、必ずしもいつもオファーを受けるわけではないことなどを考えると、AI.Fashionのプラットフォームの利用はこのようなストレスを削減できます。一方、ブランドはAI.Fashionプラットフォームを通じてモデルとつながることができ、モデルはオファーを承認または拒否できるようにもなっています。モデルがオファーを承認した場合、AI.Fashionはモデルがそのブランドのアパレルをモデルとして着用している写真を生成することができます。
ここでのポイントは、AIが生成した人物を使用するのではなく、実在の人間をベースにさまざまなポーズ、設定、照明、服装のモデル画像をAIが生成することにあり、あくまでも実際のモデルがプロセスに関与している点にあります。例えば、デニムで有名なある企業は、より多様な体型の服を表現するためにAIを活用しましたが、ソーシャルメディア上で、その企業が多様な背景を持つ実在の人間を雇う代わりにバーチャルモデルを起用したことに批判が集中したことがあります。ブランドがAI.Fashionと提携している理由として、人間の創造性をプロセスの中心に据えていることにあると言えます。
他に、ファッション業界におけるAIの利用として、デザイナーの継承があるようです。例えば、デザイナーがゼロから築き上げ数十年以上経営してきた会社が、自分がいずれ退任するときにどのようにそのブランドを継続できるか、後継者計画を含め極めて重要な問題となります。ある著名なデザイナー兼創業者は、自分のレガシーを継承するために、AIを利用してテキストプロンプトから自分のクリエイティブDNAに基づいた新しいデザインを生成できるカスタムツールを構築しました。自分がデザインしたさまざまなファッション画像に、カットの種類、生地、その他の重要な詳細などのキーワードをタグ付けし、AIシステムに入力、トレーニングします。これにより、テキストプロンプトを入力することで、AI がデザイナーの要求を理解し、対応する画像を作成できる仕組みとなっています。また、AIが自分たちの美的特徴を維持し、ありきたりなデザインを吐き出さないよう、過去のコレクションで常にAIをトレーニングしているそうです。これにより、決して機械が人間のデザイナーに取って代わるのではなく、チームがデザイナーの創造性をあたかもデザイナーがいるかのように引き出せるようにすることが期待できるわけです。
もちろん、創業者が持つ資質の中にはAIでは再現できないものもあると思いますが、創業者が去った後でも、ブランドがデザイナーのDNA、会社の伝統を継続するためにAIを活用する取り組みにイノベーションを感じます。

JECCICA客員講師 渡辺泰宏
カリフォルニア在中チーフエグゼキュティブ、戦略ビジネスコンサルタント。日米の顧客に対し、新規ビシネス戦略立案および解約、新規パートナー開拓、コーポレートマーケティング、オンライン、ソーシャルメディア、モバイルマーケティングの戦略立案、EC市場動向分析及び商会等の戦略的コンサルティング。