楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.85 【日本は何故「閉塞感」が漂う国になったのか?②】
【バブル経済崩壊後のビジネス】平成初期のバブル崩壊後、それまでの行き過ぎた行動への反省から、「ビジネスは慎重に行い、成功確率を1%でも高めよう」「売りにつながる企画を行おう」といったように、考え方が変わっていきました。加えて日本市場は「飽和市場」「低成長」と言われるようになり、さらに慎重な姿勢が強まりました。このような背景から(私もそうでしたが)、多くのビジネスパーソンは「マーケティング・マネジメント」のフレームワークや、それを論理的に活用するための「ロジカルシンキング」を本格的に学び始めました。しかし、最近感じるのは、バブル崩壊から30年以上が経過して、社会が大きく変化しているにもかかわらず、日本の経営者やビジネスパーソンは、ますます保守的になっているのではないか?という疑問です。
【何故「保守的」になったのか?】
大きな理由は、以下のような流れが背景にあると思います。
■バブル崩壊以降の「失敗恐怖社会」
●1990年代以降、日本企業は失敗を極端に恐れるようになりました。
●「失敗しないためには根拠が必要」となり、数字やロジックでリスクを事前に潰すスタイルが正義となりました。
●ロジックを積み上げることが「失敗しない=評価される」ための最短ルートになったのです。
●さらに、「市場調査やデータに基づいた」と言えることで、万が一の際の保身にもなりました。
■コンサルティング文化の輸入と「誤った」理解
●1990年代後半から、MBA教育の普及や、戦略コンサルティングで使われるフレームワーク(型)が日本でも広く活用されるようになりました。
●「成功するには、ロジカルに考え、フレームワークを効果的に使いこなすべきだ」という考えが浸透し、ビジネスの高度化に大きく貢献しました。
●一方で、一部のビジネスパーソンは「とにかく型を覚え、それに当てはめることが大切」といった、「誤ったフレームワーク先行」の理解が見られるようになり、本来の創造性や現場感覚とのバランスが課題になるケースも出てきたのではないかと感じています。
■グローバル競争と「説明責任」至上主義
●株主や投資家への説明責任が強く求められる時代になり、「直感で動きました」では通用しない環境になりました。
●だから上層部も現場も、「数字で説明できるもの」「ロジックで防御できるもの」しか承認しなくなりました。
こうした背景から、ビジネスを成功させるには「賢くロジカルにフレームワークを使いこなすこと」、そして「数字で説明できるもの・ロジックで防御できるもの」が正義になったという流れだと思うのです。この流れを言い換えれば、ビジネスパーソンは「公私を分けて考え、個人の感情を入れず、極めて客観的な左脳寄り(ロジック・データ偏重)」になったことが大きいと感じています。
【左脳寄り(ロジック・データ偏重)の問題点とは?】
「左脳寄り(ロジック・データ偏重)」になったことで、私たちのビジネスを行う上で、どんな問題点があるのか、具体的に記してみます。
■「ロジック偏重=正義」になったことの功罪
●ロジカルに考えることは正しい行動です。課題を可視化し、意思決定の透明性を担保し、関係者に説明して情報共有を図り、行動する上では、非常に有効な手法となります。
●ただ、それが唯一の「正義」となった瞬間に、人間らしい創造性や感性、経験に基づく直観が「排除」されていったことが問題だったのです。
■「成功確率1%でも高く」の副作用=過剰な正解主義
●上司や経営者が若手の発言に対して、すぐに「それって根拠は?」「データはあるの?」と「“What’s the reason?”(理由は?何故ですか?)」を問う文化が根付きました。
●その結果「正解を探す」ことが目的化して、「新しい問いを立てる力」や「未踏領域への情熱」が抑圧されたように思います。
■型を学び整合性を図ることの目的化による「心が動かない」マーケティング
●マーケティングのフレームワークは、ビジネスの「出発点」であって「終着点」ではありません。ところが、フレームを過信して「答えを出すテンプレート」として使う人が増えてしまいました。
●そこに、個人の問題意識や、現場(日常生活)から見聞きして気づく、「自分自身の人間に対しての共感」が入っていないので、「整合性は取れていて論理的には正しいが、人の心が動かない戦略」が量産されたのではないかと思います。
【マーケティングは単なるツール】
マーケティングのフレームワークは、「情報を整理し、最適解を導きやすくするツール」です。つまり最も重要なのは、「入力する情報」=日常の体験や自分の仮説です。ユニークな仮説は、データの裏にある「人の気持ち」に気づいたときに生まれます。数字では測れませんが、人の心を動かす力を持っています。ビジネスパーソンもまた一人の生活者。日々の暮らしに、実はビジネスのヒントがたくさんあふれています。しかし実際のビジネスシーンでは、データと調査結果だけを根拠に机上で議論し、「プライベートな考えを持ち込んではいけない」といった空気が根強くあります。その結果、多くの人が「マーケティングを学んだけれど、実務でうまく使いこなせない」というジレンマを感じているのではないでしょうか。
【これからは「問いを立てる力」と右脳的感性の時代】
私たちはこれまで、「失敗しない正解探し」に長けてきました。しかし、人生100年時代とテクノロジーの進化という「未知の時代」に必要なのは、「まだ答えのない問いを立てる力」です。それは・・
●「まだ誰も気づいていない問題やニーズを見つけ出す力」
●「『なぜ?』から、『もっとこうしたら?』と考える力」
●「今はない価値を想像し、提案する力」
このような「まだ答えのない問いを立てる力」を育成するには、感性・直観——つまり「右脳」の力が欠かせません。
もっと、私たちは自分の中にある「右脳的な感性」を信じて、マーケティングを活用する中で、生かしていいと思うのです。
そこで次回は、マーケティング本来の力を取り戻し、私たちの社会をよりハッピーにするため、左脳だけでなく「右脳のチカラ」をうまく使うポイントをお話します。

JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント