日本の“当たり前”が世界の物語になる
現場で生まれた熱狂を、世界への“入口”に変える
最近、日本の価値について改めて考える機会がありました。
かつては「ものづくりの国」と呼ばれ、その認識は今も根強いのですが、時代の変化とともにリスペクトの対象は少しずつ移り変わっています。今、世界が注目しているのは、日本の生活や文化、そしてコンテンツそのもの。僕らはそろそろ、そこに適応する必要があるのではないでしょうか。
その象徴のひとつが、ロサンゼルスで開催されるAnime Expoです。
41万人もの来場者が集まり、会場はSNSで瞬時に増幅される歓声で満ちていました。任天堂のレトロゲームに長蛇の列ができ、日本の学校の教室や電車の中を再現したブースに大人が並んで写真を撮る──僕らにとっては日常の断片が、異国ではファンタジーとして受け止められるのです。
ここで存在感を示したのがホビーショップ「あみあみ」。自社IPを持たない彼らは、他社コンテンツを束ねる力で、Anime Expoを通じて世界のファンを日本のECに呼び込む“ハブ”になっていました。
また、ECサイトの「Super Groupies」のように、キャラクターを“さりげなく”表現したアイテムも人気を集めています。露骨ではなく、日常に溶け込むからこそ、大人の可処分所得を静かに動かす。この構造は、ECに携わる私たちにとっても大きなヒントです。現場で生まれた熱狂をどうECに接続するか──それが日本に限らず、世界に羽ばたけるステージの入口になるのです。
企画・制作が“世界基準”になると起きること
では、世界で評価されている日本の価値とは何でしょうか。
その答えを示したのが、Netflixです。日本に上陸して10年、彼らは映像作品を“配信”という日常回路に置き、視聴習慣を根本から変えました。ドラマや映画がより触れやすい存在になった結果、評価されたのは“つくる姿勢”そのものでした。
地面師たちを手がけた、大根仁さんが驚いたのは「即断即決、脚本ファースト」の開発文化。
顔色を窺う相手がいないからこそ、自由な表現が許され、最大限の力が引き出されます。俳優・山田孝之さんは「日本語の芝居で世界に挑む」という覚悟を示しました。かつては英語を学び海外に出ることが前提でしたが、いまは日本にいながら作品を磨き、Netflixというグローバル基盤に乗せることで世界的評価を得ることが可能になったのです。
つまり、日本の価値観で挑むということなんです。
こうした挑戦が積み重なった結果、ファンの体験はコンテンツ→コミュニティ→コマースへと循環します。つまり「物語の拡張」が先にあり、ECはその“受け皿”になりうることも示しています。越境ECがじわり影響力を持っているのは、ここにも、日本のものづくり精神が形を変えて息づいていることを感じます。
たまごっち1億個が証明したこと
一方でもう一つ、日本のおもちゃが世界で改めて存在感を示しました。
東京おもちゃショー2025のバンダイブースで告げられた「たまごっち累計1億個突破」です。DJ KOOさんのビート、ロバート秋山さんのサンタ姿で会場が“夏のクリスマス”に切り替わり、その熱狂の中で数字がさらりと発表される。単なるニュースが祝祭に変わる瞬間でした。
驚くべきは、その半分以上が海外販売であること(アメリカ33%・ヨーロッパ16%)。親から子へ、そして孫へと受け継がれる“お世話する楽しさ”が、世界各地でも共鳴しているのです。
最新作「Tamagotchi Paradise」は通信機能を備え、家族や友人同士で楽しむ姿が広がっています。ここでも、日本の当たり前の遊びが、世界では特別な文化体験になっているのです。
思えば、渋谷のスクランブル交差点には常に外国人がスマホを構えています。僕らにとっては日常の風景が、海外の人にとっては特別な物語の舞台になる。たまごっちの事例は、この感覚をそのまま証明したのです。
次の10年、“当たり前”を編集して世界へ
こうして振り返ると、日本の強さは派手さではなく、日常を丁寧に編み直す手つきにあると気づきます。教室の長椅子や電車の吊り広告、親子の会話やお世話する仕草。こうした僕らの日常の断片は、世界でみれば、コンテンツに相当します。
実は、それが商品力と接続したとき、国内では得られない消費が生まれます。
また、Super Groupiesの腕時計は、IPキャラクターの世界観を“さりげなく”腕時計に落とし込み、誇示しない所有欲を刺激しました。IPへの愛を、大人の日常に自然に寄り添うように設計して、結果的にグローバル市場でも評価を得ています。
要は「語る器」「作る器」「届ける器」を揃えたブランドが世界市場での勝者になるのです。
日本の“当たり前”は、世界のどこかで必ず誰かのファンタジーになる。
その橋を架けるのは、IPホルダーだけではなく、周辺を支える無数のプレイヤーと、体験を編集するECです。ここで語っているのはIPに限った話ではありません。僕らの製造現場や商品への思いは日常の中に埋没していませんか?
でも、その日常が価値を持つかもしれない。日本の作品が示しているように、僕らはその商品現場をドラマチックに表現していくことで、そうして日本の影響力は、静かに、しかし確かに、世界へ広がっていくのです。
今日はこの辺で。

JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役