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「伝える」と「伝わる」のあいだにVol.25 「伝える」の土台をつくる、ことばの裏方

★校正という仕事
最近「校正・校閲11の現場」を読みました。自身も校正者である牟田都子さんが、マンガ、webメディア、レシピ、地図、辞書、新聞…さまざまな現場の校正者にインタビューをした本です。
(穏やかで端正な語り口の牟田都子さんの著作「文にあたる」も、とても素敵な本なのでおすすめです!)

極小の文字がびっしりの地図。時間勝負のニュースのテロップ。単位にも気を抜けないレシピ本。1000ページに渡って細かな数字と表が並ぶ製品カタログ…。
「言葉のあるところには、すべて校正がある。」という帯の通り、媒体問わずあらゆる文章や言葉が発信される時には、必ずそれをチェックし正す人の仕事があるんだな…と実感しました。

コピーライターとして自分が手がけた広告や文章の文字校(もじこう)は当たり前にしてきましたが、それはあくまでも「誤字脱字チェック」の域を出ていません。
私は「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」というドラマで初めて文芸書の校正の詳細を知りました。もちろんドラマなのでかなり脚色されているのだと思いますが、「正誤だけじゃなく事実関係をここまで掘り下げて調べたりするんだ!」と新鮮に驚きました。
校正・校閲という専門職には丹念な「掘り下げ」とプロフェッショナリズムがあり、知れば知るほど感嘆します。

★通訳という仕事
いま放映中のNHKドラマ「東京サラダボウル」には警察通訳人が登場します。日本語話者ではない被疑者の取り調べの際、取調官と被疑者のあいだの通訳をする仕事です。
先日興味深いエピソードが出てきました。取調べ刑事の「なんで殴ったんだ?」という問いに、通訳人は「その“なんで”は理由か、それとも使用した武器についてか」と尋ねるのです。刑事は「いちいちうるさいな」という感じでイラつきますが、WHATかWHYかは大きな違いです。(実際その回では、通訳上の齟齬で被害状況と容疑が変わってしまいました)

「東京サラダボウル」によれば、通訳には「同時通訳」「ウィスパリング」「逐次通訳」の3つがあるそうです。国際会議や海外ニュースで見られる同時通訳。大リーガーや海外スターなどの真横について囁くウィスパリング。警察での通訳は3つめの「逐次通訳」です。

「(逐次通訳は)言い間違いや言いよどみも含めて一言一句正確に訳します。スピードより正確性が大事。文章の順番も入れ替えちゃいけない。
入れ替えると意味の変化を生むし、言葉ににじむ感情やニュアンスも含めて、できるだけ正確に訳さなきゃいけないんです」(劇中の台詞より)

同時通訳ならスピードや分かりやすさが大事。ウィスパリングなら話者の感情や意図を汲むことが大事。ひとくちに通訳と言っても、それぞれの現場によって必要とされる「訳し方」はまるで違ってくる。
時に事実や用法としての正しさよりも筆者の狙いや意図を優先する文芸書、時にスピードの方が優先されるテロップ、正しさが何より優先される法律書とでは「校正のしかた」も変わってくるのとおんなじですね。

★もっと言葉を丹念に見よう
「言葉にして人々に伝える」というと、文章を綴る人、公の場で発信する人、歌う人など、表に出る人のことを思い浮かべがち。でも実際その土台は、こうした裏方仕事の人々が丁寧に丁寧に整えているのです。
その大事さたるや!

発した言葉の放つ力は、どんなに短くても易しい内容でも決してあなどれません。伝え方ひとつで誰かの人生が激変することがあります(悪い方向でのそれは、つい最近私たちも見ましたよね)。

誰もが簡単に世界に言葉を届けられるいま、私たちはもっと言葉に対して慎重かつ繊細でなければ…と思うのです。それは決して「言葉を選べ」「不用意に喋るな」「正しさが大事」なんていう抑圧的な意味ではありません。

仕事においては「裏方として言葉を整えてくれる仕事」を軽んじず、自らチェックも怠らず、インパクトや刺激や「数字がとれること」に傾倒せず、即時性だけを重んじない。
プライベートにおいては場のノリやミームに持っていかれないよう、自分自身の言葉をちゃんと探す。

あ、このことはEコマースも決して無関係ではありません。ネットでモノを販売する時、言葉も姿勢もついつい「こちら本位」で「成果と効率重視」になりがち。受け取る側への(メリットではなく)思いやりや正直さが、置いてけぼりになってはいないでしょうか。
AIに任せて当たり前の今だからこそ、人の目と手で地道に確かめることの大事さも、肝に銘じておきたいですね。

JECCICA客員講師

コピーライター 近藤あゆみ

Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。


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