キャリアアップ助成金正社員化コースについて
新たに社員を雇う前にぜひ知っておきたいのが、社員の雇用や職業訓練、待遇改善といった一定の条件を満たした会社に支給される「助成金」の存在です。
この中でよく活用を検討されるのが「キャリアアップ助成金 正社員化コース」です。今回はこの概要について説明したいと思います。
キャリアアップ助成金とは??
キャリアアップ助成金には6つのコースがあります。
「優秀な人材を確保したいけど、人件費に余裕がない」と悩まれている事業主の方の強い味方に「キャリアアップ助成金」があります。
特にベンチャー企業、中小企業は人材採用・育成が難しいかと思われます。キャリアアップ助成金は、国の助成を受けて派遣社員などの非正規雇用労働者を正社員化、処遇改善を行い労働者の意欲を高める制度になります。
6つのコースは以下になります。
①正社員化コース
②障害者正社員化コース
③賃金規定等改定コース
④賃金規定等共通化コース
⑤賞与・退職金制度導入コース
⑥社会保険適用時処遇改善コース
この中で、有期雇用労働者等を「正規雇用労働者/多様な正社員等に転換」または「直接雇用」した場合に適用されるのが ①正社員化コースです。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、有期契約労働者等(有期契約労働者・無期雇用労働者・派遣労働者)を正社員(正規雇用労働者等)へ雇用形態を変えた場合に助成されます。
いきなり正社員採用すると受給対象外になります。
助成金の支給額は対象になる企業が中小企業なのか、または大企業なのかにより異なります。また、正社員化により生産性の向上が認められるかどうかによって助成金の額が異なり、最大で1人あたり80万円の助成金を受け取ることができます。
以前は、1回の申請で最大金額の助成金を受け取ることができましが、2024年(令和6年)度からは、中小企業は1回当たり最大40万円、2回の申請で最大80万円を受け取ることができるように制度変更されました。
ただし、助成金の申請には多くの書類を作成する必要があり正社員コースを申請してから助成金受給まで1年以上かかる場合もあるため、周到な準備が必要になります。
労働者1人あたりの助成金は最大で80万円(40万円×2期)に増えました。従来の1期分57万円の支給から大幅に増額されています。なお令和6年度版では、加算額についても以下の2つが増額・新設されました。
「多様な正社員」とは、勤務地や職務の限定や、短時間勤務で働く正社員のいずれか1つの制度をあらわします。
このようにキャリアアップ助成金は、多様性が求められる現代にさらに合わせた制度になりました。しかもこれだけの加算額があります!
キャリアアップ助成金は、以下の図の流れで申請を行います。
ここで問題になるのが「就労規則の改定」と「キャリアアップ計画の策定・提出」です。これが複雑かつ面倒なので、申請を挫折するパターンが多く見受けられます。社労士さんにお願いもできますが、ある程度自分で策定してから依頼するべきです。
手順① キャリアアップ計画書を作成して労働局へ提出する。
事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置し、3年以上5年以内の計画期間を定めて、キャリアアップ計画書を作成します。そして、キャリアアップ計画書を労働局へ提出し、労働局長の認定を受けます。
キャリアアップ計画書とは、いつ頃に正社員への転換を行うか、目標や目標を達成するための措置などを大まかに記載する書類です。この書類は転換・直接雇用を実施する日までに提出しなければいけません。
また、過去に同じ対象者のキャリアアップ計画書を提出しており、キャリアアップ計画期間が過ぎている場合は、変更届を忘れずに提出する必要があります。
手順② 就業規則に転換制度を規定し、労働局へ届け出る
正社員等への転換についての規定を就業規則に盛り込み、労働局へ提出します。転換の規定は正規雇用への転換や派遣社員からの採用など、状況によって記載する内容が異なります。就業規則は作成(変更)だけでなく、労働者代表の意見を聴いたうえで、労働基準監督所に届け出る必要があり、施行日は正社員転換よりも前である必要があります。
※手順①と②は転換以前に実施する必要があります。許可が出るまで時間がかかるので要注意です。とりあえず今後5年計画でキャリアアップ計画書を策定し提出することをオススメします。時間があるのであれば、自力で申請すると経過日数間違いで申請が無駄になることを防げると思います。これがよくあるのです。
手順③ 労働者を転換する
就業規則に則って試験や面接を行い、合格後に労働条件通知書(雇用契約書)を交付します。規定した方法以外で転換を行うと認められませんので注意が必要です。また、就業規則に規定している労働条件・待遇にしなければなりません。
手順④-1 転換後6ヶ月間雇用を継続した後に1期目の支給申請を行う
転換後6ヶ月間雇用を継続し、6ヶ月分の賃金を支給した翌日から2ヶ月以内に労働局へ1期目の支給申請を行います。
※時間外手当を基本給とは別に翌月に支給している場合については、6ヶ月分の時間外手当が支給される日が賃金を支給した日とします。
※転換後6か月間の賃金を転換前6か月間の賃金と比較して3%以上増額している必要があります。
手順④-2 転換後12ヶ月間雇用を継続した後に2期目の支給申請を行う
転換後12ヶ月間雇用を継続し、12ヶ月分の賃金を支給した翌日から2ヶ月以内に労働局へ2期目の支給申請を行います。
※時間外手当を基本給とは別に翌月に支給している場合については、12ヶ月分の時間外手当が支給される日が賃金を支給した日とします。
なお、1期目の支給申請で不支給決定を受けた場合は、2期目の申請はできません。
手順⑤ 審査・支給決定
審査では、提出した書類(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、雇用契約書、就業規則)について労働法令の違反がないかチェックされます。時間外手当の計算から出勤簿との整合性などを細かく審査され、不明瞭な部分があれば追加で資料の提出を求められます。
申請から支給決定までは約半年かかり、審査を通過すると支給決定の通知書が交付され、助成金が振り込まれます。(通知書が届くより早く助成金が入金される場合があります。)
注意点があります。
・正社員コースの申請期間は、転換後6ヶ月分の賃金を支給した翌日から2ヶ月以内と定められています。この期間を過ぎると申請できませんので注意しましょう。
・申請するためには、転換後6か月間の賃金を転換前6か月間の賃金と比較して3%以上増額している必要があります。時間外労働手当(固定残業代含む)など毎月変動するものや、通勤手当など実費補填であるものは対象外になり、2021年度から賞与についても含まれなくなったため注意が必要です。
また、家族手当など固定的な給与も就業規則に記載されていないと含めることができないので注意しましょう。
とにかく時間がかかりますが、まずはキャリアアップ対応就業規則の作成を行い、5年間有効なキャリアアップ計画を、直近に採用予定が無くても作成しておくことをお勧めします。
では、補助金申請は計画的に。

JECCICA客員講師 渡辺 太志
(株)アイズモーション経営企画部長 プロフィットシステム常務取締役 コンサルタントとして企業の経営戦略から組織開発までトータル支援が可能。 SNSを活用した集客・販促により宣伝広告費の圧縮を行い、経営改善に繋げるシステム作りのコーディネートを得意とする。