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矮小化されるEC業界

何となく感じる景色の違い
ご存じの方は多いと思いますが、私は前職時代7年に亘って経済産業省の電子商取引市場調査を担当してまいりました。そしてその活動を通じEC業界を俯瞰してきたわけですが、思うことあって2022年1月に独立し、今に至ります。実は独立後まもなくして私は何か感覚の違いのようなものを感じるようになり、それが現在も続いています。当初はそれがいったい何なのか自分でもハッキリとは認識できませんでした。しかし時が経つにつれその感覚の違いが何なのか認識できるようになりました。

具体的に表現すると、自分の目に映るEC業界の景色が、前職時代に見えていたそれとは少し異なって見えるという感覚です。もっと具体的に言うと、EC業界が産業・社会から矮小化されているように私の目には映っています。

EC業界の矮小化とは何か
「矮小化」を辞書で調べると“実態よりも小さく見せること”とあります。EC業界が産業・社会から矮小化されているという表現を言い換えると、産業・社会がEC業界を実態よりも小さく見ているということです。「矮小化」ではなく「軽視」という表現が適しているようにも思えるのですが、軽視には軽んじるというやや見下し感が含まれますので、(実際には軽視している人は多いとも思うのですが)ネガティブ感が強い言葉のチョイスは良くないとも感じ「矮小化」と言う表現を当てはめてみた次第です(とはいえこれもネガティブワードの分類かもしれませんが)。

独立してEC業界にドップリと身を置き新たな立ち位置でEC業界を俯瞰しておりますが、ECというものがどうも産業全体、社会全体の中で思ったほど重要視されていない、どうしても私はそう思えてなりません。

そう思う理由はやはりあの点
では矮小化されていると思うに至る理由は何なのかですが、究極は次の一点に尽きます。「EC化率が10%未満と低いこと」。“それを言っちゃあお終いよ”というツッコミが目に浮かびますが、実際にEC化率は低いので矮小は止むを得ずかもしれません。90%以上はリアルで商取引が展開されているので経済合理性に従えば、自ずと産業・社会はリアルを目指したくなります。

そもそもECが存在しない遥か昔から時間をかけて現在の流通構造が形成されてきたわけであり、その流通構造はリアルを中心に築きあげられています。ECはリアルを中心とした流通構造の上に乗っかっているに過ぎません。今の延長線上ではEC化率が急伸することは想像に難く、アフターコロナにおける人々のリアル回帰もあって「やっぱオムニチャネルが重要だよね」という空気感も漂っています。

テクニカルアプローチ
矮小化という点は一旦脇に置き、独立後に私が感じるEC業界の特性について率直に思うことを2点ほど触れさせていただきます。

一点目は「テクニカルなアプローチ」です。物事への対処方法はファンダメンタルに捉えて動くか、あるいはテクニカルに進めるかに二分できます。類似する表現としてストラテジックかオペレーショナルかという言葉に置き換えてよいかもしれません。EC業界ではテクニカルに物事を進める傾向が強いイメージを私は抱いています。それ自体決して悪いことではないのですが、あわせてそもそもどういうことを目指すべきかといったようなファンダメンタル(≒ストラテジック)なアプローチが思ったほど多くないように思えます。この点が私にとってEC業界がやや矮小な世界に見えてしまう一因でもあります。

人材の問題
2点目が人材の問題です。人材不足な世の中ではありますが、EC業界も例外ではなく決定的に人材が不足しています。これを単なる「世の中全体が人材不足だから」と割り切ってしまうのは良い考えとは思いません。優秀な人材は世の中にたくさん存在しているはずなのですが、EC業界への流入が少ないように思えます。

EC人材とはどういう人材なのか、どのような資質や能力が求められるのかといた定義も曖昧な気が致します。キャリア形成の明確なイメージの確立も重要でしょう。このような状態はもとを辿ればEC化率が低いことに端を発しEC業界が矮小化されているために生じている状態の様に思えてなりません。

EC市場規模の拡大に思いを託す
EC業界の矮小化をDXの観点で捉えた考察など個人的にもっと思うことがあるのですが、誌面の都合上ここまでとさせて頂きます。

いずれにせよ根本要因はEC化率が低い、つまりEC市場規模は大きいわけではないことに起因します。EC業界が矮小化されないためにはEC市場規模が今以上に拡大する必要があると私は思っています。

そうすれば優秀な人材が集まり多額の資本が投下されます。そうなることで“知”が磨かれ業界内でEC市場活性化のロジックに関する議論が活発化し、テクニカルアプローチだけではなくファンダメンタルなアプローチも加わり、よりスマートな世界が構築されるでしょう。

私は小さな存在ですが、そのようなEC業界になるよう微力ながら貢献していきたいと思うばかりです。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 本谷 知彦

株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役


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