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前代未聞の挑戦が示した、ライブコマースの未来像~谷中銀座商店街から広がる奇跡~

予定調和でないものを予定する
東京・谷中銀座商店街。僕はこの老舗のまちで、多くの人の力を借りて、新しい試み「令和版・縁日ライブコマース」に挑みました。目的は単なる物販ではない。ローカルの温度感と、インターネットが拓く新しい経済圏を掛け合わせる──そんな“社会実験”だったのです。
結果、猛暑のなかで行われた配信は“グダグダでおもしろい”という視聴者コメントに象徴されるように、予定調和を超えた生々しいライブ感を残した。ここには、これからのECが持つべき示唆があります。

「縁日」をECで再現するという発想
今回の発端は去年のライブコマース企画でした。僕のメディアのコミュニティの人たちが集まる前で、ライブコマースをやるという試みをしたところ、商店街側からこんなオファーをもらうこととなりました。
「これを谷中銀座商店街の夏祭りでやってみませんか」。
それで、僕はライブコマースを「おうちで夏祭りを体感できる仕掛け」と位置づけ、実際に「令和版・縁日ライブコマース」を形にしました。
現場では「夢みるアドレセンス」桜羽このはさんがアシスタントを務め、試食や進行のやりとりを一緒に担ってくれました。ECの文脈で考えると、これは「購買」をゴールとする従来型の番組設計とは違う。
屋台を回るように複数の店舗を巡り、会話や試食を楽しみ、気づけば購入に至る──いわば“体験を主軸にした購買設計”です。
eコマースに「お祭り性」を持ち込んだ点が大きな特徴でした。

老舗と新興をつなぐコラボレーション
そこで、登場したのは、創業100年を超える鶏肉専門店「水郷のとりやさん」、150年続くところてんの老舗「伊豆河童」、そして静岡の農産物を目利きで届ける「セレクトフードコパン」。いずれも歴史や哲学を持つネットの名店でした。
それを受けて、後半には、谷中ぎんざの地元商店──丸初福島商店(貝・川魚)、越後屋酒店(酒)、九州堂(九州食材)が加わり、「ネット×ローカル」のコラボレーションが生まれました。
重要なのは、ここで行われたのが単なる合同販売ではないという点です。既存の価値を掛け合わせ、互いの装いを変えることで、店の価値そのものが新たな形で羽ばたける──そう考えました。
これは「ブランディングの再編集」にほかなりません。ECの場において、老舗も新興も“共鳴”を起点に違う輝きを放つことができると示されました。

ヤマト運輸の決断──物流が舞台に上がる
もう一つの注目点がヤマト運輸の参画です。
彼らはヤマトクロネコメンバーズという自社会員を持っています。そのうちの40万人に告知を行い、自らも番組に出演しました。配送を支える裏方から、前面に出て「体験の一部」として振る舞ったのです。
メールから、配信へ、そして、最終のラストワンマイルを彼らが担う。
特に印象的だったのは「配送をエンタメ化」する試み。
ネットショップの商品ごとに付属するミニカーは、クール便・EV車・ウォークスルー車と配送手段を象徴する。
視聴者は“どんなふうに届くか”という物語に触れ、物流を身近に感じることができました。ここには「配達も顧客体験の一部である」という強いメッセージが込められていたのです。

本番のリアリティが生む価値
もう一つの気づきは、「試食」です。観客だった僕のコミュニティの仲間が現場に飛び込み、九州堂を拠点に湯煎・切り分け・運搬を分担。自然発生的に役割分担が起き、試食がスムーズに進行しました。
当初、谷中銀座商店街と全国を繋ぎ、夏祭りを盛り上げるという趣旨から派生して、この試食がこの場所自体の盛り上げにも寄与することになったわけです。
これは“顧客や仲間を巻き込む参加型の体験”がリアルタイムで成立した瞬間でした。
この経験から得られる示唆は明確です。
1.ECは購買体験だけでなく「参加体験」を設計できる。
2.物流は舞台裏ではなく、顧客体験の表舞台に立っている。
3.既存の価値を掛け合わせることで、店のブランド価値は新しい羽ばたきを見せる。

未来のECのかたち
谷中銀座でのライブコマースは、「ECの未来像」にヒントをもたらしたと思います。商店街というローカル資源をECとつなぎ、物流を体験化し、予定調和を超えたリアリティで顧客を巻き込むことができたからです。
同時に今回強く感じたのは、既存の価値をどう新しい形で羽ばたかせるかという点でした。
これまで多くの店舗は、自分たちのフィールドの角度を変えながら発信してきました。しかし、互いの価値を掛け合わせ、違う装いを纏った瞬間、まるで新しいブランドのように輝き出す──今回のコラボは、その証明だったのです。
これからの小売は、画一的な箱の中でカテゴリー比較に晒されるだけの存在ではなくなる。豊かに価値を伝え、お客を楽しませる姿勢が問われていく。

既存の価値を再編集し、新しい出会いを生み、新たな価値を発掘する。そのためには、体験をどう演出するかがますます重要になります。
これまでコラムで触れてきた「顧客との関係性を深める仕掛け」を、今回あらためて自分自身で実践できた。その体験が、「小売の未来はまだまだ伸びる」という確信につながりました。
今日はこの辺で。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 石郷 学

(株)team145 代表取締役


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