売るためのメルマガから、一次情報を集めるメルマガへ 〜GEO時代、一次情報は「書く」より「集める」〜
前回のコラムでは、GEO対策について「商品ページの改善」という視点からお話ししました。結論を先頭に書くこと、FAQを整理すること、そして一次情報を明記すること。この3点を紹介しましたが、正直なところ、一番難しいのは「では、その一次情報を、どうやって書けばいいのか、どうやって集めればいいのか」という部分ではないかと思っています。
通販会社には、すでにGEOに使える一次情報が大量にあります。問題は、それがCRMの中に眠ったままになっていることです。メルマガを含むCRMの接点からその情報を回収し、検証し、公開Webへ戻す仕組みを作る。今回はこの「集め方」を、通販・CRMの現場では欠かせない存在である「メルマガ」を切り口にお話ししたいと思います。
メルマガの価値は、下がり続けてきた
ここ数年、CRM全体を見渡したときに、メルマガの価値が下がってきていると感じている方は多いのではないでしょうか。ただ、正確に言うと、メルマガそのものの価値が下がったというより、従来の「一斉配信を開封率だけで評価する」という評価方法そのものが、限界を迎えているのだと思っています。
理由は一つではありません。まず、配信しても毎回読まれるわけではありません。LINEやアプリのプッシュ通知に押され、受信トレイの中で埋もれてしまう。さらに、企業側の負担も軽くありません。ネタを考え、原稿を作り、配信設計をし、効果を検証する。この一連の作業は、想像以上に手間がかかります。「費用対効果が見えにくいわりに、運用の負荷は高い」というのが、メルマガに対する多くの現場の本音ではないかと思います。
GEOの時代、さらに追い打ちがかかる可能性
ここに、もう一つ新しい変化が重なってきています。それが、GEO(生成AI最適化)の広がりです。なお、本稿でいうGEOとは、生成AI検索が自社や商品について、正確で文脈に合った回答を生成できるよう、公開情報の内容・構造・出所・一貫性を整える取り組みを指します。
お客様が商品を探すとき、検索結果の一覧を見比べるのではなく、AIに直接「おすすめは?」と尋ね、その回答だけで疑問を解決してしまうケースが増えてきました。これは、サイトへの訪問そのものが発生しない、ということでもあります。これまでも決して楽ではなかった集客が、GEOの広がりによって、さらに厳しくなる可能性があるのです。
だから、メルマガをもう一度見直したい
こう聞くと、「メルマガも先細りなのだから、もうやめてしまってもいいのでは」と思われるかもしれません。ですが、私はむしろ逆だと考えています。メルマガは、検索やSNSに比べて、企業が継続的に管理しやすい接点です。
検索やSNS、そしてAIの回答経由の露出は、いずれもアルゴリズムやAIの判断という、企業側でコントロールしきれない領域に依存しています。ルールが変わった瞬間に、露出が失われることもあり得ます。一方でメールアドレスは、そうしたアルゴリズムに左右されず、企業側から直接アプローチできる数少ない顧客接点です。GEOによってサイトへの流入経路そのものが、これまでと変わっていく可能性がある今だからこそ、この、企業が継続的に管理できる接点としての価値は、相対的に上がっていくはずです。
正直に言うと、メルマガは毎回開封されなくても構わないと思っています。大切なのは、あなたの会社を好きでいてくれるお客様に、忘れられずに届き続けることです。極端に言えば、件名にブランド名や商品名が出て、一瞬「そういえば」と思い出してもらえれば、それだけで十分に役割を果たしています。
ただし、それは「とりあえず値下げ情報を送っておけばいい」という意味ではありません。つまらない割引訴求だけを繰り返すメルマガと、自社の価値をダイレクトに伝えるメルマガとでは、同じ「思い出してもらう」でも中身がまったく違います。
メルマガとGEO、そもそも何が関係あるのか
ここでいう「メルマガがGEOに効く」とは、メールそのものがAI検索に読み込まれるという意味ではありません。メルマガを、顧客の質問や利用実態を収集する起点とし、そこで検証した情報を公開Webコンテンツへ反映することで、結果的にAI検索でも参照されうる情報基盤を整える、という意味です。
