Eコマースとの関わりを予測
日本の食の舵取り「グローバルGAP」
いきなり「グローバルGAP」。このワードを耳にした読者もおられるはず。「Good Agricultural Practices は、農業生産の環境的、経済的及び社会的な持続性に向けた取組みであり、結果として安全で品質の良い食品及び非食品の農産物をもたらすもの。〔国連食糧農業機関(FAO)より〕」とあり、GAPの前にGlobalが付いた「Global Good Agricultural Practices」は、”国際標準の生産工程管理を行う生産者”であると、国内外の取引先に交渉する際のアピールポイントとなる認証です。
2017年3月10日のJECCICAセミナーで、株式会社グロッシーの 北村貴 代表取締役が「2020東京五輪フードビジョンで日本の食はどうかわるか?」をご講演いただきました。衝撃を覚えました・・・
ロンドンオリンピック(2012年)ではグローバルGAP認証が「オリンピック調達基準」とされ、そしてリオ、東京と国際標準となるオリンピック調達基準は引き継がれつつ、開催国の「おもてなし」が加わります。
筆者自身も、3月10日に初めて「オリンピック調達基準」「グローバルGAP」を知りました。北村貴氏のお話「共感してくれる人の手により、日本の食を変える」と筆者には聞こえました。そして4月11日に北村貴氏をお訪ねし、北海道十勝へと向かったのです。
毎回、Eコマースの教科書的な内容でこのコラムを担当していますが、「EコマースとグローバルGAP、何が関係あるの?」と問われそうです。
グローバルGAP認証の取得によるメリットとは?
<販路の拡大>
・国際標準の生産工程管理を行う生産者としてアピール
・輸出を目指す場合の取引資格、条件の獲得
<生産性向上>
・生産工程が明確になることによる生産性の向上
・適切な肥料、農薬などの散布によるコスト低減と収量の増加
・新人研修用マニュアルとして活用し、技術習得の時間短縮
<意識の向上と信頼の確保>
・食の安全、環境保全、労働の安全に対する意識向上
・生産者としての責任を果たすことによる社会的信用獲得
<緊急時対応の確立>
・消費者からの問い合わせ、苦情などに迅速に対応
・適切な危機対応による信頼獲得
「販路の拡大」と「生産性向上」大きく2つのメリットが得られ、Eコマースにおいても同様と言えます。
中国のEコマースをリードするアリババグループ子会社である「天猫」(Tモール)とグローバルGAP認証は、2017年2月7日 Fruit Logistica(ベルリン国際野菜フルーツマーケティング展)の会場にて、「Tモールフレッシュが扱う生鮮品については、グローバルGAP認証を取得したものとする。」と記者会見発表を行っています。
中国国内の富裕層や都市部の賢い消費者に広く受け入れられている「Tモール」のEコマースサイトで、「グローバルGAP認証を取得した」生産者による農産物、海産物、食材の販売は、大きな信用と信頼につながります。このように販売商品の取引条件としてグローバルGAP認証が採用される動きは今後、「Tモール」以外のモールやEコマースサイトでも広がる可能性を覗かせています。
北村貴氏の講演聴講を機に、「グローバルGAP認証」の強い威力に魅せられ、最新の情報収集を得るため実際に認証取得された農業法人の視察や教育機関をインタビューし、それら視察レポートを基に郷里の行政に「グローバルGAP認証」の積極的な取組みを働きかけています。それらの情報をまとめ「グローバルGAP認証」について当コラムにてご紹介します。
■グローバルGAP世界と日本の認証の現状
世界の認証農場数は(2011年12月時点で)112,576農場、そのうち、日本は20農場でした。ちなみに中国は280農場、韓国は169農場、タイは263農場、ベトナムは258農場です。
認証農場の74%は欧州域内にあり、スペイン(25,923)・イタリア(15,892)などが多く、欧州域外では南米のチリ(2,595)やペルー(2,566)が多い。米国は470農場です。
現在、JGAP認証農場は1,700を超えつつあります。韓国やタイにもJGAP認証農場があります。東アジアではJGAPが最も存在感のあるGAP制度に成り得る可能性があります。
2020年東京五輪・パラリンピックの選手村など関連施設で使う食材は、農産物の調達基準について国内産を優先的に選択し、生産工程管理(GAP)の認証取得を条件とすると決めました。大会期間中に選手村などで提供する農産物の調達基準を定めたもので、「持続可能性」の観点から決定しました。生鮮食品については調達基準を満たすものが条件で、加工食品については可能な限り基準を満たすものを調達することとしています。調達基準を満たすものとして認められるのは、「グローバルGAP」、「JGAPアドバンス」または、農林水産省作成の「GAPの共通基盤に関するガイドライン」に準拠したGAPに基づき生産され、都道府県等公的機関による第三者の確認を受けているもの。加えて、有機農産物や障害者が主体的に携わって生産された農産物、世界農業遺産や日本農業遺産など伝統的な農業を営む地域で生産された農産物が推奨される。とされています。
