リアルのDXに必要な事はリアルの現場が一番わかっている
リアルはリアルで完結するDX
リアルの現場もデジタルの要素を取り入れて進化しています。先日、リテールテックというイベントに伺って特に「リアルはリアルで」完結させようとする姿が印象に残りました。
昨今、経済圏などのデジタル企業が自らの影響力を拡大させるのと引き換えに、リアル店舗に、プラットフォームを提供してコストを抑えて、DXを推進する動きが少なくありません。それ自体は歓迎すべき進化ですが、同時に実店舗も経済圏などに依存しすぎてしまうのも良くなく、故にECでの文脈同様に独り立ちする事も大事だと考えます。
加えて、リアルな店舗は仕入れをベースにして、代々伝わる商習慣を大事にしてきているから、その構造をより良く変えていけるのも彼らであり、それにはメーカーを巻き込み、大局的に考え、進める必要があって、そこに直結する話です。
スマートカートでお客様を知る
具体的には、Retail AIという会社が、スマートカートから始まる様々な取り組みをしています。カートはセンサーを使ってJANコードを読み取り、会計を楽にする動きがあって、それはお馴染みですが、モニターがついていて購入履歴に基づくレコメンドをします。一緒にクーポン機能もつけて購入を促し、客単価を向上させます。
また、このクーポンが会員組織の土台となり、そのお客様の住所から距離ごとに客単価がどうなっているか割り出すなどできるようにしているとともに、商品単位でも何と何を合わせて買う傾向があるのかを分析できるようにしています。
まるでECだなと。ただ、大事なのはデジタル系の経済圏を活用することなく、独自にやれていること。それができるのはRetail AIという会社が「TRIAL」という実店舗を持つ企業の関連会社だからです。
実際の店舗での仮説と検証に基づき、成果が見られたものをサービス化して、それをシステムとして提供しています。実店舗においてはそれを活用することのメリットが大きいのでプラットフォームとして提供するのです。
広く小売を変えていけるのは実はリアルでは?
先ほど、クーポンの話をしましたが、僕が思うに、ただそれを単体で「要素として取り付ける」のでは意味がありません。全体の業務の中で、どのような意味を持つかが大事です。
その点、彼らがその購買データに関して、小売店は勿論、メーカーへのシェアも意図していることに着目しました。つまり、購買データに関する細かな情報が両方に対しオープンになるので、必然的に小売店は余剰在庫を抱えませんし、メーカーも売れる数量、仕掛けを理解しているから、余分に生産することもないのです。
メーカーにとっては大量生産ではなくなるので確かに単価自体は高くはなるでしょうが、必要な数量を必要なだけ生産しているので、粗利は高くなります。
だから、その粗利を踏まえて店がクーポンでの利用を促すほど、店の継続顧客は安定しますから、まわりまわって、メーカーの利するところになって、それを勘案して、店舗と向き合うはずです。リアルはリアルで自らの知見を結集して、流通の構造も改革して、DXの推進ができます。お互いが共存する為に、クーポンが存在している。この見方が大事です。
場所という概念を超え場所が価値を持つ
それができるのも、現場を知っているからこそでしょう。
他にも、ダン:サイエンスという会社が提供していた「S_mart」というサービスは面白くて、要は巨大なディスプレイです。よく駅などで、自動販売機がリアルなものではなく、ディスプレイになっていることがありませんか。あのイメージに近いです。
10坪程度、あれば、その巨大ディスプレイを設置できるので、その場所の利用価値を、これで高めようというわけです。ディスプレイはシステムにより、一瞬でその内容を変更できますので、実際のものを陳列するより、かかるコストが抑えられます。
昨日までは食料品、今日からは家電というような売り方すら可能です。同社がいうには、それで「販売代行」すればいいと。例えば、先週は「北海道物産展」で今週は「九州美味いもの展」などすれば、近隣の人が興味を示す傾向が高く、利用の幅が広がります。
リアルがダメではなく知恵がないだけ
ディスプレイはタッチパネルで購入するので、買う商品を決めたら、番号が割り当てられ、お店のレジに持っていくだけです。裏で少量、必要なだけ抱えて渡せばいいし、極端な話、そこで手渡しする必要すらありません。倉庫で一括して保管しておいて、それを発送すればいい。九州美味いもの展であれば、それを地方から直送してもいいですよね。
要は、今挙げたようにリアルのメリットをデジタルで引き立たせることが大事で、その為には、デジタルだけを見るのではありません。見るべきは、実は、リアル事業の仕組みやフローの方かもしれなくて、そこを変えていくことの重要さがあります。
大事なのはECであれ、リアルであれ、それ自体の価値を、デジタルに変えていくことで、どう顧客満足度を上げ、生産性を高めるのか、という視点だから、DXにおいて一番、抑えるべき本質は現場を見据えることなのではないかと思い、やっぱり餅は餅屋ではないかと考えるのです。
JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役