GEO対策を解説する記事の多くは、商品ページの書き方、構造化データ、著者情報、外部メディアでの言及やレビューといった、いわば「発信する場所」や「発信の型」を中心に扱っています。もちろん、どれも重要な要素です。
ただ、今回私が向き合いたいのは、その一歩手前にある問いです。それは、「そもそも、その一次情報はどこから生まれてくるのか」という、社内・顧客接点側の話です。通販会社には、GEOの材料がないわけではありません。むしろ、コールセンター、お客様相談室、アンケート、レビュー、返品・解約理由、定期継続の声など、顧客理解の材料は一般的な企業より豊富に蓄積されています。問題は、それらがCRMの中だけに閉じていて、商品ページやFAQといった公開情報まで戻ってきていないことです。実際、前職の再春館製薬所でも、こうした情報は当たり前のように社内に蓄積されており、日々の施策にしっかりと活用されていました。この記事では、メルマガを単なる「配信のための場所」としてではなく、一次情報を「収集し、編集し、再配信するプロセス」として位置づけ直すことを提案したいと思います。
メルマガを「一次情報の発掘装置」にする
メルマガは、情報を一方的に届けるだけの媒体ではありません。お客様から情報を回収する媒体としても使えます。たとえば、次のような問いかけです。
- 「どの使い方が分かりにくかったですか」と質問する
- 商品を知ったきっかけをアンケートで聞く
- 購入前に不安だった点を募集する
- 使用後の変化を自由記述で集める
- お客様の言葉を、許諾を得たうえで掲載する
「購入前に何が不安でしたか」「実際に使って意外だったことは何ですか」「他の商品ではなく、なぜこれを選びましたか」。こうした問いを、たとえば100人のお客様から集められたとしたら、それはかなり強いデータになります。
こうして得られた回答は、単なるメールマーケティングの反応データではありません。お客様から直接集めた、自社にしか持てない一次情報になります。FAQ、比較ページ、商品説明、広告コピー、そしてAI検索対策の材料としても使えます。自社の中だけで「強みを言葉にしよう」と頭を悩ませるより、実はお客様自身の言葉の中に、他社には書けない一次情報がすでに眠っていることが少なくありません。
メルマガを「売上を生む装置」として捉えること自体は、ビジネスとして間違ってはいません。ただ、CRM(Customer Relationship Management)という言葉の本来の意味に立ち返るなら、それだけでは片手落ちだと思っています。CRMとは本来、お客様との関係を築き、深めていくための仕組みであり、一方的に売るための装置ではありません。お客様に問いかけ、声を聞き、そこで得た言葉を大切に扱う。メルマガを「一次情報の発掘装置」として位置づけることは、目新しい話ではなく、むしろCRM本来の役割に立ち返ることそのものだと、私は考えています。
集めた声を公開資産に変える
メルマガで声を集めただけでは、まだ資産にはなりません。実際に公開情報へと変えていくには、次のような手順を踏んでいます。
- メルマガで顧客に質問する
- 回答を「質問」「顧客の表現」「利用状況」「事実」に分ける
- 複数回答を比較し、共通する悩みや評価を抽出する
- 顧客の許諾を確認する
- FAQ、商品ページ、比較ページに反映する
- メルマガでは背景や事例として再編集する
- 各チャネルで表現や仕様に矛盾がないか確認する
たとえば、化粧品であれば、次のような形になります。
- 顧客の質問:「本当に自分に合うか不安だった」
- 顧客の声:「使い始めて2週間ほどで実感できた」
- 自社の事実:「効果を感じ始めるまでの目安には個人差があるが、多くは2〜3週間」
- 公開コンテンツ:「効果を実感するまでの目安FAQ」
- メルマガ:「使い始めの不安に応えるお客様の声」
「集める」「編集する」「再配信する」というプロセスは、こうして具体的な手順に落とし込むことができます。
一次情報は「詳しく書けばいい」わけではない
ここで一つ、誤解のないように補足しておきたいことがあります。それは、一次情報さえ書けばGEOに有効、という話ではない、という点です。
