「言語の壁」が消える?海外掲示板サイトで見えた検索体験のアップデート
最近、あるフランスのブランドのバッグが気になって、ネットでいろいろ調べていました。Instagramで見かけたのがきっかけで、「デザインが素敵だし値段も手頃。実際の使い心地はどうなんだろう?」と思ったからです。まずは日本語で検索し、検索結果の上部を見ましたが、あまり詳しいレビューが見つかりません。そこで、スクロールしてみるとアメリカの掲示板サイト『Reddit(レディット)』 が出てきました。「え、これ日本語の検索なのにRedditが出るの?」とびっくりして、URLを開いてみると、なんと英語の書き込みが自動翻訳で全部日本語表示されていたのです。日本語に翻訳された文章も自然で口語的なカジュアルで読みやすく、「本当に日本人が書いたの?」と思うほどスムーズでした。そのおかげで、知りたかった実際の使用感や体験談が一気に手に入り、とても驚いたと同時に「検索ってここまで変わってきたんだ」と感じました。
Redditとは?なぜ日本語検索にも出てくるの?
Redditは、アメリカ発の巨大掲示板サイトで、世界中のユーザーがさまざまなテーマについて投稿し合う“コミュニティプラットフォーム”です。日本の掲示板サービスと比較すると、よりテーマが細かく分かれており、ユーザーが自分の興味に合ったコミュニティ(サブレディット)に参加し、写真・体験談・質問・議論などを自由に投稿できます。特徴的なのは、「Upvote(いいね)」と「Downvote(評価を下げる)」によって、信頼できる情報や役立つ投稿が自然と上位に上がってくる仕組みです。また、匿名性が高いため、広告や宣伝色の薄い“本音の口コミ”が集まりやすい点も、他のSNSやレビューサイトとは異なります。その結果、商品の使用感やレビューを探しているユーザーにとって、Redditは“リアルな声が集まりやすい場”として人気を高めています。特にファッション、ガジェット、コスメ、ライフスタイルなどは活発に議論されており、日本語圏では手に入らない情報が得られることも多くあります。
では、なぜRedditが日本語の検索結果に出てくるようになったのでしょうか。Redditが日本語検索に出てきた背景には、いくつかの技術が関係していると考えられます。
まず、Googleは昨今「役に立つコンテンツ」をより上位に表示するようにしています。企業の宣伝よりも、実際に使った人の口コミや体験談を高く評価するようになってきているのです。さらに、RedditはGoogleに拾われやすいサイト構造になっており、 自動翻訳によって 日本語でも内容を理解できるようにしているため、海外の口コミが日本語圏の検索にも出てきやすくなっています。つまり、検索をするとき、もう「日本語」「英語」といった言語の壁がなくなりつつあるということです。
世界中の口コミが、私たちの買い物に影響する時代が到来するのか
Redditにはバッグの使用感に関する多くの口コミが投稿されていました。軽さや通勤での使いやすさ、どれくらい物が入るのか、肩にかけたときのフィット感、さらに耐久性まで、利用者の率直な感想が丁寧に書かれていました。こうしたリアルな声を読んでいるうちに、私自身も「買ってみようかな…」という気持ちに自然と傾いていきました。
私たちは普段、SNSや広告、メルマガなどで商品を知り、日本語で検索してより詳しい情報を集め、最終的に自分が使っているECモールや自社ECサイトで購入することが多いと思います。しかし、今回の経験のように、海外の口コミが自然に検索結果に入ってくるようになると、日本語での検索に限定されない購買行動が一般化し、国境をこえて意思決定に大きな影響を与えるようになるでしょう。
ECサイトがやるべき「口コミの見せ方」
今回の体験から、私は消費者として「口コミの強さ」を感じると同時に、ECに関わる人として「これは大きな変化だ」と思いました。Redditは単なる掲示板ではありません。いまは多くのユーザー投稿をAIが理解しやすい形に整理して、検索に最適化する巨大プラットフォーム になりつつあると感じています。
