NewsPicksで「ベーシックインカム」が炎上寸前に。
昨年のコラムで「AIと共に語られるベーシックインカムとは」を投稿して間もなく、新年早々ソーシャルニュースメディアの「NewsPicks(ニューズピックス)」で、おそらく初めてベーシックインカムの話題が盛り上がり、炎上の一歩手前のような状態になっていました。
そもそも、NewsPicksというメディアをご存じない方もいらっしゃるかもしれませんので少し説明をさせていただきますと「もっと自由な経済紙を」という触れ込みで、ネットやテクノロジー、政治経済・金融マーケットなどのニュースが配信されるいわゆるキュレーション・ニュースサイトです。スマホアプリで閲覧されている方もいらっしゃると思います。私も、自分だけの検索ワードを追加してRSSリーダー代わりにしているので、FacebookよりNewsPicksを見る時間のほうが多いですし、通常のニュースサイトと違い、記事ごとに「ピッカー」と呼ばれるユーザがコメントしていて、これが面白いんです。と書くと、NewsPicksさんからお金をもらってステルスマーケしているように見えますが、あくまで私の率直な意見です。
ニュースのコメントなら、Yahooにもありますが、NewsPicksの場合は、その分野の専門家や官僚、弁護士・社長や役職上層部・著名人などが「実名でコメント」しているので、コメント自体の責任と信憑性が「ある程度」は担保されています。当然、各自のコメントには偏見、誤解、思想が偏っている、などのケースもあるので、そこは自分でニュースの背景を事前に勉強しておくなどして、コメント自体を正しく読み解く力は必要です。ただ、なんといっても、ニュースの見出しと人気コメントだけにさらっと目を通せばおおよその内容がつかめるので、短時間で大量のニュースコンテンツを消化できる点は嬉しい限りです。弊社のクライアントさんと話していても「情報通のクチうるさいオッサンが集うニュースSNSだよね」なんて語られることもあるサービスで、辛辣な意見も多く飛び交います。
で、そのNewsPicksで、前回のコラムでご紹介した『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 (文春新書) 』の著者である、井上智洋 氏のインタビュー記事が掲載された途端に、炎上寸前の状態になっていました。記事の内容自体は、人工知能が人間の職を奪うレベルになったとき、失業者の生活を資金面で支える制度としてベーシックインカムが必要になる、という内容でした。ただ、1点、記事中に、「VRに耽溺して遊んで暮らせる」というくだりがあり、VRの波にチョイノリしてやろうという井上 智洋氏のイタズラ感は、氏をよくご存じない方からの誤解を招くかな、と思っていた矢先でした。影響力を持つ人気ピッカー達に「遊んで暮らせるというベーシックインカムは妄想」「月に数万円でどうやって暮らしてゆくのか」「前提条件が甘いんじゃないか、実際に試算してみた。」などと否定的なコメントをされてしまい、同調したユーザが多く集まり始めたのです。このままコメント数が100、200と増えてくると、いわゆる「炎上」と呼ばれる現象に繋がりかねません。
事実、NewsPicksでも炎上事案は過去数々ありました。ですが、執筆者やネットメディアで発言する方なら、多少の炎上は経験されているはずですし、そんなことは覚悟の上だとおもいます。ただ、今回のケースは、人気ピッカーのコメントだけを鵜呑みにして、ニュース本文を読んでいなかったり、背景を知らないピッカー達が偏った論調を生んでしまうという、NewsPicksの便利な面が仇となった格好でした。個人的にもあまり良くない現象だな、と感じていましたが、心配をよそに1日もすると肯定否定が半々くらいで落ち着き鎮火していました。否定論のピッカーさん達が根拠とした「試算」には、欠けてる要素もあり、頭ごなしにベーシックインカムの可能性を否定するに足らなかった一方で、たしかに突然ベーシックインカムとかいわれたらそうなるよな、と同感もしました。
要は、失業者が生活して行けるだけの充分な金額は、ベーシックインカムだけで補填できるのか、という点が今回のNewsPikcs上での主な論点。確かに1家庭あたり数万円程度なら、生活レベルは下がりますし、消費も冷え込む、EC業界にとっても痛いお話です。でも、ベーシックインカムの原資となるお金を生む「企業」の立場で考えれば、汎用レベルのAIで代替される人件費は、今の人件費よりも更に下がります。作業効率も高まるので収益を増やすこともできます。これは現在でも、社内業務をクラウドなどで自動化されているなら容易に想像できるでしょう。加えて、企業も国も「消費」を活性化させる仕組みもセットで考えますから、それら増収分の税金や税制の変更なども試算に加えると、あながち机上の空論でもないように思われます。このあたりは、専門家のかたでもまだ結論は出せていないようですし、わたしたちも勉強が必要だと思います。もう少し時間をかけて議論されるべき話題なんでしょうね。
ただ、1点、今回の炎上寸前事件ではっきり感じたことは、遊んで暮らすなんて抵抗がある、という大前提です。個人的には、救済措置の「一部分」としてベーシックインカムを模索しながら、一方では、AIやロボットに仕事を任せた分、拘束時間が緩和された労働環境が創出できるはずなので、今までと同じ収入で、余暇など今までより豊かに暮らせる社会ができるはずです。重要なのは「汗水して所得を得る」という根本さえ変えなければ、勤勉といわれる日本人でもベーシックインカムを受け入れられるのではないでしょうか。
株式会社ISSUN 代表取締役 宮松利博
営業時代に独自開発した顧客満足向上システムで業績を伸ばし1997年にシステムを売却。その後、ECを立上げ初年度月商1億まで急成長するも直前で上場に失敗。翌年、新たなECを立上げ3年で年商20億円に成長、株式上場の同年に保有株を売却し海外視察の後、2011年「小よく”巨”を制す」を掲げて現ISSUNを立上げ。WEB/ECの運営・制作・コンサルティングで、業界No.1に成長するクライアントを多数抱える。