「伝える」と「伝わる」のあいだに Vol.10 そのコミュニケーション、古びてない?
みなさんこんにちは。今回もビジネス書や自己啓発本には全く載っていない、身近でミクロな「伝え方・伝わり方」についてお話しします!
★「あの頃」のベンチャー気質
私が創業したてのITベンチャーに入ったのは2000年直前。20代の社長と社員。アイデアと根性とスピード。面倒な権力勾配も裏表もなく、皆で目的のために突っ走る熱が満ちみちていたので、しんどくても楽しかったです。
特に仕事の考え方や姿勢にはカルチャーショックを覚えました。
「次の会議までに新しい案を」と上司に言われ、数日かけて案を練ることができた前職。ところがここでは「何かいい案ない?」と問われたら「今すぐこの場で出す」のが普通。しばらくは己のできなさに悶々としましたが、徐々にその社風になじんでゆき、私は以下の「ベンチャーな姿勢」を内面化しました。
・アイデアはその場でたくさん出す。
・保留せずすぐやる。
・できない理由より「どうやるか」を考える。
・結論から端的に話す。
・文句を言う前に自ら動く。
大変だけど、慣れればストレスがなく仕事が進みました。大企業にありがちな「よく分からない上の事情や人間関係で話がひっくり返る、保留にされ続ける、消滅する」がない。「結果に至る経緯を細かく伝えたい、上手くいかなかった理由も言いたい」という時も「結論から言って」と言われます。まあなんと端的でスピーディーなことか。すべての決定が早く、いいものはどんどん実行され、ダメとなったら撤退も早いシンプルさ。
ところが、この姿勢をインストールした私にはプライベートで支障が出始めたのです。
★よかれと思って人を追い詰める
まず人の愚痴や悩みを聞くことがとにかく苦手になりました。「なぜこんなしょうもないこと延々話してるんだろ」とイラッとする。なのですぐ「結局どうしたいの?」「じゃあこうしたらいいじゃん」みたいな口を挟むようになりました。自分自身はそこまでの行動ができてないくせに、他人には問題解決マンみたいな態度で接する。いま思うとすっげーやな奴ですね。何様だ!でも当時はこれがいいと思ってたんですよ…。
この姿勢をやめようと思った、明らかなきっかけがあります。
ある日の電話で母が「こういうことがあってほんとしんどい」と愚痴り始めました。私はさっそく「じゃあ、そのやり方じゃなくてこういうふうにしたら?」とアドバイスしました。すると「うーん…でもねえ、そうは言っても難しいし」と返される。こちらがどんな代替案を繰り出そうと延々と「できない理由」を語られる。ついにイライラが頂点に達した私は強い口調で言いました。「どれも無理って言ったって事態は変わらないでしょ!?愚痴ってないでどうにかしなよ!」
すると母は「そんな言い方しないでよ…ただ話を聞いて欲しかっただけなのに…」と涙声になりました。嗚呼やってしまった、と思いました。
母はただ、娘に聞いて欲しかっただけ、気持ちに寄り添ってほしかっただけなのです。別に解決法なんて求めちゃいなかった。なのに私はよかれと思って仕事モードで勝手にジャッジ&プレゼンしてた。そこに「今のその人の気持ち」を汲みとる思いやりはまるでなし。ダサい。大人としてダサい限りです。
★そのやり方、局所的かもしれません
仕事で良しとされる姿勢と、プライベートのそれは違います。仕事はあくまでも「そこだけで通じるしくみ」にのっとっています。思えばベンチャーな姿勢は、全員が20〜30代単身者で体力気力と自由があり余っており、深夜休日問わず仕事に没頭できる環境だったから通用したのです(それが良しとされる時代だったのも大きい)。
考え方、判断の仕方、伝え方などは想像以上にその業界や組織、職種に最適化されてるんですよね。だからオールマイティでも伝家の宝刀でもない。時代性、地域性も大きく関わってきます。なので他で振り回すとトラブルになったり、思いがけずに人を傷つけたりしてしまう(特にプライベートにおいては)。ビジネスにおいて最良とされる「端的さ」「無駄のなさ」「合理性」でさえ、他人にとっては静かな暴力になっているかもしれないのです。
今の若者は打たれ弱い。職場ではパワハラセクハラ、家庭ではモラハラだと言われてしまうのでやりづらい…そう思うことはあるでしょう。でもそれって受け手だけの問題なのでしょうか?発信するこちら側の姿勢が「かつては正解だったもの」に過ぎないのかもしれません。コミュニケーションでどうも周囲と噛み合わない、よかれと思ってるのに軋轢が生じる…という場合は、自分を見直した方がいいかもです。
時代も移り変わり、ニーズも、生き方も、昔よりずっと多種多様。「男はこう」「女はこう」「会社員はこう」「家庭はこう」と色分けすることも無理になりました。これまでの姿勢だと、手からこぼれてしまうものがたくさんあるのです。
弱音や甘えとされてきた声や無視されてきた思いも、切り捨てずきちんと拾ってゆく必要があります。特に共に働く人、暮らす人のそれはとっても大事。「くだらない、取るに足らない」ことなど何もないのです。
アンミカさんの「白って200色あんねん」は笑いとともに名言化されてますが、真面目な話、これからはそういうとらえ方や気の配り方が必要な気がします。
コピーライター 近藤あゆみ
Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。