では、日本のECサイトはどうすればよいのでしょうか。今では、店員のSNS投稿を商品ページに載せたり、ライブ配信のアーカイブ動画を商品説明に埋め込んだり、実際のユーザー投稿(UGC)をレビューとして活用したりする取り組みが広まりつつあります。しかし、こうした工夫も検索AIに正しく読み取られなければ効果は半減してしまいます。
そのため、埋め込み形式ではなく構造化データを使ってレビュー情報を記述したり、SNS投稿にも検索クローラが読み取りやすいメタ情報を整備したり、さらには多言語対応によって海外ユーザーにも届くレビューを用意したりする必要があります。口コミはただ投稿すれば終わりではなく、AIに読まれることを前提にした設計へと変わりつつあるのです。
AIOとLLMが変える検索環境と口コミの価値
近年、検索の仕組みそのものが大きく変わろうとしています。以前の検索は「キーワードを入力し、リンクが並ぶページから自分で情報を探す」という形が中心でした。しかし今は、AIO(AI最適化:AI Optimization)やLLM(大規模言語モデル)の急速な進化により、検索体験が根本的に変化しています。ChatGPTやGemini、PerplexityのようなAIは、検索結果のリンクを並べるだけでなく、複数の情報源から内容を読み取り、整理し、要点をまとめて提示します。つまり、ユーザーは「どのリンクをクリックすれば答えが見つかるだろう?」と考える必要がなくなり、「質問すれば、答えがすぐに返ってくる」状態へと移行しつつあります。
ここで重要になるのが、AIが信頼する情報源がどこか、という点です。AIは、一定の信頼性があり、実体験に基づく口コミや体験談が豊富にあるサイトを好みます。Redditが急速に存在感を増したのは、まさにこうしたAIの特性と非常に相性が良いためです。
一方で、日本のECサイトやブランドの公式ページは、構造化データが不十分であったり、実際のユーザーの声が少なかったり、広告色が強すぎたりすることが多く、AIが「信頼できる情報」と判断しにくい傾向があります。そのため、AIOやLLM時代においては、従来のSEO対策だけでは不十分であり、AIに読み取られやすい形式で情報を提供することが欠かせません。具体的には、レビューやUGCを構造化データで整理したり、ユーザーの実体験に基づくコンテンツを増やしたり、SNSや動画コンテンツにも検索クローラが理解できるメタデータを付与したりすることが求められます。AIは表面的な情報よりも「多くの人のリアルな体験が蓄積されている場所」を重視するため、従来の“見た目だけ整えたECサイト”では太刀打ちできなくなっていくでしょう。AIが購買行動や検索導線に深く入り込む今、口コミはますます重要な意味を持ちます。AIが拾い、理解し、推薦できる“信頼される口コミ”を作ることは、EC事業者にとって必須の戦略になってきているのです。
これからのECは「本音の口コミ」をどう扱うかが鍵
Redditが日本語検索に出るようになったのは、ただの偶然ではありません。Amazonのレビュー文化が広まり、SNSで情報が共有され、さらにAIが翻訳やコンテンツ評価を担うようになったことで、口コミの扱われ方が大きく変化しようとしています。
これからのEC事業者に求められるのは、顧客の声をわかりやすく整理し、それを検索AIが理解しやすい形に整えることです。そして、その声が別の誰かの「買いたい」という気持ちにつながるように設計する力が重要になります。
口コミは昔から存在する販売手法ですが、AI時代の今こそ、その価値が大きく高まっているのではないでしょうか。

JECCICA客員講師 村石怜菜
株式会社パルコ・シティ シニア・コンサルタント。
日本女子大学被服学科卒。大手専門店企業で接客販売・店舗運営を経験した後、Eコマース支援企業で数々のファッションブランドのECサイトの構築や運用に携わる。現在は、ファッション専門店や商業施設へのECコンサルティングを得意としている。また、クライアント企業のオムニチャネル戦略の計画・実行を支えている。