楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.63 「間違いだらけ」のシニアマーケティング② 【失敗招く「60歳以上十把一絡げ」】
「年齢を重ねた真の大人=シニア」は何故セグメンテーションされない?
前回のコラムで、ビデオリサーチの視聴率調査年齢区分が50歳以上は一括りの件や、某保険会社の「シニアの生活意識調査」対象は、全国のシニア(50歳~79歳)男女1,000名と、親子ほど年齢差がある人が一括りにされているなどの例をお伝えしました。どうしてこのような状況になるのか?それは日本には欧米に比較してビジネスも雇用も「若いことが良い」という固定観念が強いという前提があると私は思うのです。
昭和44年に放送開始したサザエさんのお父さん磯野波平さんは54歳です。(今だと福山雅治さんが54歳です。)当時の会社員は55歳定年。そして男性の平均寿命は69歳でした。これまで一生のライフステージは、生まれて20年勉強して40年間働き、その後は退職金と年金で老後・余生をのんびり過ごすという、確約された生活が保障されていました。実際に若い世代の人口が多く、若い世代が中心となり、経済そして社会を動かしていました。ところが今は、少子高齢化や社会保障制度も行き詰まり、来年の2014年は日本の人口が50歳以上過半数になります。もう60歳以上を「アクティブシニア」という漠然としたセグメントで括るのは無理があり、ビジネスでも失敗を招きます。
私はターゲットを属性ではなく、「ニーズ」で括るとお伝えして来ました。そういう意味では年代を区切るセグメンテーションは疑問に感じることもあるのですが、とは言え生まれた時代背景、そして今現在の年齢で価値観や消費行動に特徴があることは確かなので、年齢を重ねた「真の大人」を3世代に分けてご説明します。※人口は2022年10月1日:総務省統計局データ、カッコ内は全人口比率。
①「戦前・戦中世代」現在77歳以上⇒1,575万人(12.6%)
セグメント①は、昭和20年以前に生まれた「戦前・戦中世代」です。現在77歳以上の後期高齢者世代です。私の親は昭和9年と11年でこの世代に入ります。幼少期に戦争体験を経て戦後の復興とともに社会人になり、1960年代から始まる日本の高度経済成長に尽力した世代です。戦後の物(モノ)がない時代を体験していることから、消費には慎重で「必要なモノを買い、長く大切にする」世代でもあります。また青春時代の娯楽も少なく、大衆娯楽は映画くらいでした。遊ぶことは明治や大正生まれの親から「不良」扱いされており、「遊ぶ術を知らない」世代でもあります。この世代の多くは80歳を超えており、要介護認定を受けている人も少なくありません。また消費意欲も年齢とともに低下し、デジタルリテラシーが低い人も多いので、ビジネスを行う際のセグメントとしての魅力度は低くなると言わざるを得ません。
※厚生労働省によると、2020年度の要介護(要支援)認定者数は約682万人となり、前年度に比べ約2.0%増加。公的介護保険制度がスタートした2000年度の認定者数約256万人と比較して約2.66倍増加。(全世代対象)
②「団塊・ポスト団塊世代」現在68歳~77歳⇒1,530万人(12.2%)
セグメント②は、昭和20年代に生まれた「団塊・ポスト団塊世代」です。現在68歳から77歳で、多くは前期高齢者です。この世代が社会人になった1970年代は日本市場も成熟期。モノが普及して、彼らの家族は「ニューファミリー」と言われました。そして、「もっと良いモノが欲しい」という欲求から、マーケティングは差別化が始まり、付加価値のある製品やイメージを訴求する広告が生まれます。特に団塊世代は進学や就職、昇進など競争を強いられる程に人口が多く、若い頃はアメリカを中心としたカルチャーを積極的に取り入れ、ミニスカートやジーンズを履いたり、ビートルズやローリング・ストーンズを聴いたり、エレキギターを弾いたりして若者文化を創りました。しかし遊びに行く場所(コト)はまだ限られており、当時盛んだった学生運動のデモ行進に参加したり、フォーク集会に参加したり。そうした経験がある男性はその後に競争意識が強い企業戦士となったため、遊ぶ術を知らない人が多数派です。一方で女性は雑誌「an・an、non・no」の影響を受けた「アンノン族」に代表される、新たな遊び方とライフスタイルを男性より先駆けて実践します。現在のシニア市場はこの世代の影響力が強いため、「女性のほうがアクティブ」と見られています。
③「ABS世代」現在54歳~68歳⇒2,160万人(17.3%)
セグメント③は、昭和30年から43年に生まれた、現在54歳から68歳で、いわゆるプレシニアです。この世代を私は、若い頃にバブルの影響を色濃く受けた世代ということで、「ABS(アクティブ・バブル・シニア)世代」と命名し、現在は情報発信やマーケティングコンサルティングを行っています。この世代は物心ついた頃からテレビがあり、テレビの影響を色濃く受けます。マンガやプロ野球、そしてアイドルなどの芸能人も、多くはテレビから入ってきました。また庶民の憧れ「三種の神器~冷蔵庫・洗濯機・テレビ」や「3C~カラーテレビ・クーラー・カー(自家用車)」も、幼少期から既にある世帯が多く、モノには恵まれていました。大学進学率も向上し、雑誌「JJ」や「POPEYE」などをバイブルにお洒落をして、「スキー・サーフィン・テニス・ディスコ・合コン・・」など、多くの若者が遊び、やがて社会に出るとバブルを体験します。上の世代に比較して「遊ぶ術」を知っている世代ですが、終身雇用時代に就職した一方で、途中から雇用の在り方が大きく変わり、また人生100年時代と言われて、この先の不安を抱えている世代でもあります。
ABS世代の主観年齢は「二極化」している!
前回お話ししたように、2020年1月に首都圏在住のABS世代「50歳~64歳男女500名」に実施したアンケート調査では、主観年齢は平均「マイナス6歳」で、また「マイナス10歳から20歳」と回答した人も半数近くおり、年齢相応と感じている人と、年齢より若いと感じている人が二極化しています。後者のセグメントは、実際は60歳でも40~50歳くらいの気持ちでいるのです。(※下記図参照)
昔、化粧品の広告制作時には「イメージターゲット」と言って、実年齢よりもマイナス10歳をイメージしてクリエイティブを創ったものでした。つまり同じ商材、例えばサプリメントを売りたい場合でも、実年齢相応に感じている人と、マイナスに感じている人では、クリエイティブは大きく異なります。必然的にイメージターゲットを設定して、クリエイティブの世界観を創ることが言うまでもありません。また年齢相応に感じているセグメントより、マイナスに感じているセグメントの方が、今までのシニアとは異なる「真の大人」のカルチャーやライフスタイル創造、新たな潜在市場、ブルーオーシャン掘り起こしの可能性もあるでしょう。これまでのような「シニア=高齢者=老人」の固定観念を外さないと、ビジネスが失敗することのみならず、大きなチャンスを逃すことは必然と言えますね。
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント