2023年 年頭所感 宮松利博
■「あっ!」と驚く意外性のあるECを目指して
「おしゃべりひろゆきメーカー」に端を発し「水害フェイク画像」がSNSを混乱させた2022年。良くも悪くも「ヒトが見破れないレベルに到達した人工知能」は、世間にショックを与えました。
いわゆる「生成系AI」と呼ばれる技術ですが、少し冷静にみれば「こんなこともできるんだ」といったレベルどまりで、EC事業者が「ありがとう、生成AIさん!」と叫べるほど恩恵を受けるサービスに出会うことのなかった2022年でもありました。
しかし、この「生成AI」、近づくシンギュラリティ、期待されるメタバース、などなど、2023年に語られるであろうのECのテーマと切っても切り離せない存在として注目を浴びています。
たとえば「接客アバター」、人工知能で動くメタバース店員さんです。キーワードは「マルチモーダル」。声・目線・口角の上がり下がり、触覚にいたるまで、ヒトの様々なデータから感情を学習しつくした「空気も読めるAI」、それが「生成AI」なんです。
ハハハ、まさか・・・と思われるかもしれませんが、日々、”generative AI” “eCommerce” のGoogle検索結果をウォッチしている自称「生成系AIスペシャリスト」の筆者だけでなく、Google社、META社、ディープマインド社など多くの世界的AI研究者が「2023年は生成AIの年」と期待を寄せていることからも、少し耳を傾けておく必要はありそうです。※1
さて「空気まで読んでくれるAI」となりますと、がぜん期待したいのは「あっ!」と驚く意外性のあるEC。「あなたのECサイトのオススメはいつも似た商品ばかりでつまらない」「リアル店舗の店員さんなら、ハッ!とするような意外な商品を提案してくれるのに・・・」今までECが超えられなかった店舗との大きな壁なのであります。
一方で、こうした「ビッグデータに埋もれた答え」は、人口知能学会や行動計量学会などで発表される研究結果を拝見していると、日々研究は進んでいることがわかります。また、筆者が専務理事を務めるECをベースとした「日本イーコマース学会」でも機械学習マーケティングの手法の発表が多くなってきました。例えば筆者のコンサルタント先である「花キューピット株式会社」と日本イーコマース学会の主幹である「早稲田大学」の後藤研究所が共同でおこなった研究(※2)や、昨年の当学会の学術大会で後藤研究所チームが発表した「意外性を持たせたレコメンドシステム」に関する研究(※3)は、まさに筆者が期待する未来を具現化するための技術手法でした。
「ハッとする意外な購入体験」は、今までもマーケ界隈では「セレンディピティ・マーケティング」といった言葉で語られてきましたし、こうした研究が実用となるまで少し時間がかかるものです。しかしそれが満を持して2023年に期待が寄せられているということのようです。
二の足を踏むより新しい一歩を踏み出したいファーストペンギンな筆者なので、ややフライング気味であることはご容赦いただきつつ、「こんな素敵なEC体験があったなんて!」と一人でも多くの方々に感動してもらえるよう、メタバースEC推進派の一人として、年始のごあいさつと変えさせて頂きます。
※1:Where will AI go next? MIT Technology Review November 8, 2022
※2:「生花ECサイトの購買履歴に基づく商品特性分析モデル」
※3:「Collaborative Metric Learning による推薦システムの意外性向上に関する一考察」
JECCICA客員講師 宮松 利博
得意分野/Eコマースの立ち上げ・販売拡大
1998年に公開したフリーウェアがヒット。その知見で開発した商品が大手ECコンテストで12部門受賞、3年で年商20億円に(現ライザップ)。上場と同時に保有株を売却し、ECコンサルティング会社を立ちあげ、業界No.1クライアントを多数抱える。日本イーコマース学会専務理事。