ECが「デフレの温床」と言われることを危惧
本当のEC化率は8.82%
経済産業省が8月末に2024年のEC市場規模を発表しましたが、その中でEC化率について触れたいと思います。2024年のEC化率は9.78%とされていますが、結論から言うと正しい数値ではないと私は捉えています。なぜそう言えるのかですが、現在のEC化率計算のロジックを前職において編み出したのが私だからです。私の計算では、2024年のEC化率は8.82%であり、同省の公式発表とは約1%の隔たりがあります。以下、このことが何を意味するのかについて説明したいと思います。
EC化率の計算方法
そもそもEC化率は分母を(物販系)商取引市場規模全体、分子を物販系BtoC-EC市場規模で計算した値です。やや専門的な説明になりますが、本来であれば、分母には名目GDP系の数値を採用しなければならないところ(分子は名目であるため揃える必要あり)、経済産業省による公式発表のEC化率は、実質GDP系の数値を使用しているとみられます。名目GDPは実際の額ですが、実質GDPは物価上昇を差し引いた実質的な値です。したがって実額で比較すると、名目GDP>実質GDPと、実質の方が小さくなります。ゆえに、結果的に実質GDPを分母に採用したEC化率は実態よりも高くなってしまいます。
両者の差は年々乖離している
2021年から2024年にかけて、経済産業省による公式発表のEC化率と私(デジタルコマース総合研究所)の計算するEC化率をグラフ化してみました。ご覧の通り、年々乖離しています。2021年の両者の差はわずか0.25%でしたが、2022年には0.51%、2923年は0.72%、そして2024年の差は0.96%です。なぜそうなるかですが、年々物価上昇が続いていることにより名目GDPと実質GDPの差が年々広がっているためです。詳細な説明は省略しますが、2020年までは名目GDPと実質GDPに大きな差はありませんでした。いかに物価が近年上昇しているかを物語っています。
実際のEC化率の上昇はわずか
ここからが本コラムの本題です。是非注目していただきたいことがあるのですが、私(デジタルコマース総合研究所)の計算によるEC化率の推移を見ると、ほとんど上昇していないことがわかります。2021年は8.53%でしたが、2024年は8.82%とわずか0.29ポイントしか上昇していません。ちなみに2021年の国内物販系EC市場規模は13兆2865億円、2024年は15兆2194億円ですので、この間14.5%増えている計算になります。絶対値であるEC市場規模は14.5%も増加しているにもかかわらず、EC化率はわずか0.29ポイントしか上昇していないのです。この事実に着目する必要があると私は考えています。
リアルチャネルとECで物価上昇への対応に相違
あらためて、EC市場規模の絶対値が14.5%も増えているのにEC化率の上昇がわずかにとどまっている点について考えてみましょう。EC市場規模の伸びほどEC化率が伸びていないのは、(物販系)商取引市場規模全体が思った以上に伸びているためです。言い換えれば、リアルチャネルの市場規模が伸びているということです。その理由として、物価上昇をリアルチャネルでの消費者は素直に受け入れているということではないかと私は想定しています。当然ながらEC側でも物価上昇を消費者は受け入れてしかるべきなのですが、極端に言えばECではワンクリックで価格を下げることができますので、オペレーション上値引きしやすい環境にあります。実際にEC側では頻繁なセールやクーポン発行、競合間の値引き合戦によって、物価上昇を抑制する力が作用しているのではと私は思っています。
ECがデフレの温床となることを危惧
ECでモノが安く買えることは、消費者にとって悪いことではないでしょう。しかし安くモノが買えるということは、見方を変えればデフレにつながることでもあります。EC化率は10%未満と低いため、マクロ経済で今は大きな問題になってはいません。しかし今後EC市場規模がさらに拡大し、経済・産業において今以上にECの存在感が強くなったとしましょう。その際、ECでは価格上昇を抑制する力が作用していることをもって、「ECはデフレの温床である」といった捉え方をされるかもしれません。日本は今やっとデフレから脱却しようとしています。しかし今の状態が継続したままEC市場規模が大きくなれば、いずれECが経済発展の悪者と評されるかもしれない事態が予想されます。私はこのことをとても危惧しています。明確な打ち手を直ぐには思いつかないのですが、そうならないために、今から何らかの手を打たないといけないのではと思っています。


JECCICA客員講師 本谷 知彦
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役