見えてきた「クッキーレス時代」次の一手
ネット広告業界が震撼「クッキー廃止」の衝撃から半年
5月に寄稿させていただいた本誌記事「ネット広告の成果激減、iOS14.5 の衝撃と対策」では、iPhoneで始まった「クッキー時代の終わり」が招いている状況、たとえばFacebook広告やYouTube広告でリマーケティングできない、コンバージョン最適化の配信ができないなど、オンラインビジネスにとって死活問題となる致命的な現状と、対応しておくべき最低限の施策を詳しくご紹介しました。
あれから半年が経ち、早くも木枯らしが吹きすさぶ晩秋の2021年10月20日現在、日本国内ではiPhoneユーザの実質25%、つまりスマホ全体では12%程度が影響を受けていることになります。(下図参照)
iPhone14.5以降で表示されるATTプロンプトが表示されるユーザは全体の40%弱(appsflyer社調べ)
国内ユーザの60%は「拒否」をクリックしている(appsflyer社調べ)ので実質上図とあわせると25%となる
日本におけるiPhoneユーザは約40%強(モバイル社会白書2021年版)
こうした数字と明確な許可画面(オプトイン)からも「本当にcookie(クッキー)の時代は終わるの?」「一般人はそんなにクッキーなんて意識してないよ、大丈夫」という楽観的な考えもそろそろ捨て去る準備をしなければならないことがわかります。
cookie(クッキー)レス時代の覇者は誰だ?
現在、クッキーにかわる代替案として大きく期待されているのは次の3つです。
1)プライバシーサンドボックス:Google
2)Unified ID 2.0(ユニファイドID):The Trade Desk
3)各社独自のリストと技術:criteo社など
1)プライバシーサンドボックス:Google
わかりやすくクッキーと比較するために、Google プライバシーサンドボックスを3つ機能に分類すると
a) Floc(フロック):興味関心を特定する
b) TURTLEDOVE(タートルドーブ):リマーケティングリストやカスタムオーディエンスにかわる技術
c) Attribution Reporting API (旧 Conversion Measurement API):コンバージョンタグに変わる技術
となります。
a) Floc(フロック)
Google曰く、個人のプライバシーを侵害せずにあくまで「どの集団の一員なのか」に分類する、という技術になります。
:https://github.com/WICG/floc/issues
上図の場合、異なる2つのサイトを訪れた6名のユーザが、自動車、自転車、中古車、サイクリングなどのコンテンツをみた場合、ブラウザの履歴からそれぞれのユーザを
図内A:どのサイトを訪れたかで区分
図内B:どのコンテンツを見たかで区分
する方法が考えられますが、GoogleはBの手法を用いてユーザをどれか一つの集団(コホート)に区分しようとしています。この集団は、数千人単位の固まりとされており図の様な単一のカテゴリ区分では無く、食品・DIY・ニュースなどユーザが訪れたすべてのサイトを分析し、それぞれの「特長性」をもった集団(コホート)に区分しようとしています。
このコホート分類には、SimHashという複合化できない暗号技術(ハッシュ化)のひとつが使われいて、Flocに関する学習をすすめていると頻繁に登場するキーワードの一つでした。ブラウザ上のユーザ履歴をハッシュ化してGoogleだけが意味を理解できる形式でGoogle側のサーバで集積してユーザを集団に区分します。このため、FLoC「Federated Learning of Cohorts(共通する因子をもった集団コホートの連合学習)」と呼ばれているのはこのためです。
たとえば現在、GIthubによると、集団コホートは、前述の通り数千ユーザを1単位として約34の集団が形成されています。それぞれどのカテゴリにどの程度興味があるのかを、類似したSimHashの結果は類似した閲覧履歴を持つ、という特長性から集団化されています。たとえば、コホート17000の最後尾のSimHashは、コホート17001の最前列のSimHashと非常に似ています。 この「近さ」の特性を利用して、たとえば食品、というカテゴリで抽出すると、以下の様なグラフで表示することができます。
