越境ECとフィンテック(第二回)
(アント・フィナンシャルサービスグループの電子マネー決済が東南アジアに拡大)
ジェイグラブ株式会社 山田彰彦
越境ECに興味のある方、また実践されている方から最近フィンテックについてご質問、ご相談を受けるケースが増えております。前回は成長の著しいインド向けの越境ECとフィンテック事情をお伝えしましたが、今回はアリババの電子マネー決済がマレーシア拡大している最新事情をお伝えします。
アリババ傘下の金融会社、アント・フィナンシャルサービスグループ(中国名:蚂蚁金服、旧称:Alipay)は、中国で電子マネー、アリペイを展開しています。そもそも中国では与信と言う発想が普及しておらず、その為、中国『銀聯カード』の大部分がデビットカード(預金口座と紐付けられた決済用カードで一般的に銀行が発行し、このカードで決済すると代金が即時に口座から引き落とされる仕組み)であり、クレジットカードはわずか5%程度しか普及していません。
このクレジットカードが未だ普及していない点(与信と言う発想が遅れている点)は東南アジアも同様です。その為、東南アジアでもアリペイに類似した地場の電子マネーが普及し始めています。尚、アリペイや東南アジアの電子マネーは日本国内のICカード型電子マネーと異なり、お金をクラウドサービス上に置く『サーバー型電子マネー』です。
WebMoney、BitCashなど「サーバー型」と呼ばれるものは、プラスチック製のカードを作らずインターネット上のサーバーで現金に相当する通貨価値が管理されておりオンラインショッピングでの利用や、オンラインゲームの支払いとしての利用が急増しています。
サーバー型電子マネーの使い方には以下のようなものがあります。
(1) コンビニエンスストアで、一定の現金を支払ってID番号の書かれたシートを購入し、そのID番号をパソコン等に入力することで支払いが完了する。
(2) オンライン上での「ウォレット」と呼ばれる仮想のサイフに一定額をチャージしておき、必要な時に利用する。チャージは、クレジットカード、コンビニ収納などの方法がある。
サーバー型電子マネーは、ネットショッピングなどでは便利な決済手段で利用も急増していますが、手軽な反面、“サクラサイト”など悪質なサイトにおいて、決済手段に利用され始めています。
アリババは2016年、ドイツ企業が設立した東南アジアのアマゾンとも言われ、eコマース事業の先陣でもある新興系eコマース企業「ラザダ(Lazada)」は、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、インドネシア、マレーシアの6か国で事業を展開しており、「ラザダ・グループ(Lazada)」の経営権をアリババが取得、アマゾンよりも一足先に東南アジアのeコマース市場を抑えにかかるために、さらに10億ドル(約1120億円)の追加投資を行い、保有株比率を83%に引き上げロケット・インターネットからラザダの経営権を取得しています。アリババの中国での主要なライバルであるJD.com(京東グループ)や、Amazon.comとの戦いも見据え先手を打ったといっても過言ではありません。
取得価額に基づくラザダの企業価値は31億5000万ドル相当で、アリババ以外の株主は経営陣とテマセク・ホールディングスのみになり、ラザダの開示では出資者にイギリスのスーパーマーケット運営会社『テスコ』と、スウェーデンの投資会社『キネビック』が含まれています。
アント・フィナンシャルグループも、電子マネーのAlipay(アリペイ)の利用者をアジア全域で獲得していく戦略で、今後5年から10年でアリペイ関連サービスの利用者数を20億人にまで増やす予定です。
既に2016年にはタイ最大の財閥であるチャロン・ポカパン(CP)グループと提携して、CPグループのアセンドが発行している電子マネー『トウルーマネー』と『アリペイ』のサービス連携が始まっています。(アント・フィナンシャルがアセンド株式の20%を取得)
今年4月、アント・フィナンシャルグループは、インドネシアのメディア複合企業とも提携して、同国の電子マネー市場に進出、2015年にはアント・フィナンシャルグループのアリババと共に、インド最大のモバイル決済サービスの電子マネー『Paytm』の株式を取得しています。また韓国では、メッセージ・サービスLINEのライバルである、カカオの決済サービス『カカオペイ』をアント・フィナンシャルグループとの合併会社として独立させています。
2017年7月にはマレーシアに進出、金融大手のCIMBグループと合弁会社を設立、個人や中小企業が買い物などの際に手軽につかえる電子マネー・サービスを開始しており、今回マレーシア新電子マネーの名前をアリペイにするかどうかを検討中とも言われています。
東南アジアをはじめとするアジア市場において、合併会社の形態で、アリババと共にアリペイのサービスを拡大し、クレジットカードの普及遅れの隙間を狙ってeコマース市場を抑えにかかっています。サーバー型電子マネー『アリペイ』のサービスでは、eコマース市場だけではなく、物理店舗の決済も対象にしていることから消費者行動が明確になり、アリババはeコマース市場における様々な提案ができるでしょう。
東南アジアなどの顧客にはクレジットカードが普及していませんので当然、国内初の越境ECにおいても早晩、アリペイなどの決済活用はペイパルと並ぶ重要な決済手段、テーマとなっていくでしょう。
モデレーター:ジェイグラブ株式会社 代表取締役 山田 彰彦
<モデレーター略歴>
イーベイ・ジャパン創業メンバーとして参画後、ヤフー株式会社でヤフオク!事業部の企画運営、不正対策、B2C事業、海外事業など一貫してEC事業に携わり、
2010年ジェイグラブ株式会社を創業。中小機構越境EC専任講師、中小企業庁ミラサポ専門家、越境EC復興支援プロジェクトなど全国で講演やセミナー、勉強会などを行っている