一次情報を集めたら、次は「Web上で使える情報」に整理する必要があります。私は、少なくとも次のような点を確認しています。
- 公開されたページに置かれているか
- 誰・どの商品・どの会社についての情報か分かるか
- 具体的な事実や数値が書かれているか
- 古い情報と新しい情報が混在していないか
- 関連するページ同士で内容が矛盾していないか
- 必要に応じて情報源や更新日を示しているか
つまり、一次情報は「詳しく書く」だけではなく、誰についての、何の情報なのかがWeb上で明確に分かる形にしておくことが重要です。せっかくメルマガを起点に一次情報を集めても、整理されないまま置かれていれば、その価値は十分に活きてきません。
一度伝えたから、もう十分。ではない
こうして集めた一次情報についても、注意しておきたい落とし穴があります。私自身、同じ再春館製薬所時代に、この整理と発信の作業に長く携わってきました。化粧品を長く、正しく使い続けていただくために、使い方や成分の背景を細かく研究し、パッケージにも同梱物にもメルマガにも、繰り返し発信し続けてきたのです。
ところが、ここで痛感したことがあります。それは「一度きちんと書いたから、もう伝わっているはず」という思い込みが、一番危険だということです。実際にお客様インタビューをしてみると、10年近く使い続けてくださっている、いわば熟練のお客様でも、正しい使い方をご存じないケースが何度もありました。これは、お客様の理解力の問題ではありません。
事業を支援する立場になってから、気づいたことがあります。CRMのご相談に乗っていると、「その話は一度伝えたので、もう言わなくていいのでは」という趣旨のご質問を、驚くほど頻繁にいただきます。しかし、同じメッセージを何度も伝えること自体は、決して無駄ではなく、むしろ重要なことだと思っています。すでに理解してくださっているお客様にとっては「やっぱり大切なことなんだ」という再確認になりますし、まだ気づいていないお客様にとっては、そこで初めての気づきになります。どちらであっても、大切なポイントは一度伝えれば十分、ということは全くないのだと思います。
これは、AIに自社情報を伝える場面でも同じです。一次情報は一度だけどこかに掲載して終わりにするのではなく、お客様やAIが抱く疑問や接点に合わせて、形を変えながら繰り返し提示する必要があります。
- 商品ページでは、仕様や使い方として提示する
- メルマガでは、背景や利用シーンとして提示する
- FAQでは、疑問への回答として提示する
- 導入事例では、お客様の変化として提示する
- SNSでは、短いエピソードとして提示する
同じ一次情報を、チャネルごとの役割に合わせて何度も、違う形で伝え直す。この「反復」と「チャネル横断」こそが、CRMとGEOをつなぐ視点だと考えています。
社内体制として、連携がこれまで以上に重要になる
ここまでの話を実務に落とし込むと、メルマガ担当・サイト運用担当・SNS担当が、それぞれ別々に情報発信をしている状態は、これからの時代には少しもったいない体制だと感じています。
メルマガで集めた一次情報を、商品ページやFAQ、SNSにも同じ内容・矛盾のない形で反映していく。これまでは「担当が違うから」で済んでいた部分も、GEO時代には、社内での情報連携がこれまで以上に問われてくるはずです。
まとめ
メルマガの価値が下がってきていると感じたときに、そのまま縮小・撤退を考えるのではなく、一度立ち止まって、その役割を分けて考えてみることをおすすめします。
- 数を打つことに意味がある部分(存在を思い出してもらう、継続的に管理しやすい接点であること)
- お客様から一次情報を発掘する部分(メルマガを配信だけでなく、回収の場としても使うこと)
- 集めた一次情報を、チャネルごとに形を変えながら繰り返し伝える部分
- そして、集めた一次情報をWeb上で使える形に整理しておくこと
GEOの広がりによって、サイトへの流入経路そのものが、これまでと変わっていく可能性がある今だからこそ、企業側から直接アプローチできるメルマガという接点を、単なる配信ツールではなく「一次情報の発掘装置」として、あらためて見直す価値があるのではないかと思っています。