コンビニが“場”になる時代へ──ローソン×KDDIが描く、“新しい日常”の始まり
ローソンとKDDIの共同会見で感じた“二つの革新”
なんだか、時代の変化をひしひしと感じています。先日、ローソンとKDDIの共同記者会見に足を運びました。会場は、JR高輪ゲートウェイ駅のすぐそば。発表されたのは「ローソン Real × Tech Convenience1号店」という、新たなコンビニの形を打ち出す構想でした。
この話を聞いていて、特に印象に残ったのが、企業の変容とAIを駆使した新しい働き方の追求という二つの視点です。とりわけ、企業の変容を体現しているのがローソンそのものでした。従来型のコンビニからの脱却を本気で目指していて、「快適さ」の基準自体が変わりつつあると感じました。
リアル拠点の進化系
思うに、店舗全体にデジタルを張り巡らせて、人々の潜在的なニーズを読み取り、先回りして応える──そんな姿勢がそこにはありました。これこそが、リアル拠点の進化形だと感じたのです。人々が行動する現場で、そのログを蓄積し、まるでECのように「どの行動が何に結びついたか」を可視化していく。
重要なのは、“個人を識別する”のではなく、“行動を軸に最適化する”という発想です。
たとえば、おにぎり棚の上にあるサイネージや、天井のカメラ。商品を手に取る動作をAIが認識し、最適な商品をサイネージでレコメンドする。入り口のカメラも属性情報を捉え、全体の行動データと照合します。
つまり目指しているのは、「個人対応」ではなく、「商品単位のレコメンドを通じた行動理解」──それを起点に、店舗全体の最適解を導き出すことなのです。
スタッフに求められることの変容
この考え方は、バックヤードの設計にも及んでいます。店内のカメラやAIが商品同士の相性や売れ行きを分析し、最適な商品配置を導く環境が整えられている。
でも、最後に判断するのはあくまで“人”。
「デジタルが接客する」のではなく、「人が接客する」。
デジタルは人を超えるのではなく、支える存在として機能しているのです。人はそのデータを手にしながら、より良い接客や店舗の在り方を模索していく。
この「箱を磨く」という発想こそが、最終的に“人”への最適な提案へとつながっていくのです。
生活により密着することが未来の「便利さ」
さらに、この動きは単なる店舗の効率化にとどまりません。ローソンを生活の拠点として位置づけようとする姿勢が、より鮮明になっています。
かつて街の電気屋が担っていたような、日常の相談窓口的な役割を、これからはコンビニが担う──その象徴が「よろず相談」の仕組みです。健康、暮らし、資産運用など、幅広い相談に応じるための一人用個室も用意されており、表向きは人との対話ですが、裏側ではAIが対話を支え、パーソナライズされた相談空間を実現しています。
デジタルで「答え」を得て、リアルで「納得」する。その往復運動が、新しい店舗の価値を生み出しているのです。
KDDIがここまでローソンに打ち込む理由
では、なぜKDDIはそこまでしてローソンを傘下に置き、リアルインフラにこだわったのか?その答えは──「街の変革」です。
思えば、KDDIはこれまでも“街”を作ってきた企業です。たとえば電話線。物理的なインフラで街を支えてきました。しかし現代においては、それだけでは街の利便性は成立しない。
これから必要なのは、人と情報がつながり、データが行き交う「デジタルの網」です。そのハブとして選ばれたのがローソン。
テクノロジーを搭載したコンビニが人々の生活導線とつながることで、街全体のインフラの一部として機能し始めます。特に「よろず相談」のような、心の拠り所となる機能は、街の中でのコンビニの役割を一変させます。
人々の行動が可視化されれば、その街に必要なことが何かも見えてくる
ローソンのデジタル化は、街のデジタル化へ
KDDIは、まずローソンにデジタルを張り巡らせますが、その情報活用は店内だけにとどまらず、街全体へと広がっていきます。たとえば「ドローン配送」。
すでにKDDIの関連会社で実証実験が進んでおり、ローソンが地域の信頼拠点として機能するほど、こうした技術の導入も現実味を帯びてくる。スマホの中だけで完結させるのではなく、リアルな拠点──ローソンを“通信の出口”として位置づける。
「Ponta」の導線も、単なるポイント戦略ではなく、ローソンへの自然な導線をつくり、行動ログを蓄積するための“仕組み”として設計されています。
KDDIが重視するのは、自前主義による垂直統合。だからこそ、ローソンをグループに迎え、通信・データ・IoT・AIのすべてを内包した街の構築を目指しているのです。
今回、その第一歩が高輪ゲートウェイで始まったのも象徴的です。この街は、JR東日本が“駅”ではなく“街”を運営する構想を掲げており、KDDIは本社をここに置き、ローソンの実験店舗もここに置いた。
つまり、テクノロジーと街の未来が交差する場所に、構想を可視化しているのです。
こうして見ると、この取り組みは単なる「コンビニの進化」ではありません。リアルとデジタル、通信と暮らし、その境界をなめらかに溶かしていく構想そのものなのです。
今日はこの辺で。

JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役