「伝える」と「伝わる」のあいだにVol.22 本屋の「女性向けエッセイ」コーナーに思う
私は本屋が大好きで、欲しい本がある時もない時も、棚を眺めながら長時間うろうろする。ジャンル分けされた棚を順に見ていくと、どの書店にも必ずパステルカラーやビビッドな色合いあふれる「ある棚」がある。そこに並ぶタイトルを挙げると、ざっとこんな感じ(実際の書名とは少し変えたものもあり)。
- ⚫︎選ばれる女におなりなさい
- ⚫︎最高の恋愛・結婚を叶える
- ⚫︎愛されるワガママのすすめ
- ⚫︎彼の本当の気持ちが知りたい
- ⚫︎大好きな彼に絶対愛される
- ⚫︎いい女book
- ⚫︎魅力ある女性の秘密
- ⚫︎嫌いな自分にさよならしたい
- ⚫︎あなたは絶対運がいい
- ⚫︎本当の自分で生きる
- ⚫︎1週間で美人に魅せる女の磨き方
- ⚫︎大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした
ジャンル名は書店によってさまざまだけど「女性向けエッセイ」「ライトエッセイ」となっていることが多い。
この棚を見ながら、私はいつも思うのだ。
棚デカくない?一大ジャンルじゃない?
なぜ女だけ、これほどまで自分に向き合い悩んでるの?
もちろん全てが女性向けの本ではないけど9割はそう。実際この棚の前で吟味している男性を私は見たことがない。
ここに立つと、女性たちの「今の自分は好きになれない」「どうにか自分を磨きたい」「誰かに愛されたい」または「今の自分のままでいいと胸を張りたい」という叫びが聞こえる気がする。
断っておくと、これらの本が悪いわけでは全然ない。私だってアラサーの頃はこういう本に大変お世話になった。くじけそうな女性を勇気づけ、変化のきっかけを与える本なのだと思う。
ただ本当に不思議なのだ。「自分」に向かう視線の強さと悩みの深さ、それが女性に限られていることが。
男性は一切悩まないの?ニーズはないの?だってこの棚に対比するような「男性向けエッセイ」という棚はないのだ。
女性の「自分磨き」に比するものは、男性なら「自己啓発本」(orビジネス書)だろう。本屋の最も目立つところに一角を占めるあのジャンル。眺めてるだけで、人生が今すぐ何もかも爆烈にうまくいく気がしてしまうあのマジカルな棚だ。
- ⚫︎一流の人間力
- ⚫︎お金を生み出す伝え方
- ⚫︎伸びる人伸びない人
- ⚫︎うまくいっている人の考え方
- ⚫︎トップ5%社員の習慣
- ⚫︎一瞬で自分の夢を実現する方法
- ⚫︎眠りながら成功する
- ⚫︎大富豪の教え
- ⚫︎人を動かす
顕著なのは、目線の違いだ。
女性向けがひたすら自分自身の内面に向いていたり、誰かに愛されることを目指すのに対し、男性向け(とは銘打ってないけど読者は男性が多いだろう)の目はひたすら外。社会や組織に向いている。女性たちが「好きになれる自分、いい女、愛される女」を目指すのに対し、男性たちの目指すところはズバリ「社会での成功と信頼」だ。
本の対比だけで言うなら、女性は組織や社会的な立場には重きを置いておらず、まず自分自身を認めること、身近な人との関係を心地良くすることが至上命題。セルフケアの気持ちがとても強い。
一方男性は、仕事や社会的立場と自分を切り離せず、セルフケアにもほとんど興味がないように見える。「そんなこと考えたこともねーわ」って感じ。
以前なら「女性とは、男性とは、そういう生き物なのだな」で話を終えていた気がするけど、もうそうは思わない。
女性が「もっと美しく・気が利いて・愛されて・幸せな恋愛や結婚をしたい」と思うのは、それが女の幸せであるとされてきたからだ。誰から?社会全体から。
いっぽう男性が「社会で成功し財力をつけ、自分にかまけず、小さなことにくよくよしてはアカン」と思うのは、それこそが漢(オトコ)であるとされてきたからだ。誰から?社会全体から。
もうこういうの、みんなでやーーめた!ってしたらいいと私は思う。
少なくとも女性たちは「もうよくね?今までみたく愛され女子になったりモテを追求したり結婚にまい進しなくてもよくね?はい解散!」と鎧を脱ぎ、女性同士で手を取り合いつつある。すごい勢いで。
いっぽう男性はまだまだ「俺は何がしんどいのか」には気付けていない感がある。(とっくに気づいて、旧来の「男らしさ」を手放している人たちももちろんいる)
社会がどんどん変わるにつれ、男ゆえに履けた下駄が履けなくなり威勢も張れなくなり、でも必死に無理をしなければならないのは変わらず…。男性自身ももうギリギリとネジが巻き上がってしんどいのではないだろうか。
そのしんどさやルサンチマンを弱い者に向けたりしないで、たまには自分の心身をいたわってあげたり、仲間と愚痴や弱音を吐き合ってみたらいい。俺つらいよ。頑張れないし疲れた。誰かに認めてほしい。そういうのを素直に出せばいい。何なら件のエッセイの棚から選んで一冊読んでみたらいい。
売上や成功や肩書や会社の看板じゃなくて、虚勢を張らない弱い自分を認めてケアしてあげよう。もちろん女性も。モテなくてもいい男いい女にならなくてもいい。キラキラ輝かなくたっていい。社会の趨勢に己を合わせる必要なんてない。
自分は自分。我こそはたった一冊しかない稀覯本なりと思いながら本屋に向かうと、選ぶものもずいぶん変わるかもしれない。
コピーライター 近藤あゆみ
Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。