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ECの利益は“どう売るか”より“どこで戦うか”で決まるのでは?― どこで戦うかを、自分で選ぶという発想

はじめまして。株式会社イノーバの鈴木と申します。EC周りのマーケティング支援の仕事をしており、今回初めてコラムを寄稿します。前職では、専門商社でコスメ事業に携わり、国内・海外販売やEC運営に従事していた時期がありました。今日はその頃のお話をしたいと思います。

当時、私はそのコスメ事業で、東欧のある市場への進出を担当しました。日本国内ではとっくにレッドオーシャンだったカテゴリです。ところが現地に足を運んでみると、店頭にも、ECモールの検索結果にも、日本の競合はほとんどいませんでした。同じ商品を、同じやり方で持ち込んだだけなのに、戦う相手がいない。価格で消耗することも、広告で押し合うこともなく、商品の良さをそのまま伝えられました。むしろ「日本製であること」自体が一つのブランドとして受けとめられ、それだけで大きな強みになりました。帰りの飛行機で、私はそれまでの数年間、ずっと一番混んだ場所で消耗してきたのだと気づきました。「土俵が違うと、見える景色が違う」と腹の底に落ちた瞬間でした。

競争は、前提ではなく「選択」だった

日本で同じカテゴリを売っていたとき、私はいつも「あの会社より安く」「あのブランドより目立つように」と考えていました。競争があるのは当たり前だと思っていたのです。ところが市場をひとつ変えただけで、その前提が消えました。届けたい相手に、まっすぐ届ければよかっただけなのです。

不思議なもので、競争の激しい土俵ほど「ここで戦うのが当然だ」という空気が濃くなります。みんながいる場所は、間違っていないという安心感をくれる。けれどその安心と引き換えに、私たちは静かに利益を差し出しています。競争は前提ではなく、選択なのだ。そう気づいてからは、「どう勝つか」より前に「どこで戦うか」を考えるようになりました。マーケティングの大切さを改めて実感し、いまの仕事に就いたのです。

「どう届けるか」の手前にあるもの

マーケティングは「誰に・何を・どう届けるか」と教わります。ですが実務では、時間の大半が最後の“どう”に吸い寄せられます。広告運用、LP改善、価格設定、クーポン設計。どれも大切な仕事です。私自身、海外に出るまでは、この“どう”を磨くことこそが仕事だと考えていました。

もちろん、“どう”を磨くことが無駄だと言いたいわけではありません。ただ、それは「どの土俵に立つか」を決めた“後”の話です。順番を逆にすると、どれだけ磨き込んでも、混み合った土俵の上では成果は逓減します。みんなが同じ努力をしているからです。本当に利益を動かすのは、その手前にある“誰に・何を“、どの土俵に立つかという決定のほうでした。高機能を謳って数あるブランドの一つになるのか、それとも「朝の3分を変える」という一点で語るのか。打ち出し次第で、隣に並ぶ相手は変わります。

ECでも、同じ構造で利益が削られる

これはECでも同じだと思います。同じカテゴリ、同じ価格帯、同じモール、同じ検索キーワード。多くのショップが、自ら進んで“同じ土俵”に並びにいきます。見えている土俵は安心して戦えますが、全員に見えている分、最後は価格と広告費の消耗戦になり、利益はそこで静かに削られていきます。

先日お会いした地方のあるアパレル事業者様も、大手と同じモール・同じ価格帯で正面から戦い、広告費がかさんで利益が残らないと悩んでおられました。商品には確かな良さがあるのに、です。課題は“どう売るか”ではなく、“どこで・誰に売るか”を選び直していないことにあるように思えました。

土俵は、ずらすことができます。客層をずらす(万人にではなく、特定の困りごとを抱えた人へ)。用途をずらす(同じ商品を、別のシーンの解決策として打ち出す)。チャネルをずらす(みんながいる場所の外で、客と出会う)。世界観をずらす(機能ではなく、意味で選ばれる場所に立つ)。どれも「商品を変える」話ではなく、「誰に・何を・どう届けるか」の設計を変える話です。実際、商品名や説明文、写真の一枚目を「誰の、どの場面のための物か」に振り切るだけで、隣り合う競合が変わり、価格ではなく価値で選ばれます。

もちろん、ずらすのは怖いものです。先例の少ない場所に、売れる保証はないからです。けれど保証された土俵はすでに誰かのもので、後から入っても得られるのは消耗だけ。リスクの取りどころを「競争」から「場所選び」へ移す。その転換が、利益の伸びしろを生みます。

売上・利益は、土俵選びの「結果」である

売上・利益の最大化は、ゴールであってスタートではありません。「勝てる土俵を選んだ結果」として、後からついてくるものです。利益を大きく動かすのは、最適化の技術より、立つ場所を選ぶことだと私は考えています。商品を磨くのと同じくらい本気で、私たちは立つ場所を選んでいるでしょうか。

みなさんが今立っている土俵は、自分で選び取ったものでしょうか。それとも、気づいたら流れ着いていた場所でしょうか。見える景色を変えたいなら、まず自分の土俵を疑ってみてはいかがでしょうか?

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客員講師

鈴木 理恵

得意分野/Webマーケティング、EC構築・運用支援

株式会社イノーバ 執行役員
大手人材会社を経て商社へ。コスメ事業部で国内海外営業とEC運営を経験後、イノーバ入社。現在はEC事業部長としてマーケティング支援に従事。

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