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楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.59 顧客はコンセプトを買っている①

実務で使えるコンセプトの意味とは?
「コンセプト」という言葉をビジネスやマーケティングの世界では良く使いますが、言葉の定義や意味が曖昧だったりして議論にズレが生じることが良くあります。「コンセプト」を辞書(大辞泉)で調べると「概念」とか「観念」、「創造された作品や商品の全体につらぬかれた骨格となる発想や観点」とありますが、とても抽象的ですね。そこで私は実務で使えるコンセプトを「顧客に対する価値」と定義付けています。何故ならマーケティングは「顧客のニーズを満たす価値」を提供することが、対価を得るために一番肝要だからです。顧客ニーズを発見して、ニーズを満たす価値を自社のモノやサービスにどのように具現化するかが、ビジネスやマーケティングを成功させる要です。

ニーズの発見からスタート
当コラムでは度々ニーズの解釈の重要性をお伝えしています。何故ならユニークなコンセプト抽出の出発点は、顧客ニーズを満たすことが第一歩だからです。「炎天下の砂漠をさまよう、汗だくの男性のニーズは?」とセミナー等で聞くと、80%ほどの方は「水」と答えます。他には「日陰、移動手段」などです。答えはいずれも不正解です。水をはじめとしたこれらの答えは、ニーズを満たす手段である「ウォンツ」だからです。ではニーズは何かというと、現状と理想の間に介在するギャップ、つまり「こうありたい、こうなりたい」という欲求を意味します。従ってこの場合は「一刻も早く喉の渇きを潤して楽になりたい」がニーズであり、この目的を満たす手段が、ウォンツである「水」となる訳です。

不満を解決するちょっとした工夫で大ヒット!
実際にあった事例です。お酢や納豆で有名なメーカー「ミツカン」が、納豆のフタを二つ折りにすると、たれと辛子がワンタッチで開封出来る納豆を発売して大ヒット商品となりました。ヒットの理由は「不満」を解消したこと。その不満とは、たれと辛子が入った袋が破れにくく手間がかかり、最悪の場合には服を汚してしまうことに対して、90%程の顧客が不満をもっていたことを調査で把握し、この不満を解消して「忙しい時(朝の食卓)でもワンタッチでさっと食べられる納豆」というコンセプトを抽出し提案したことにあります。私はコンセプト抽出の分かりやすい言葉として「不の字解決」とお伝えしています。「不満・不安・不便・不信・不自由・・」など、「不の字」があるところには必ず顕在化されたニーズがあります。顕在ニーズとは、この事例であれば「袋が破りにくいから不便、もっと簡単に開封したい」と、顧客が明言化しているニーズです。不の字を別の言葉でいうと、昔から「悩み解決」と言いますし、最近では顕在ニーズを「ペインポイント(Pain=痛み⇒コストをかけてでも解決したい問題や悩み)」と言って、マーケティングの現場で良く使われています。

商品名を変えただけで新たな需要を喚起し大ヒット!
これも実際にあった事例です。無印良品が「軽くてシワにならないメンズ用カジュアルジャケット」を発売しました。「軽くてシワにならない機能は、絶対にお客さんに喜んでもらえる!」と、売れる商品として自信があったようですが結果は思わしくなく、一旦店頭から消えることになりました。そこで商品部は考えました。「軽くてシワにならない機能は、どんな人にとって価値があるのか?」、そして導いた答えは「海外旅行に出かける人」でした。つまり軽くてシワにならない機能は、折りたたんでスーツケースに入れられ、現地で直ぐに着られる価値です。そして同じジャケットの商品名を変えて「旅に便利なジャケット」として再発売し、海外旅行者に新たな提案をしたところ、大ヒット商品となりました。

この場合、顧客はこれまで特段の「不の字」は無くても、「貴方にとって更に便利な、貴方が知らないこんな価値がありますよ!」と提案して気づかせることで、潜在ニーズを喚起している成功事例です。この場合の潜在ニーズを「ゲインポイント(Gain=得る・増やす⇒こんなことが出来るの!こんな場所があるの!こんなにワクワク出来るの!)」と言って、「Pain」と対の言葉「Gain」を用いてこのように使われています。

「誰が?どんな価値を得られるか?」が大切!
コンセプトは「顧客に対する価値」とお話ししましたが、世の中でヒットしているモノやサービスは、必ず下記のコンセプトの要素が明快でユニークです。

・誰が使う?⇒どんなニーズを持つ人?
・どんなTPOで使う?⇒どんな時、どんな場所、どんな状況で使う?
・どんな価値?⇒どんな恩恵を受ける?どんなハッピーがある?先ほどの無印良品の事例は、
・「軽くてシワにならないジャケット」⇒単なる機能⇒売り手の言葉
・「旅に便利なジャケット」⇒コンセプト⇒買い手の言葉

旅に便利なジャケットは、「誰が使うと、どんな価値があるか?」が明確であり、その商品の独自性や差別化要素がはっきりしています。またニーズはペインポイントを解決する「顕在ニーズ」と、ゲインポイントを解決する「潜在ニーズ」の双方があります。顕在ニーズは顧客が明言化していますので、市場調査や今までのデータから導くことが出来ますが、潜在ニーズは顧客が明言化していない、つまり教えてはくれませんから、作り手、売り手である「人間の仮説」が重要になります。

仮説は、「こんなモノがあれば、こんなサービスがあれば、ユニークでワクワクするな!人が笑顔になれるな!」と自分がまず思うことです。そのためには自社の業界のみならず、世の中の動向に興味と好奇心を持ち、人間観察することは何時の時代にも重要です。

次回は、ユニークなコンセプトで大ヒットした事例、ビックビジネスになった事例を幾つかご紹介します。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 鈴木 準

株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント


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