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使えるけど使わない /マーケットへの浸透度とユーザー心理/

 間違いなく「お得」にも関わらず、それを選択しないという「行為」があります。あるいは明らかに経済的な損失が見えているにも関わらず、それを選択するという「行為」があります。ノーベル賞を受賞したアマルティア・センが説いた「合理的な愚か者」(Rational Fool)という“消費行動”なのですが、これは経済学の根底を覆すといわた程の「大きなお題」と言われています。

 本コラムで学術的な話をするつもりはないのですが、今後のネットビジネスを考える上では「なぜ使わないのか?なぜ広まらないのか?」という点を深く考察する必要が出てくるかと思うのです。たとえば人手不足や買い物難民などの問題を解消する一案として無人コンビニなどのテーマなどがありますが、これは対象となるお客様の「ほぼ全員」が何等かの電子決済手段を「使うこと」が大前提となります。今後も登場するであろう「様々なECテーマ」は、普及度 浸透度 そして利用率という課題がつきまとい続けるのではないでしょうか。
中国の様に屋台やタクシーなどでもQRコードを読み込んで電子決済⇒各個人のリアル&ECの購入ログなどをビッグデータとして活用し・・・などのテーマも「ほとんど全員が」「いつも」「使うこと」が大前提になるわけですが、日本の場合この「大前提」が成立するかどうかが怪しいのです。日本では「合理的な愚か者」の比率が大変に多い感があります。タバコのTASPOやマイナンバーカードなどコレを持たないと〇〇できないという“普及”という点についてはある種の強制力を持った“カード“でもマーケティング的には完全に失敗のレベルです。マイナンバーカードの配布率は9%台。喫煙者の7割はTASPOを持っていません。

 また普及度と利用率は明確に区別して考える必要があります。昨年SMBCが調査した20代消費者へのアンケートでは、5000円の支払で現金を使う人は54.2%、クレジットカードは32.8%、スイカ(交通系)などの電子マネーが10.3%となっています。(ちなみに、スマホに電子マネーアプリを入れている人でも100円の支払であれば55.9% 1000円の支払であれば42.9%が現金で支払っています。)一方でクレジットカードの普及率は9割弱で日本の総発行枚数は2憶7千万枚。成人人口が約1憶人なので一人平均2.7枚以上持っている計算になります。20代のクレジットカード利用を例にとれば普及率は9割弱で利用率は1/3ということになります。ちなみに電子マネーやクレジットカードなどを含めた現金以外の支払=キャッシュレス決済の“利用率“は2016年の時点で約20%となりましたが、伸長スピードとしては2008年の12%から8年間で8ポイント上昇というところです。一方キャッシュレス決済の利用率はヨーロッパの平均が40~50%、韓国であれば約90%に及びます。

 クレジットカードは「持っているけれど使わない」の典型例なのですが、クレジットカードを使えば同じ額の支払でもポイントやマイルが貯まります。そしてユーザーのほとんど全員がポイントやマイルが貯まることを知っています。しかし「得をする決済方法」を選択しないのです。例えばコンビニでの買い物を考えてみましょう。レジに行けば各種のクレジットカードが使えることが分かるシールが貼ってあったりしています。そして何度も何度もこれを見ているかと思います。でもコンビニではあまりクレジットカードを使わないのです。(コンビニでのクレジットカード利用率は10%程度?精度の低いレポートしか見当たらず・・・。)サインが面倒だからでしょうか?ほとんどのコンビニでは1万円以下の買い物であればクレジットカードでもサインレス。使い方や小銭不要などの利便性はスイカなどの電子マネーと全く一緒なのですが・・・。
 仮に、いくら使ったかが分からなくなる怖さがあるのであれば、銀行の口座残高とクレジットカードの利用額累計が同時に参照できるアプリなどで解決できるはずです。でもこの様なアプリがあっても利用率が格段に伸びるということはない気がしています。少額でクレジットカードを使うのはなんとなく恥ずかしい?もちろんそれも理由の一つかも知れませんが使わない理由は果たしてそれだけなのでしょうか。

 持っているけど使わない例は電子決済以外にもたくさんあります。例えばスマホのTV電話機能。LINEなどにもこの機能がありいつでも無料で使えますが、過去に一度もLINEでTV電話(=ビデオ通話)がかかってきたことはありません。カメラが使えるのでプライベートのコミュニケーションにおいても色々と便利なシチュエーションがあるはずなのですがex.「近所まで来ていると思うんだけどお店の場所どこ?」「今、何が見えてる?」「カレー屋の隣に喫茶店が見える」・・・TV電話で風景を映せばすぐに伝えられることでも延々と音声電話で話していたりします。

