「伝える」と「伝わる」のあいだに vol.4 「シニア向けスマホ指南」で気づいたこと
先日我が家に送られてきた「通販生活」の最新号。巻頭に「ひとりで使いこなせるようになる スマホ学習帖」という特集がありました。
TVCMでも分かりますが「通販生活」は商品・内容ともにシニアが顧客層のメイン。どれどれと読んだらこれがかなり素晴らしい内容でした。「分かっていない人に分かりやすく伝える」「尻込みしている人の背中を押す」という点で学ぶところがたくさんあったので、ここに挙げてゆこうと思います。
★「正確に詳しく」は必要ない
第1章冒頭の文章をそのまま引用してみますね。
“スマホにはiPhoneとAndroidがあります。スマホの背面に「リンゴのマーク」があればiPhone、なければAndroidです。画面がタイル状に仕切られ、四角い枠の中にマークが並んでいるのは「シニア向けスマホ」です。”
私はこの文章でいきなりしびれました。ものすごく簡潔で潔い!
スマホの「そもそも」を正確に説明しようとしたら「端末には二種類ある。Apple社製の端末がiPhoneで、iOSというOSが…それ以外はGoogle社のAndroidというOSを…(ああ〜OSの説明もしないと!)」となりそう。そしてすぐ「次にキャリアというのがあってね」と続けたくなる。でも、そんな正確で詳しい情報は入門者にはいらんのです。未知の単語を並べて順番に解説することは、つまずく石やハードルをわざわざ並べる行為にしかならない。
私も、母からの「パソコンの画面がおかしくなっちゃった」というSOS電話に苦労したことがありますが、つい「まずブラウザという概念を説明しないとな…」とか思っちゃう。でも、ほぼまっさらな人にいきなり差し出す「用語一覧」は、どんなに易しく書いても難しく見える。だからまずは厳密でなくていいから最低限のことだけをカンタンに伝える。ここでは画面や操作方法が大きく異なるiPhoneとAndroidの区別だけにとどめ、それを「リンゴマークの有無」だけで乗り切るのがとてもいいと思いました。
★不安の解き方、迷子の戻り方
学習帖はその後「指の使い方」→「マークの意味」→「ホーム画面への戻り方」と続きます。私たちが当たり前だと思ってる指の使い方も全然当たり前ではないので丁寧に伝えること。「アイコン」ではなく、シニアもなじみがある「マーク」という言葉で通すこと。さらに「困ったらとりあえずこうしてホームに戻れば安心」と伝えること。これらはまさに私の母もつまずいたポイントだったので、なるほどと思いました。
訳が分からない複雑そうなモノを使おうとする時、いちばん不安になるのはまず触り方と迷子になった時の「起点」への戻り方。その道案内では耳慣れた言葉の方が安心ですもんね。
LINEの使い方や検索の仕方、地図の活用の仕方と続いた後はネットショッピングのレクチャー。「通販生活」アプリを例にとっての操作説明で、そうか!「ウチのアプリでネットショッピングしてね」というのがこの特集の目的の1つなんだ…とやっと気づきます。それが全くあからさまに見えないのは、他の項目も等しく親切丁寧だから。第5章ではシニアがスマホ活用において最も不安な安全面についてもたくさん解説していました。
★機能より「生活がどう良くなるか」
そして最もよかったのは第1章の前段にある「なぜ今こそシニアがスマホを使いこなすべきなのか」というお話です。
●力仕事、移動、体調に不安を感じる年代こそスマホでの買い物が役立つ
●コロナ禍など人に会えない時のコミュニケーションツールになる
●緊急時にも安否確認や災害情報などに使え、命を守る道具になる
という「シニアに特に響くメリット」を挙げて背中を押しています。下記の文章もいい。
“シニア世代にとって「スマホを使いこなす」とは、人に頼らず「自分でやりたいことができる」ということ。難しい設定や機能を覚えることではありません。相棒のように「手になじむ道具」としてつき合っていくことです。”
最新で機能がすごいから。皆が使ってるから。今どき使えないと恥ずかしいから。そういう煽りや脅しだけでは人の心はなかなか動かない。
「他の誰でもない、あなたにこそメリットがある」を説く。そのメリットというのは機能のことではなく「結果としてあなたの日常におとずれる楽しさや幸せ」のこと。これは、何かをすすめる・買ってもらうときの一番大事なポイントだと思います。
「伝える」「すすめる」は発信側のアピールではなく、相手の気持ちと生活、未来に心を砕くこと。忘れないようにしたいです。
(引用:カタログハウス「通販生活」2023夏号)
コピーライター 近藤あゆみ
Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。