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楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol㊵ 保険をかける仕事から体験を生かす仕事へ!

人間の本質はいつの時代も変わらない
ABS世代には懐かしいバブル期の「おニャン子クラブ」から始まり、今も「AKB48」をはじめとした、さまざまなユニットを仕掛ける音楽プロデューサーの秋元康さん。秋元氏は私より2歳年上の今年63歳ですが、さぞかし今も若い人達のトレンドを追い求めているかと思いきや、昨年秋元氏の話をお聞きする機会があり、こうお話しされていました。
「僕にも青春時代があった。その頃の記憶をたどり、自分がその頃どうだったか、何を求めていたか思い返せば分かる。手紙のラブレターがLINEに変わっただけで、人間の本質は何も変わらない。ツールが変わっただけ!」。この話は私の考えと全く同じで、とても共感しました。

検索することの落とし穴
やはり人間は自ら「経験・体験」しないと、物事の本質は分からないのです。インターネット社会の今日、私たちはすぐ「検索」して記事を見たり、動画を見たりします。しかし、この検索がビジネスや日常生活で、思わぬ落とし穴にはまることがあります。つまり「知った気になる」のです。私は仕事柄、さまざまな企業の方とお話する機会がありますが、現場を目撃しないで「知った気になっている人」を多く見て来ました。
例えば、以前ある大手企業がシニアビジネスを考えているとのことで、専門知識豊富な30代のマーケティング責任者に、ABS世代のディスコカルチャー復活の話を伝えると、その現象を知っていました。しかし実際にその現場を目撃していないので、私は3名の30代マーケティング担当者を視察で連れて行きましたが、思わぬ質問を受けたのです。「鈴木さん、この方たちは健康のためにダンスしているのですか?」と真顔で聞かれ、私はあ然としましたが、彼らの頭には「シニアは健康に興味関心が高い。だから健康目的のためディスコで踊っている。」という仮説が出たのです。
「シニア=健康に興味関心が高い」という固定観念ともいえる、偏った認識がインプットされているのです。やはり知ると見るは大違い、「百聞は一見に如かず」です。
先の秋元氏の話を借りれば、若年層の市場やビジネスの本質をシニアが考えるのは可能ですが、シニアを経験していない若年層は、シニアの本質は到底理解できないと言えるでしょう。

マーケティングを行う意味とは?
そもそも、ビジネスで何故マーケティングを行うのでしょうか?それは、「勘と度胸と経験」だけではリスクがあるので、「成功する確率を1%でも上げるため」と言いますが、確率論から言えば、多くの新商品は市場から消える訳で、相対的に失敗する確率の方が高い訳です。では失敗した時に担当者や責任者、あるいは投資家に対する経営者が保身のため、「市場調査で顧客の声を聞いて実行しました」と社内説明材料に使うとするなら、マーケティングは「失敗した時の保険」にもなり得ます。やはり、現場を見ずに自分の考え(仮説)なくして、机上のデータやロジックだけでビジネスを進めることは本末転倒で、逆に言えば「勘と度胸と経験の鍛錬」はとても必要です。

マーケティングが目的化した大失敗
バブル崩壊後の日本は、それまでの反動から「しっかりと根拠を数値で明確にして、抜け漏れダブりなく論理的に組み立てビジネスを行おう!」という方向にシフトし、マーケティング・マネジメントやロジカルシンキングを学びました。私もこの考えで平成の30年ビジネスを行ってきましたが、あまりにも日本のビジネスパーソンは、「左脳寄り」になり過ぎていると感じています。
例えば、2007年の携帯電話の端末市場を見ると、日本の大手メーカーが市場調査を行い、顧客の声を聞いて開発された製品が、我々顧客から見ると似たり寄ったりのガラケーでした。しかし、そこにスティーブ・ジョブスのアイデアから開発されたiPhoneがデビュー、一気にスマートフォンに代わっていきました。
これはパラドックスであり、マーケティングが目的化して、そこに人間の考えや仮説が希薄だったため、マーケティングで出した最適解より、ジョブズの面白い発想の方に我々の心が揺さぶられたのです。

人間が「疎外」されないために必要な考えとは?
つまり「マーケティング・マネジメント」をはじめ、、「ビッグデータ、IT(情報技術)、AI(人工知能)」など全ては、人間という「主人」が使いこなす優秀なツール、つまり「家来」です。この主従関係が逆転すると型にはまってしまい、そして人間が振り回される、本末転倒なつまらない世の中になると思います。
これは、人間が考えて作った物「機械・商品・貨幣・制度など」が、人間自身から離れ、逆に人間を支配するような疎遠な力として現れて、更には人間があるべき自己の本質を失う状態「疎外」であり、思想家マルクスの提唱は有名です。
ツールである「家来」を有効活用するには、人間自らが「世の中をこうしたい!こんなモノ・コトを社会に提案したい!」という熱い想い(理念)から始まり、自分自身の体験や経験・目撃から「面白い・楽しい・ワクワクする」アイデアを出すことが、アフターコロナ、ライフシフト時代に、ますます重要な気がしています。
■ABS世代 昭和30(1955)年から43(68)年生まれの、若者時代にバブルを謳歌した世代。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 鈴木 準

株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント


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