大人市場に入り込む“おもちゃ”と、広がり続けるガチャ
キダルト消費とカプセルトイ60年を結ぶ視点
いま、玩具と大人の距離がこれほど縮まっている時代はありません。ここに時代の可能性を感じます。
少子化が深まり、子ども向けビジネスだけでは将来が描けなくなった1990年代以降、玩具は「子どものもの」から「大人が自分のために買うもの」へと、ゆっくりと姿を変えてきているのです。
こうした動きと歩調を合わせるように、カプセルトイ市場──いわゆる“ガチャ”──もまた、大人の文化へと溶け込み、現在では1400億円規模へと成長しています。
この二つはそれぞれが独立して伸びてきたわけではなく、互いを映し合うように進化してきたと言えます。大人市場に玩具が入り込むほど、ガチャは「日常の中に小さな遊び心を忍ばせる装置」として受け入れられ、その多様性は加速度的に広がってきました。
少子化が押し出した“おもちゃの大人化”
遡ること、90年代、日本は本格的な少子化時代に向かい始めました。
人口構造の変化は企業にとって危機であると同時に、新しい発想を求める転換点にもなりました。「子どもだけを対象にしていては、未来が描きにくい」という意識から、玩具は“大人も欲しくなるプロダクト”へと進化していきます。
精巧なフィギュア、復刻玩具、往年のヒーローを大人仕様でつくり直したシリーズなど、手に取りたくなるクオリティの商品が増えるにつれ、「玩具は卒業するもの」という固定観念は静かに崩れていきました。
アニメでも『トイ・ストーリー』や『エヴァンゲリオン』のように、世代を超えて語られる作品が登場し、大人が“物語を消費する主体”として前面に現れてきます。
こうして、大人と玩具の距離は一気に縮まっていきました。
ガチャは“日常の入り口”として大人市場に寄り添った
同じ時期、ガチャもまた、形を変えながら進化していきました。
かつては100円中心だった商品が、200円や300円と幅を広げ、ミニチュアとは思えない造形や彩色が施されることで、大人が「欲しい」と思える領域に近づいていったのです。
ただし、初期の大人向け施策は成功ばかりではありません。大学やイベントで大人層に向けた機械を展開しても、時代が追いつかず、期待した成果が得られなかった事例もありました。
それでも、こうした試行錯誤の蓄積が、大人とガチャの距離を少しずつ縮める土壌へとつながっていきます。
転機となったのは、SNSが生活の中心に入り込んだ2010年代です。
「今日こんなのが出ました」「駅で見つけてつい回しました」といった日常のささいな行動がオンラインで共有され、それが次の消費を生み、また人との会話のきっかけにもなりました。ガチャはいつの間にか「買うもの」ではなく、大人の生活に溶け込む“コミュニケーションツール”として機能するようになったのです。
“推し活”とSNSがつくる、新しい消費のかたち
いまの消費行動において、SNSは欠かせない存在です。
推し活文化が広がったことで、人は「誰かに見せたい」「語りたい」「共有したい」という欲求を持ち、消費そのものにストーリーを求めるようになりました。
ガチャはこの流れと非常に相性が良く、ランダム性やコレクション性、ミニチュア特有の“絵になる造形”が、自然とSNS文化と結びつきます。
そもそもガチャは「結果を誰かに見せたくなる構造」を持っていますが、SNSはそれを一気に可視化し、拡散させ、ガチャ文化を押し上げる後押しとなりました。
そしてこの構造は、ガチャ以外のプロダクトにも波及しています。
中国発のPOP MARTは、ブラインドボックスと高品質なフィギュアを武器に、世界中で“開封の瞬間を共有したくなる消費”を生み出しました。
こうした動きはすべて、「大人の日常に、小さな遊びを差し込む文化」が世界的に広がっていることを示唆しています。
EC・小売が学ぶべきは“理屈ではなく遊び心”の設計
ガチャもキダルト市場も、背景にあるのは一つの共通の事実です。
大人は合理性だけで動いているわけではなく、“小さなワクワク”を求めているということです。
企業はこの本質をどのように扱うべきでしょうか。
重要なのは、“ガチャを置くかどうか”ではなく、“遊び心”や“語りたくなる理由”を、商品やサービスの設計にどう組み込むかという視点です。バリエーションの設計、開封や選択のプロセスに物語性を持たせる工夫、SNSで共有したくなるデザイン──。
こうした仕掛けは、大人市場において決して些細なものではなく、商品と生活者の距離を縮める大切な“入口”として機能します。
大人が“好き”を表現する手段として玩具が進化し、その周辺でガチャが広がっていきました。
この現象は、ECや小売にとって「生活者に小さな遊び場をどう提供するか」という問いそのものです。
大人市場が広がる理由は、いつも“生活者の熱量”にある
ガチャ市場が60年間で文化へと育ち、キダルト消費が当たり前になり、世界ではPOP MARTが台頭し、日用品までもが“推し化”していく──。
それらはすべて、生活者の側にあった“楽しみたい”という素朴な感情が、プロダクトを通して形になった結果です。
数字の成長を追うだけでは見えませんが、市場を押し広げるのはいつだって生活者が持つ小さな熱量であり、企業がすべきことは、その熱量とどう共鳴し、どう形にしていくかということに尽きます。
ガチャとキダルト市場は、その答えを静かに示しているのだと思います。
今日はこの辺で。

JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役