しかしながら、「グローバルGAP」+「JGAPアドバンス」認証取得の国内農場は、2%に満たない現状からみると、世界に誇る「和食」の原材料がGAP認証のない国産品ではなく、GAP認証のある輸入品が採用される可能性が大という悲しい危機が推測されます。
この危機を避けるためにも、北村貴氏のご講演「2020東京五輪フードビジョンで日本の食はどうかわるか?」でのグローバルGAP認証取得の意義を共有してもらいたいと願っています。
■グローバルGAP取得の申請から審査流れ
グローバルGAPは認証審査機関の審査員が生産現場で審査を行う「第三者認証」です。
現在国内の認証審査機関は以下3社です。
テュフズードジャパン株式会社
http://www.tuv-sud.jp/jp-jp
東京都新宿区西新宿4丁目33番4号
SGSジャパン株式会社
http://www.sgsgroup.jp/
神奈川県横浜市保土ケ谷区神戸町134
インターテック・サーティフィケーション株式会社
http://ba.intertek-jpn.com/
東京都中央区日本橋堀留町1-4-2
※個別審査、青果物のみ認証可能
取得申請にあたっては、すべてを自身で行うことも可能ですが、申請書類が英文であり、不慣れな
場合コンサルタントに依頼することも可能です。すべて自分で行う場合とコンサルタントに依頼する場合で、申請から審査流れまでの期間など異なります。(審査機関を選ぶことは可能です)
<全て自分でやる場合>
※取得までに概ね1~2年程度
※審査料40万円
1)グローバルGAPチェックリストを入手
2)チェックリストに合わせて対応策を講じる
3)自分で内部監査を実施
4)本審査を認証審査会社に申込
5)審査会社による本審査
6)審査時の指導事項を修正し、修正申告
(初年度は3ヶ月の修正申告期間/次年度より28日)
7)修正申告の内容がクリアで判定審査 ⇒ 認証取得
<外部からの指導を受ける場合>
※取得までに概ね1年程度
※審査料40万円、コンサルタント料60万円~160万円
1)グローバルGAPチェックリストを入手(コンサルタント提供)
2)チェックリストに合わせて対応策を講じる(コンサルタント指導)
3)自分で内部監査を実施(コンサルタント指摘)
4)本審査を認証審査会社に申込
5)審査会社による本審査(コンサルタント同席)
6)審査時の指導事項を修正し、修正申告
(初年度は3ヶ月の修正申告期間/次年度より28日)
7)修正申告の内容がクリアで判定審査 ⇒ 認証取得
認証取得はチェックリスト(管理点及び適合基準)の入手から始まります。
食の安全、環境保全、労働の安全に適合する以下の設備面を整え、
・農薬保管場所
・肥料保管場所
・ゴミ廃液集積場所
・作業場トイレ
・機械修理工具保管場所
・重機保管場所
・生産品保管場所
・出荷作業場所
・残留農薬検査所
・事務記録保管場所
・蛍光灯飛散防止設備
チェックリストに応じた対策を講じたうえで、内部審査を実施しその後、認証審査期間による本審査となり、審査員が生産現場で8時間におよぶ本審査を行います。本審査は一発で通過しなくても、現場にて修正指示が下り、それに対応して、定められている修正申告期間を経過した後に修正申告ができます。
主なコンサルタント会社は以下の通りです。
株式会社ファーム・アライアンス・マネジメント
https://www.farmalliance.net/
東京都千代田区九段南3丁目4番5号
株式会社AGIC
http://www.agic.ne.jp/
茨城県つくば市松代3-4-3
認定NPO法人アジアGAP総合研究所
http://asiagap.jp/
東京都千代田区紀尾井町3番29号
イオンアグリ創造株式会社(イオン創農塾)
http://www.aeon.jp/
千葉県千葉市美浜区中瀬1-5-1
■グローバルGAP 認証の種類
「グローバルGAP基準」に基き認証を取得した個人農家認証
個人農家や農業法人、学校法人が取得する一般認証です。
「グローバルGAP基準」に基き認証を取得したグループ認証
生産者メンバーもしくは生産サイト全体を統括管理し、内部監査、文書管理といった
品質マネジメントシステム(QMS)を運用する必要があるのがグループ認証です。
グローバルGAPの一般規則でグループ認証取得のルールなどを定めています。
世界のグローバルGAP認証取得農場の74%は欧州域内にあり、その70%がグループ認証によるものです。グループ認証を得た1団体あたりの平均農場数は46農場です。
1品目で、農場数の多い団体の場合、グループ認証がコスト面で優位のようですが、認証取得のルールや、認証取得に向けての準備、グループ認証のメリット、内部監査など確認すべきところがたくさんあります。
グローバルGAPは、認証を取得したことがもたらすメリットだけでなく、その審査プロセスで生産工程を明確にし、客観視できることが、生産者にとって大きな財産になります。販路の拡大や輸出などグローバル化、越境ECを検討している生産者は、ぜひ認証取得に向けて取り組んでいただきたいと願います。
JECCICA特別講師 松橋 正一
EC得意分野/モールEC構築、amazon出品支援 楽天、ヤフー、amazon、自社サイトなどECサイトの運営経験を基に、数々のショップを構築サポート。 大規模ECサイトの効率的な構築、データ処理システム構築を得意とする。