このシチュエーションの場合、これから会う直前の会話でありTV電話で顔を見せるのが恥ずかしいという状況ではありません。クレジットカードを利用する際の使い過ぎへの不安のような「懸念材料」は1つもないのです。強いて言えばパケット代が気になることぐらいですが、これが利用率増加の大きな制限材料になっているとは考えにくいかと思います。音声電話とTV電話を使う際の利便性は完全に一緒。音声電話のボタンの隣にTV電話のボタンがあります。自分が今いる場所を相手に伝えるという目的においては、TV電話の方が明らかに利便性が高い機能です。場所がどこかが分かればいいだけなので画質なども問題にはならないでしょう。でも使わないのです。つい“習慣で”音声電話をかけてしまったと言えばそれまでなのですが、この事象はかなり重要なことを示唆していると思います。

ユーザーのスマホにアプリをダウンロードしてもらうことまでたどり着いたとしても、あるいは〇〇カードを持たせることには成功しても、さらには他に比べて明らかに利便性の高い機能を持っていたとしても、「使ってもらえるとは限らない」のと同時に「懸念材料」の排除/解決も“利用率”向上への効果は限定的ということを示唆しているのではないかと思うのです。銀行残高とクレジット利用額が同時に参照できる懸念材料解消アプリがあってもクレジットカードの利用促進にはそれほどつながらないと思う理由もここにあります。
さらには「合理的な愚か者=“お得”では動かない」ということなので、ポイントの付与やディスカウントが利用率向上の決定打になることもないでしょう。一定の効果は見込めるがあくまで一定に留まるはずです。例えば2016年度のふるさと納税の総額は約3千億円で国の所得税収は176千億円。ふるさと納税は所得税を納める国民の全てが利用できる「お得」なのですが、この「お得」の利用は金額としては2%以下に留まっています。
年会費が無料で収入の証明書なども不要、カードを作るだけで数千円分のポイントがもらえるなどのキャンペーンも成人であればほとんど全ての人がそのカードを持ってもよさそうですが、そうはなってはいない様です。ちなみに楽天カードの発行枚数は日本のクレジットカード総発行枚数の5%以下で、電力自由化による料金の安い新規発電事業者への切り替えも数%台。これらの事象を見るとそろそろ合理的な愚か者について真剣に考えてみてもよいのではないかと思います。

もちろん笹本もズバリの回答を持っているわけではないのですが、以下、仮説としていくつかの切り口を考えてみたいと思います。近年で急速な普及に成功した例としてはLINEやフェイスブック、インスタグラムまたメルカリなどが挙げられるかと思いますが、これらのプラットフォームにはいくつかの共通点があると考えています。その共通点とは従来のサービスよりも利便性が高かったことに加えて、1)広義のバイラルマーケティング的要素=「共用性」があることと 2)投稿や商品あるいは出品者などへの「共感」を示すためのツールがプラットフォームの大きな構成要素になっていることです。
共用性とはex.無料で電話できるからLINEを入れといてねと友人から言われたごとくのユーザー間での伝染的な普及が見込めるシクミを指しています。「共感」は言葉そのもので具体的にはSNSの「いいね」や「シェア」「フォロー」あるいは「お気に入りの作家に登録」などが挙げられるかと思いますが、実は経済学の根底を覆すといわれる合理的な愚か者の典型的な「行為」の多くが「共感」に基づくものなのです。クラウドファンディングや募金、ボランティアや様々な人助け、また生活保護を申請できる境遇にあるのに(お得)「敢えて」それをしないなど、社会性や人間性の側面からは簡単に説明できるにも関わらず、経済学では取り扱えない行為になっています。笹本が思うに、ここに何らかのヒントがありそうで今後のECは何らかの「共感」の要素を取り入れたものである必要がある気がしています。経済的な損得から上手に距離をおいたものであるのがミソの様な・・・。
もう一つ、爆発的な普及の要素として挙げたいのが「対面上の体裁」とでもいうべき心理です。スマホを持っていないと友達ができないという中学生、昭和の高度成長期にはTVと冷蔵庫と洗濯機を持つことがステイタスであり体裁でもありました。バブル時代のブランド品も同様ですし、政治家や経営者は赤い羽根募金の羽根を1週間程度胸につけるのがキマリです。これらの「対面上の体裁」が普及の大きな要因になったモノは「ほとんどの人」が「同じ様なモノ」を買っています。周りの人と「同じモノを持っているコト」が体裁なのです。売り手としては消費者の属性もわかりやすく、マスマーケティングが可能でした。残念ながらアプリやツールはブランドのバッグや赤い羽根などとは異なり、周りの人に持っていることを見せる機会がないので対面上の体裁の要素をECに応用するのは容易ではないのですが、何らかの形で取り込むことはできないかなと日々思っています。
・・・学校の上履きやプラスティック製の灰皿など、コレ以外は見たことがないというほどの強烈な普及率を持つ商品がありますが、どうしてこれほどの普及率となったのかその理由を是非知りたいです。何かヒントが見つかるかも・・・。

JECCICA客員講師

JECCICA特別講師 笹本 克

全国各地で有名ネットショップを輩出。自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。


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