伸びるEC、その成熟の過程を考える
ECはまだ伸びるのか
最近ご質問をお受けする中でよく聞かれるのが、『ECはまだ伸びますか?』です。なかなか一言でお答えしにくいご質問ですが、EC化率を見ればまだまだ伸びる余地はあるのでしょうね。2020年のEC化率は8.08%でした。
経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」2021年7月)
BtoCのEC化率
2013年 3.85%
2014年 4.37% (+0.52%)
2015年 4.75% (+0.38%)
2016年 5.43% (+0.68%)
2017年 5.79% (+0.36%)
2018年 6.22% (+0.43%)
2019年 6.76% (+0.54%)
2020年 8.08% (+1.32%)
2014年から2019年まで毎年0.36%~0.68%ずつ増加しています。2020年はその2倍以上の伸びになっています。コロナウイルスの流行で在宅需要が伸びたことは明白だと思います。もちろん分野別にみれば苦戦分野もありますが全体では確実に伸びていますし、何しろまだ全体では10%以下なので余地はあると考えるのが妥当でしょう。
心配なのは配送
注文が増えれば売上・利益も増えます。そこでサイトのUIを改善し、データベース性能も向上させ、クラウドは無制限に…。同梱物も充実し、物流も自動化して配送は配送業者さんに頑張っていただいて…なのですが、やはり問題は最後の配送ではないかと思います。コストをかけて増強または機械化・自動化で省力化できる部分はよいのですが、車は増やせても人材と配送ルートはそう簡単には増やせません。再配送を減らす試みやコンビニ、駅、郵便局などの拠点配送も進みつつありますが、まだ我が家にドローンやロボットがやってくるまでにはもう少し時間がかかると感じています。
戦場は未来のマーケット
ECが伸びるとなれば売上を増やしたいですね。新たなECへの取り組みやECサイトリニューアルのお話は増えているようです。OMOやCtoCのお話もよくお聞きします。もちろんローコスト・ハイリターンを否定するものではないのですが、新たな取り込みの初めには新たな事業計画をつくる必要があります。その前提にはやはり分析が重要だと考えます。市場分析・競合分析そして自社分析です。なかでも自社分析は最も重要です。自社の強みと弱みを整理し、強みを生かす戦術と弱みを補填し、将来的には補ってゆく戦術を立てましょう。部分的なアウトソーシングも場合によっては効果的です。仕組みは自社で構築し、作業部分を外部に委託してゆくとか、専門的な部分を当初は外部委託しながら、自社でも学んでいくなどの方法は取れます。市場や競合は常に変化しています。もちろん自社も同様です。何年も前の分析結果はすでに過去のものです。本来は常に把握しておくべきですが、現状を分析し、そこから未来を予測する必要があります。戦場は未来のマーケットだからです。
機械化と自動化、省力化で失われていくもの
ECの出荷作業を見ていると多くの付帯作業が見受けられます。チラシや会報誌の同梱などもそのひとつですが、ラッピングやリボン、日本独特の『のし』とかもそうですね。シールを貼ったり、決まった順番で並べたりといった作業もそうです。そのひとつひとつの作業に受け取ったかたの喜ぶ顔が想像できたり、ご購入いただいたかたへの感謝だったりがあるはずです。合理化していく過程ではどうしても何かが削られていきます。その部分を理解しておきたいと常々思っています。話は違いますが、20数年前にある陶器工場を見学しました。そこの検品作業が素晴らしく、あるヨーロッパの高級輸入陶器の百貨店向け出荷検品を受託していました。チェックされたB品はよくよく見てもどこが瑕疵なのかわかりませんでした。いわゆる職人の目と手ですね。今ごろセンサーで検品されていたら悲しいなと思います。
EC業界の成熟と未来
EC業界はまだまだ若い感じがします。その理由は変化の速さだと思います。技術革新も速く、市場のニーズもどんどん変わっていくからです。無理もないのですが、その速さのなかで人は拙速に答えを出したがります。私たちコンサルタントは問題を顕在化し、その改善のための助言と様々な支援を行います。この仕事を始めた当初は、クライアント様サイドである程度の分析ができており、そこで出てきた問題解決のためのご相談を受けるケースが多かったように思います。最近はEC事業全体の再構築をまるっとご相談されるケースが多いように感じます。時代と状況を考えるとそれも仕方がないのではと考えますが、コンサルタントも含め外部の人間に何をお願いすべきがが明確になっていないと自社の人材が育たないような気がしています。この部分は私たちコンサルタントも多少反省すべき部分なのではないでしょうか。
いずれにしても成長産業と言われているEC業界の中で、事業者様もまたそれを支援する企業ももっと学び、成長していく必要があります。そしていつかよりよい状態に成熟した未来が来ることを祈っています。
私にとってECの未来とは、EC(Electronic Commerce)電子商取引と言われなくなったら、それがECの未来です。そろそろ違和感ありますよね。
JECCICA客員講師 和田 務
株式会社シーズファクト代表取締役社長 クライアントサイドに立ったITコンサルティングを経営、業務改善、物流といった幅広い視点から行い、企画から運用・保守まで全てのフェーズでのプロジェクト支援が可能。複数のITベンチャー企業の設立・経営に参画し、幅広い人脈を生かしての新規ビジネスの企画、アライアンス提案も行う。