「暗喩」と購買導線
JECCICA NEWS VoJECCICA特別講師 笹本 克
「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」
これは皆さんご承知の通り正岡子規の有名な俳句ですが、俳句は五七五の十七音の中にどれだけの想いや情景などを織り込めるかという遊びです。
この俳句では「柿くえば」で秋という季節を描き、法隆寺+柿で奈良の斑鳩の「里」の風景を織り込み、「鐘が鳴る」に鐘の音が響き渡る静かな「里」の風情を表すという暗喩が使われています。
さらには、笹本が感じるにはですが、静かな午後あるいは夕暮れ時の風景が浮かんでくる様な気がします。
元々日本語は、会話においても背景や状況(コンテクスト)を最大限利用して、主語さえも省略してしまう場合があります。
それでもコミュニケーションが成り立つのは、相手が容易に想像できるであろう部分については敢えて言葉にせず「暗喩」を利用する文化に慣れ親しんでいるからだと思います。
そして、この暗喩を活用することにより、ごく短いコトバの中に大変多くの情報を盛り込んで相手に伝えるという離れ業をやってのけます。
これが芸術のレベルにまで高めたのが俳句や短歌であり、現代社会においてもキャッチコピーなどの名称で商業などにも利用されているのです。
暗喩を利用してのコミュニケーションには成立条件があります。
それは伝える側と受け取る側が「ある事柄」に対してほぼ同じイメージを持っていることです。
さらにその前にコミュニケーションを行う相手に対して、どの程度まで自分と同じイメージを持てる人であるのか?を「見極める」ということをしてから、暗喩が使える「度合」を推し量っているかと思います。
たとえば「みかんの季節」というコトバで「冬」という季節が伝えられる相手はオジサンオバサン以上の世代だけかと・・・。(笑)
ECサイトでも「少ない語数で」「多くの情報」を盛り込める暗喩は是非活用したいものです。
何百万ページの膨大な情報量(=ex.商品ページ)を持つサイトでも、ユーザーに見て頂けるのはたった1ページだけです。
しかも、スクロールをしてもらえなければそのページ全部を見て頂くことさえできないのです。
だからこそサイト全体のコンテンツ量から見れば「ごくごく一部」しかご覧頂けないユーザーに対して、できるだけ多くの情報を伝えたいわけですが、いざECサイトで暗喩を使おうとすると大きなハードルが待ち構えています。
お客様の姿が見えないECサイトにおいては、暗喩を使える成立条件=相手を「見極める」ということができません。
相手の「見極め」を行わずに一人勝手に暗喩を使うと、いわゆる専門バカ的な発信になってしまいます。
カタカナ言葉の羅列で意味不明のPCマニュアルなどはその好例ですが、ではどうしたら良いでしょうか。 ペルソナマーケティングという言葉があります。
ペルソナとは元々は心理学用語の仮面=それぞれの環境に応じた(本音を隠した建前的な)振る舞いex.母親らしく 社長らしくという様な意味ですが、商業用語としては想定上の人物像という意味合いで使われています。
お客様目線というレベルからもう一歩踏み込んで、どんなお客様がいて、それぞれの商品やサービスなどに対して「どの様な価値判断をして」「どの様な想いを持ち」「どのように行動するだろうか」ということを「真剣に」「想像」しながら、その架空の(ある意味では典型的な/あるいは売り手が理想とする)人物に支持される様に付加価値や訴求方法を考察してゆくというマーケティング方法なのですが、お客様の姿が見えないECサイトにおいては、特に有益な手法になると思います。
暗喩がどこまで使えるか?と言っても使う相手が見えないのですから、「真剣に」想像してみる他にないのですが、何もない白紙の状態で「具体的に想像」するのは難しいかと思いますので、分かりやすい検索キーワードを例に話を進めたいと思います。
あるお客様が「婦人服+コート」という検索KWで自分用の商品を買う目的で来訪されたとします。
何歳ぐらいのお客様だと思いますか? 30歳?35歳?あるいは50歳ぐらいでしょうか。一般的に考えれば30代後半の女性ぐらいから「婦人」というコトバの範囲に含まれてしまう様な気がします。
