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「伝える」と「伝わる」のあいだに Vol.36 おんどりと砂糖

年末にアマプラで「おんどりの鳴く前に」というルーマニア映画を観ました。
公式HPには「ルーマニア・アカデミー賞(GOPO賞)6冠の快挙を成し遂げた。田舎の村という狭いコミュニティを舞台に人間の醜悪さを生々しく描き出す辺境サスペンスがついに日本上陸」とあります。
ここから先ある程度のネタバレにはなるので、「ぜひ観てみたい」という方はいったんページを閉じて、観たあとまた読んで下さいね。

のどかな村と無気力警官

主人公イリエは自然豊かでのどかな村の警官。制服をだらしなく着た、猫背で気の弱そうな男。「はよ辞めて果樹園やって暮らしたい」と思っているので警官としての使命感はゼロです。実際、村で権力を持つ村長にいいように使われています。そんなある日、村で惨殺死体が発見されて…。

この後どんな恐ろしい展開が!?と思って観ていたけど、どうも様子が違う。
ホシはわりと早々に割れる。割れるどころか警官であるイリエんとこに「わざとじゃないんで…うまいこと丸めといて」と言いに来る。イリエもイリエで「わっ…かりました」って感じで、若手警官が聞き取り捜査をしてるのをやめさせる始末。イリエ、長い物には徹底的に巻かれる。
その後、「村の暗黙の了解」に逆らう人が酷い目に遭う事態と並行して、イリエ自身には果樹園が手に入る未来が見えてきます。そして物語はまさかの結末へ。

終始サスペンスフルな盛り上がりはなし。それでもじわじわと事態が動いてゆき、最後まで観たら「面白かった」と言える作品でした。面白いの種類がハリウッド的ではなくスカッ!ともしないけど、イリエのことが好きになる終わり方。ラストシーンをぜひ観てほしいです。

1kgと900g

鑑賞中、私がずっと気になってたのは「イリエが常に軽んじられていること」でした。
警官とはいえ前述の通りのキャラなので丸め込むのは簡単。警察権力より「村のおきて」が強い土地ではなおのこと。だからイリエは有力者たちから優しくされているようでずっとナメられている。
果樹園もあげる。他意はないよ。君は息子同然だからね。面倒くさいことには首突っ込まず、言われたことだけやればいい。この村で平和に暮らしたいだろ?大丈夫だから。
強き者から絶えずそう言われる暮らし。最初はそれでよかった。でも、そこに安住し続けられるほど、人は愚かにはなり切れない。

観終わって思い出したのは、全く別の映画の台詞でした。
「ボブという名の猫 幸せのギフト」という映画で、雑貨店の店主が主人公にこんな話をします。

あるところに農民がいて、商店主から毎月1kgのバターを注文された。引き換えに商店主が渡すのは小麦粉と豆、そして1kgの砂糖。
ある日商店主がバターをはかると900gしかない。商店主は「警察に突き出すぞ!」と激怒する。農民は言う。「私は貧しくてはかりを買えない。だから同じ1kgの物ではかっていた」。
そう、農民は商店主からもらう砂糖ではかっていたのだ。

「ズルをすると自分に返ってくる」とまとめてしまえば簡単ですが、私はこの話を「何かを軽んじると、己の何かも確実に目減りする」という教訓として受け取りました。等価交換とか利益の話ではなく、もっと根底の何か。

目方を軽く見積もるな

「おんどりの鳴く前に」で言えば、イリエを900gどころか300gくらいの扱いでいけると踏んだ側が、手痛いしっぺ返しに遭う。御しやすくやる気もなさそうな男にもちゃんと色々な過去があり、矜持があるのです。
他人の内面なんてそう簡単には分からない。だから目方を勝手に軽く見積もると、回り回って自分にとって重みのあるものまで失うことになる。

これって商売にも言えることかもしれません。
お客さまや取引先をちょっと軽く見ると、それは恐ろしいほど簡単に伝わってしまう。その姿勢を続けていると、いつしか自分の価値も低くなる。どんなに美辞麗句を並べても、この「はかり」は不思議とごまかせない。
そして我々は経験や地位がつくにつれ、若輩だと思った相手を軽く見積もりがちです。年を重ねれば重ねるほど、仕事だけでなく家族や友人関係でも気をつけないといけないところですよね。

ついでに言うと現政権、国民の目方をあまりに軽く見積りすぎてやしませんか?「このくらいやっても文句言わないでしょ、言うこと聞くでしょ」と。先ほどの話に例えるなら「これは1kgだぞ」と誤魔化すことすらせず、「300gやるから5kgよこせ」みたいなことを平気で言う。いい加減にしてほしい。

権力もキャリアも金もない私たちの中にも、ずっしり重い色んなものが詰まっています。これまでの人生、日々の暮らし、大事な人やもの、思い、矜持。一人一人のその重みを見つめようとしない為政者なんてろくなもんじゃない。

2026年はそういう理不尽に、もっと皆で立ち向かわなきゃいけない気がします。お利口さんにして黙ってないで、ちゃんと声を上げたいものです。おんどりの鳴く前に。

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コピーライター

近藤 あゆみ

Lamp代表

博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。

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