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「伝える」と「伝わる」のあいだにVol.30 略語はダサい。略語は面白い。

★なんでも略すな
年寄りくさいこと言うけど、「すぐ略す」文化の加速にはあんまり乗りたくない。というか言葉を扱う仕事柄、なるべく乗らないように頑張っている。
作品名、外来語、業界用語、有名人の名前…今はなんでもすぐ縮められる。ジョニー・デップやトム・ヒドルストンなどは、自分がこの極東の国で「ジョニデ」や「トムヒ」と呼ばれているのを知ってるんだろうか。

かつて作家の山田詠美さんがエッセイで「やたらと外来語を略すな」と書いていて20代の私には耳に痛かったが、若い頃に読みふけり、人生の師ともいえる彼女の言葉は戒めとしてずっと胸に残っている。

略語というのは仲間内の符牒に似ている。符牒が多ければ多いほどその界隈に精通している「ツウ」っぽさが出る、ようにも思える。
でも実際は職人的な符牒ではないので、「俺たちだけが分かってる」という身内感が先に見えてしまい、ちょっとカッコ悪いなと思う。まあ「知ってる人たちだけで通じ合いたいから」というのならいいんだけど。
あと、こなれてるふうを出そうと略語を連発すると、却って軽薄に、時におバカに見えてしまうこともある。「バブル期のギョーカイ人」コントに出てくるプロデューサーみたいに。

★略称は自然発生で
最近では映像や本などでも長いタイトルの作品は、公式が最初から略称を発表していることが多い。
「タグつけ投稿を奨励し、SNSで拡散させたい」という狙いはとても理解できる。できるんだけど、私はどうしても「作品タイトルの略称は、あくまで受け手の中から生まれて広まるべき」と頑固に思っていたりする。

たとえば懐かしの映画「世界の中心で愛を叫ぶ」が「セカチュー」と呼ばれるに至ったのは、大ヒットからのブームがあったからだ。あの頃は公式が「#セカチュー」とか発信したりしてなかった(まあSNSがなかったから当たり前ですけどね)。

まず人々の口の端にのぼることが多くなり、そこから自然発生的に生まれるもの。それが略称であってほしいと個人的には思っている。

ちなみに私はネーミング仕事をする際、「略したらどうなるか」は必ず考えることにしている。すべての製品やサービスにではないけど、略しやすい名前にしておくのは大事だ。ただあくまで「もしよかったら…」的なオプションだ。最初から公式が略称を名乗るのはどうにもこうにも気恥ずかしく感じてしまう。うーん、我ながら偏屈だ。

★面白い略し方いろいろ
と、ここまで書いてから思いっきり矛盾するようなことを言うけど、略語には「おもしろっ!」と唸らされることもよくあるのであった。

特にX(旧Twitter)など字数制限のあるSNSならではの略語誕生は大変に興味深い。「口に出す分にはさほど長くないけど書き込むには長い」とか「検索で発見されたくないのであえて分かりづらく略す」とか。

中には「もともと短いんだから略さなくてもええでしょ!」というものもあって、それがとっても面白い。

最初に衝撃を受けたのはXで見かけた「F外失」だ。何の暗号??と思ったら「FF外から失礼します」の略だった。「あなたとはフォロワー・フォロイーの関係ではない部外者ですが、リプライさせて頂きますね」という長々しいご挨拶をたった三文字に凝縮した見事な略しっぷりである。

そのあと驚いたのは「バ先」。これはしばし考えてしまった。「バイト先」のことだと気づいた時は「イトくらい発音してあげなよ!」と思ったが、「きょうバ先でさー」というと何だかすごいドライブ感があって、いかにも若者言葉らしくていいなと思った。
最近では「ヤコバ」(夜行バス)もすごいと思った。もはや「ス」一文字程度の省エネなのだが、もしかしたら三文字を抑揚なく平坦に発音できるのが若者的には心地いいのかもしれない。

作品タイトルも「よくぞそこまでうまい略称を!」と思えるものもある。
古くは「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」が「もしドラ」と呼ばれた件。あれを縮めたのは発信側か世間か、どっちだろう?

あとは「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」という作品を「チェリまほ」と縮めているのにも感心した。「童貞」を「チェリー(ボーイ)」と読み換えた上で縮めるなんてひねりが効きすぎて、元タイトルを知らなければ想像もつかない。でもそのひねりがお見事だと思った。

…あれ?結局私は、略称が意外と好きなのでは?

なんというか、工夫が見えたり、予想外な音感が生まれていたりすると「やるね」と思ってしまうのかもしれない。
この年では若気の至りや勢いが通用しないのだから、いざ縮めなくてはならない時(?)が来たら、縮め方にもこだわりたいなと思うのであった。
誰かが真似したくなるような、口の中で転がした時に心地いいような、同時に品を失わないような、そんな略語や略称を、いつか作りたい。

JECCICA客員講師

コピーライター 近藤あゆみ

Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。


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