商品を通して新たなマーケットの創出を
これからの10年のあるべき姿
結局、商品力がものを言う時代だなと思いました。ただ、それは既存の商品を云々ではなく、新しい発想で、新しいイメージと体験を連想させる形で、マーケットを創出していくということ。
先日、シンクロの西井敏恭さんがこの10年を見据えて、これからの10年の話をしていたのです。GMOメイクショップが20周年記念イベントへ出席した際のことです。彼は「日経キーワード」の話題を挙げて、この10年間、その年毎にワードは違うのだけれど、大体がスマホという軸で語れるのが共通していると指摘しています。
そして、スマホ重視はこれから10年でも言えることでしょう。確かにそうかもしれません。では、スマホを通して変わっていくことは何でしょう。
一番、僕が彼の話で共感したのは、商品が生産されて、流通するまでの過程の変化に関しての部分でした。スマホが浸透し、SNSが台頭したことにより、発信がしやすくなって、小さくとも商圏が生まれるようになりました。
ユーザーとお店がダイレクトに繋がるようになった時に、プロモーションのありようが変わったわけです。従来、人が集まるところに広告を投下して、自らの商品へと誘っていた。でも、そうとは限らなくなったわけです。
製造の中身が変わる
実は、それによって商品の構造が大きく変わりました。つまり、仲介業者が減少したことで、かつてであれば、定価に対して20%ほどの原価で作成していたものも、50%で提供できるようになりました。
当然、顧客満足度は上がります。なぜなら1万円を支払って、今までなら2000円相当の価値を手にしていたのが、5000円相当の価値ができるようになったのですから。
つまり、そこに焦点を絞って考えて、俯瞰してものを見れば、違ったマーケットへのアプローチが可能になるわけです。西井さんの場合で言えば、自らゴルフブランドを立ち上げて、ワンレングスアイアンを提案したわけです。ワンレングスアイアンというのは、全ての番手が同じ長さで設計されています。そのため、同じアドレスとスイングで全てのアイアンを打つことができます。おかげで、ショットの安定性が向上し、ミスヒットが減少するわけです。
ニッチなマーケットに見合うだけの生産性
僕は、ゴルフは詳しくないですがニッチなマーケットであることはわかります。市場のパイは小さいから、それを普段、馴染みのない層に対して、手の届く価格で訴求すれば、その裾野が広がるわけです。この発想で大事なのは、安さを差別化要因にしているのではなく、違う層に違う価格帯で提供して、マーケットを創出していることです。
不思議な話だけど、それをGMOメイクショップの20周年のイベントで話していることに納得したわけです。自社ECサイトのプラットフォームですから。今こそ、自社ECを味方につけて、新しい発想で商品を作り、マーケットを作りましょうというわけです。別に、自社ECに肩入れするつもりはありません。数字上のデータだけ見ると、モールの売上高が自社ECよりもいい。その点で、自社ECを語っても仕方がないでしょう。
モールの躍進にはそれで意味があるし、否定はしません。しかし、それだけでは必ず頭打ちがきます。それは商品のカテゴリーに依存しているからです。従来の枠組みでパイの取り合いをしていけば、自ずと価格競争となり、事業者は疲弊していくばかりです。
顧客体験の中で新たな価値を醸成する
それでいうと、顧客時間の奥谷孝司さんの話がふと僕の頭をよぎりました。彼は顧客時間を起点にその前後への意識を徹底することが大事だと話していました。
そもそも「企業=販売者」が提供する「価値」は何かを考えます。それがあるから「戦略」を立てられます。それがあって「顧客時間」を形成していくわけです。この顧客時間は購買という行動に他なりませんが、従来のそれとは大きく異なります。
当然ながら、売って完結するわけではありません。
今度は攻守逆転して「顧客」が受け取る「体験」が何かが重要。そしてそれに伴う「利益」が大事となる。事業者は、このバランスを保つことを念頭に置き、経営目線でそれを実践していかないといけないというわけです。例えば、Peloton(ペロトン)では、トレーニングマシンを売るのではなく、データに基づき、顧客を知り、トレーニングを指南していくわけです。
俯瞰してその会社は何を提供するのかを経営目線で
モールであれ、自社ECであれ、ネット通販で業績を伸ばした人たちは、すでに知見と実績があります。だから、今こそ、時代を俯瞰し、そういう挑戦も必要なのではないかということです。人口減となるし、新しい売り先に対して、伸び代を作っていくことが大事です。
それこそ、スマホを起点に、今までのやってきたことをベースにして、自らの商品の価値観を発信して、チャレンジングに挑んでいく。先ほどのゴルフではないけど、既存のゴルフのカテゴリーで勝負するのではない。
それが可能なのは、今までとは違って、仲介が少ない分だけ、俯瞰してお客様の手に届くまでの価値を提供し、末永い関係を築けるだけのデータ分析ができる環境が、ネットにはあるからです。
また、価格と価格訴求の部分で提供する側と受け止める側の折り合いがつきやすい時代なのだから、自らの強みをそこで発揮するべきだとするのは自然な流れでしょう。

JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役