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専門家の知を、全員の力に──Google Cloud AI サミットで見えた「AI活用」の共通項

実例から見えてきた、AI活用の「共通項」

AIは、何に使えばいいのでしょうか。そして、どう使えば、業務や組織は本当に変わるのでしょうか。その答えは、抽象論の中ではなく、すでに現場の実装例として語られています。

先日、Google Cloud AI サミットに足を運び、そこで紹介された複数の事例を追っていくと、業界も業務も違うにもかかわらず、AIの使われ方には驚くほど共通した“芯”があることが見えてきました。

その中でも、特に印象深かった事例がメルカリです。

メルカリ:曖昧な問いを、業務として成立させる

① 専門家の言語だった「SQL」という壁

これまで、売上や返品、顧客行動を分析し、業務改善につなげるには、SQLを書ける人や、データ構造を理解している専門家の手を介す必要がありました。

たとえば「昨日の売上はいくらですか」「返品が多い商品はどれですか」といった問いを、コンピューターに伝えるための“共通語”がSQLです。専門家はこの言語を使い、大量のデータの中から必要な情報を引き出してきました。

つまり、SQLを使えるかどうかが、データにアクセスできるかどうかの分かれ道だったのです。そこに大きな壁がありました。その壁を取り払ったのが、メルカリの挑戦でした。

彼らのAIエージェントは、画面に「チャット」と「ディープリサーチ」のタブが存在しています。だから、スタッフは質問したい内容に応じて、どちらかを選べばいい。

要するに、対話型で結論を導き出す手段と、まるごと調査に充てる手段を用意して、それを入り口にします。

② 曖昧な問いが、そのまま業務を動かし始めた

例えば、社員はAIに、自然な言葉で「最近、返品受付が大変なんだけど、理由わかる?」と尋ねます。するとAIが裏側でSQLを生成し、数分でレポートを作成してくれます。

AIが即座に答えを導き出せたのは、社内に“データの地図”が整備されているからなのです。つまり、エンジニアは“そうした問いを成立させる”インフラを作ったのです。

いずれにせよ、問いかける内容は、整理されていない曖昧な問いが多い。

でも、その言葉を受け止め、あらかじめ用意された枠組みに当てはめてSQLを導き出せれば、何気ない曖昧な問いが整理され、他人にとって価値ある情報へと生まれ変わる。

AIはそれを単に言語化するのではなく、社内のデータ構造を参照しながら、どの情報を見るべきかを判断し、整理し、業務に使える形にまで落とし込むから、問いかけるほど、問題が個々の手により解決する。

要するに、これまで専門家が担っていた「整理し、構造化し、効率化する」という仕事を、AIが一気通貫で引き受け始めたのです。これは効率化の話ではありません。
仕事の分業の仕方が変わった、という話です。

日本テレビ:感覚的な企画を、意思決定に耐える形へ

① 感覚と経験に依存してきた「企画判断」という暗黙知

同じ構造は、日本テレビのコンテンツ制作の現場でも見られます。毎日新しい企画を生み出さなければならない番組制作の現場では、「なぜその企画が通ったのか」「どこが評価されたのか」という判断軸が、暗黙知として蓄積されてきました。

というのも、企画は感覚で語られ、意思決定は経験に依存する。

そこで、日本テレビがAIを使って取り組んだのは、企画を自動生成することではありませんでした。過去の会議ログや判断の履歴から、その番組が大切にしてきた価値観や判断基準を整理し、次の企画判断に使える形へと再構成することでした。

② 番組の価値観を理解し、判断に耐える企画を生み出すAI

そもそも、ディレクターは平均して7案の企画書をつくるのに約8時間かかっていました。この“創造の負荷”を減らすため、総合演出とともに企画支援エージェントが開発されました。

このエージェントは、過去の会議から「なぜその企画が選ばれたのか」という判断軸を抽出し、番組のコンセプトである「生活に寄り添う」に沿った企画案を提案します。

AIがただアイデアを出すのではなく、番組が持つ“価値観”を理解したうえで案を生み出す。試験運用の1か月で、すでに4案が実際にオンエアに採用されています。

ここでもAIが担っているのは、曖昧な感覚を整理し、構造に変え、意思決定に耐える形にする役割です。メルカリがデータと業務でやっていることを、日本テレビは企画と判断の領域で行っているのです。

対象は違っても、本質は同じです。

損保ジャパン:課題起点で、業務全体をつなぎ直す

損保ジャパンの事例も、この延長線上にあります。

保険業務は書類と情報の塊であり、問い合わせ対応や保険金支払いの現場には、長年解消されない課題が存在していました。同社がAIを使って取り組んだのは、「新しいから使う」のではなく、消えない課題にAIを当て続けるという姿勢です。

問い合わせ対応、保険金支払い、コールセンターといった分断された業務プロセスを、AIを軸に整理し、端から端までつなぎ直しました。

ここでもAIは、答えを出す存在ではありません。

業務の流れを整理し、判断と対応がスムーズにつながる構造を作る存在として機能しています。

評価も「何分短縮できたか」では終わらず、人員配置や原価構造にどう効いたか、経営判断にどう寄与したかが問われています。

Google Cloud AI サミットで語られたこれらの事例を並べると、共通点は明確です。AIは、人が発する曖昧な問いや感覚を整理し、構造に変え、組織の仕事として回る形にするために使われています。

その答えは、「何をやらせるか」ではなく、どこで“整理役”として置くかにあります。

今日はこの辺で。

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理事

石郷 学

(株)team145 代表取締役

ファンシー雑貨の業界紙ライター出身、ネット通販向け商材の問屋で企画営業や商品開発にも携わる。自らの企画の持ち味を生かし、ECのミカタ編集長を担う。2019年(株)team145を設立。

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石郷 学

(株)team145 代表取締役

ファンシー雑貨の業界紙ライター出身、ネット通販向け商材の問屋で企画営業や商品開発にも携わる。自らの企画の持ち味を生かし、ECのミカタ編集長を担う。2019年(株)team145を設立。

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