つまり、食品に興味があるがレシピにはあまり興味が無さそう、という母集団が矢印で指し示した箇所になります。「宅配ピザ」などはこの「自炊しなさそうだけど食べ物に興味がありそう」な母集団めがけて広告を掲載すると高いレスポンスが得られる可能性がある、という分けです。
Googleによれば、Cookieと比較して90%近い精度があるとのことですが、このFlocには障害もあり、日本語化された際の形態素解析などの精度が落ち着くまでに数年かかることも予想されます。また「シークレットモードでも追跡できてしまう」「マイクロソフト社のEdgeやFirefoxはFlocに否定的」など批判もありなかなか前途多難となっています。
たとえば、自分のブラウザが現在行われているGooogleのFlocのテストの実験対象かどうかをチェックするクラウドサービス(https://amifloced.org/)を立ちあげて、プライバシー侵害を訴える団体などがニュースやSNSを騒がせている状況です。
2)Unified ID 2.0(ユニファイドID):The Trade Desk
特徴
1)メールアドレスをハッシュ化してIDを付与
・利用者が明確に許可している(オプトイン)
・最初に一度ログインすれば良い
・ハッシュ化されたデータは https://prebid.org/ が管理
2)利用者はいつでも拒否できる(オプトアウト)
いわばfacebookログインやGoogleログインのように一度ログインすればよい技術です。GAFAと大きく異なるのは、独占された技術では無い「中立性」「統合性」にあります。GoogleプライバシーサンドボックスがGoogleChromeだけで機能するのに対して、ユニファイドID2.0(UID2.0)は、オープンソース化されているためブラウザを問わずどの企業でも自由に参加することができる統合性をもっており、ハッシュ化されたデータは https://prebid.org/ が中立性をもって管理する、という点で多くの企業などから支持されています。
具体的には、ユーザは一回ログインして承認していれば、異なるウェブサイトや広告配信業者を横断してもターゲティングやフリークエンシーなどの識別が実現可能になるというわけです。一方で、いつでも分かりやすい画面で機能の拒否(オプトアウト)などのプライバシー管理が可能となっています。
3)各社独自のリストと技術:criteo社など
一方で、Criteo社などの大手プラットフォームでは、すでに巨大なユーザリストとデータを自社で保有しているため、GoogleやUID2.0とあわせて自社リストを活用した新しい技術や概念、たとえば「コマースメディア・プラットフォーム」といった手法でテストを進めているようです。
現段階ではまだ模索中だが、併用を想定しながら進行。
実際には、1)プライバシーサンドボックス、2)Unified ID 2.0、3)criteo社などの独自回避策 を併用してゆくことが予想されますが、GAFAといった巨大企業による独占では無く、またUID2.0のように従来の技術の延長線上となる統合IDという発想でもなく、スタートアップ企業による「新たなクッキーレス時代の覇者」が現れるチャンスもまだまだ残されており、時代はどう動くのか分からないといったところでしょうか。
現実的にビジネスの現場がとるべき対策
これは5月の寄稿でもご説明しましたが、上記の技術はまだ発展途上です。Googleに関して言えば実行は2年先の2023年となっています。すでにATTプロンプトが実装されている以上、われわれオンラインビジネス側が先んじてできる対処として3つの方法をお薦めしていますので、本誌のバックナンバーからご確認下さい。
・facebookのドメイン認証
・YouTube広告のサイトワイドタグの実装
・LINEやSNSでエンゲージメントリストを確保しておく
JECCICA客員講師 宮松 利博
得意分野/Eコマースの立ち上げ・販売拡大
1998年に公開したフリーウェアがヒット。その知見で開発した商品が大手ECコンテストで12部門受賞、3年で年商20億円に(現ライザップ)。上場と同時に保有株を売却し、ECコンサルティング会社を立ちあげ、業界No.1クライアントを多数抱える。日本イーコマース学会専務理事。