少なくとも売り手はできるだけ多くの人に買って頂きたいので「幅広く考えがち」かと思いますがいかがでしょうか。
でも笹本はex.30代後半~という「一般的な」人物像の想定には「真剣さ」が足りないと思います。 たとえば、そのお客様は「どんな環境で」検索していたのかを「真剣に」想像してみましょう。
普通、PCやスマホを使っている環境とは「人の目が気にならない環境」であることが多いのではないでしょうか。であれば、人の目が気にならない環境においても自分自身に対して「婦人」というコトバを適用する人であるわけです。
もう少し言えば、「もうレディースではない」と自分自身で思った(諦めた?)年齢の人と言えるかもしれません。 「真剣に」想像してみると30代後半~というのはまずアリエナイ!と思うのですがいかがでしょうか。
「婦人服+コート」という単純な検索キーワードにも 「柿くへば」⇒秋 「鐘が鳴るなり」⇒鐘が聞こえる静かな里 のごとく、深い「暗喩」が含まれていて、暗喩をひも解くカギは コンテクスト(=環境や背景 このケースでは 人の目が気にならないという状況)にあると思っています。
サイト運営者は暗喩を使うだけでなく、暗喩を読み取る力も必要になってきますねっ。(笑)
では、お客様の姿が充分に想定できたとして話を先に進めます。
まずは商品カテゴリのメニューを例にして暗喩の使い方を説明したいと思います。
- 商品カテゴリ A「バッグ」このメニューをクリックすると、どんな商品が並んでいそうですか?
- では、 B「バッグ かばん」このメニューをクリックすると、どんな商品が並んでいそうですか?
- では、 C「バッグ 鞄」このメニューをクリックすると、どんな商品が並んでいそうですか?
表記としては小さな差ですが、【暗喩】される商品群にどれだけの違いがあるかお気づきでしょうか。
たとえばAの場合「男性物」は暗喩の中に含まれない気がしますし、BとCでは漢字とひらがなの違いだけですが、「本革の高級かばん」が含まれていそうな暗喩を持つのはCでありBでは薄い気がします。
であれば、暗喩する価格帯もCの方が高いはずです。
そしてCのバッグはAやBのバッグに比べて、比較的お値段の高い商品群を暗喩していそうな気がします。
上記の例で言えば、AやBではex.本革の男性物 を期待して訪れたユーザーの離脱率が高くなるでしょうし、Cも比較的低価格帯のファッションバッグなどを求めるお客様などの離脱率が少し高くなるかも知れません。
一方で、お客様の姿が充分に見えていて、たとえばヤング中心であることがはっきりしているのであれば、Aの表記でも特に問題はない可能性もあります。
笹本の世代であればex.本革 の次に繋がるワードはかばんであってバッグではない気がするのですが、若い世代は男性物であっても本革+バッグというリンケージに違和感がない可能性もあるからです。
暗喩は、伝える相手の受容度を推し量ってこそ成り立つことをお忘れなく。
もちろんスペースが許せば、「バッグ かばん カジュアルバッグ 本革 トラベル ビジネス・・・」と羅列したい所ですがメニューにこれをすべて書いてしまうと「ex.シューズのメニュー」がブラウザの可視範囲から外れてしまい、今度はシューズのユーザーが離脱する確率が高くなってしまいます。
暗喩を使うことで、限られたスペースの中でもさらに多くの情報を伝えることができます。
上手に暗喩を使いこなせば、次のステップへの移行率も高まり離脱率も低減することでしょう。
ちなみに上記メニューの例は暗喩の使い方のごくごく一例に過ぎません。
たとえば可視範囲内に1千円と1万円の商品2つが見えている場合と3千円と5千円の商品2つが見えている場合、8千円ぐらいの商品を「豊富に」取り揃えていそうなのはどちら?
まだまだありますが、後はご自身で考えてみてくださいねっ♪(^0^)V
JECCICA NEWS Vol.36 掲載
JECCICA特別講師 笹本 克
自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。