EC サイトの改善では、購入後のアンケートやレビューが重視されます。しかし、それだけでは「なぜ買われなかったのか」は分かりません。購入者の声は、買った理由を教えてくれます。一方、購入前の声は、何に迷い、何が不安で、なぜ購入に進めないのかを教えてくれます。
今回お伝えしたいのは、購入前の顧客の声を拾える店になることの大切さです。その第一歩が、お客様から相談してもらえる入口をつくること。そして本当に重要なのは、集まった声を接客やサイト改善、次の提案へつなげる設計です。
行動は見えても、迷っている理由は見えない
アクセスデータを分析すれば、どの商品が見られているか、何ページ閲覧したか、どこで離脱したかは分かります。しかし、お客様がなぜ購入しなかったのかまでは分かりません。
商品の違いを判断できなかったのか。サイズや状態に不安があったのか。自分の用途に合うか分からなかったのか。欲しい商品が売り切れていて、代わりを探していたのか。あるいは、店を信用してよいか迷っていたのかもしれません。
行動データから仮説は立てられますが、最後は推測です。本人に聞かなければ分からないことがあります。
近年、チャットなどのチャネルを単なる問い合わせ窓口ではなく、商品選びや比較、購入判断を支援する接客の場として活用する店が増えています。特にブランド品、家具、化粧品、ギフト、趣味用品、オーダー商品、法人向け商材など、選択に迷いやすい商品で増えてきています。
「相談できる」と「相談したくなる」は違う
実際に、相談導線の改善によって購入前の声が増えたサイトがいくつかあります。その一例が、高級ブランド品を扱う通販サイトです。
価格は数十万円から、商品によっては百万円を超えます。商品の状態や色味、付属品、サイズ感など、購入前に確認したいことも少なくありません。アクセス解析では、商品を繰り返し閲覧し、比較している検討客が毎月数千人いる一方、相談件数は一日一件に届かない程度でした。
チャット機能は、もともと設置されていました。ところが、入口は画面右下の小さなアイコンだけ。名称には標準設定の「bot」が使われ、案内文も「何でもお気軽にご相談ください」という一般的なものでした。
機能はあっても、誰が答えるのか、何を質問できるのかが伝わっていません。「相談できる状態」ではありましたが、「相談したくなる状態」にはなっていなかったのです。
そこで、商品ページのカート付近に、商品について相談できるボタンを設置しました。購入を迷う場所から、そのままスタッフへ声をかけられるようにしたのです。
チャットの名称も、「bot」から「コンシェルジュ」へ変更。さらに、「こんな商品はある?」「商品の状態を詳しく知りたい」といった相談例を示し、スタッフがリアルタイムで案内することを明記しました。アイコンも、人の存在を感じられるものへ変えています。
問い合わせが約 3 倍になった意味
変更前後の同程度の期間を比較すると、問い合わせ件数は 20 件弱から 60 件を超え、約 3 倍になりました。
大きなシステム開発を行ったわけではありません。相談の入口を購入判断の近くに置き、人が対応することを伝え、質問の例を示しただけです。
成果の本質は、問い合わせ件数が増えたことだけではありません。
これまで店側には見えていなかった、「商品状態がもっと知りたい」「似た商品を探している」「自分に合うか判断できない」といった購入前の迷いが、言葉として届くようになったことです。
「お気軽にお問い合わせください」と書くだけでは、お客様は必ずしも声をかけてくれません。何を聞いてよいのか分からず、忙しそうな店員に話しかけるような遠慮も生まれます。
店側から「このようなことで迷っていませんか」と具体的に声をかけることで、初めて相談の心理的なハードルが下がります。
集めるだけでは、顧客の声は生きない
ただし、相談窓口をつくることは入口にすぎません。問い合わせ件数だけを追っていては、対応業務が増えただけで終わってしまいます。
次に必要なのは、集まった声を分類し、接客とサイト改善へ戻す仕組みです。
「商品状態を詳しく知りたい」という声が多ければ、写真や状態説明を見直す。「違いが分からない」という声が多ければ、比較表や選び方のコンテンツをつくる。売り切れ商品への相談が多ければ、類似商品の提案や入荷案内へつなげる。信頼面の質問が多ければ、実店舗、保証、返品対応、販売実績などの安心材料を分かりやすい場所へ置く。
さらに、どの商品から相談が発生し、相談後に何件の購入につながったのかも確認します。購入に至らなかった場合も、その理由を残しておけば、品ぞろえや価格、サービス改善の材料になります。
目指すのは、次の循環です。
相談の入口をつくる。購入前の声を集める。接客で購入を支援する。集まった声をサイトや商品、サービスへ反映する。次のお客様が、より選びやすくなる。
まず、声をかけてもらえる店になる
購入前の顧客の声を集めるために、最初から高度なチャットボットや大規模な CRM を導入する必要はありません。
まず確認したいのは、購入を迷う場所に相談の入口があるか。人が対応することが伝わっているか。相談できる内容を具体的に示しているか。この三つです。
購入後の声を集めている店は多くあります。しかし、購入前の声を継続して集め、接客や改善に生かしている店は、まだ多くありません。
購入者の声は、買った理由を教えてくれます。購入前の声は、買えない理由を教えてくれます。
問い合わせを増やすことが目的ではありません。お客様の迷いを知り、目の前のお客様を支援すると同時に、次のお客様が迷わない店へ変えていくことが目的です。
まずは、声をかけてもらえる入口をつくる。そこから、購入前の VOC を生かす接客型 EC が始まります。