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訪日客を「固定客(リピーター)」にしていくために②

前回3月のコラムのおさらい
前回こちらのJECCICAニュースにコラムを寄稿したのは半年前の3月、『訪日客を「固定客(リピーター)」にしていくために』というタイトルでコラムを執筆しました。
為替レートや地政学的な要素に大きく左右される「受け身」のみの状態から脱却し、訪日客を「固定客(リピーター)」にしていけるよう自分たちから仕掛けることが重要だという内容です。
為替レートが変動すると、それに連動して訪日客の客単価も大きく変動します。観光立国を目指す政府の施策のもと、アップダウンはありつつも長い目で見ればインバウンド需要は右肩上がりであろうと思われますが、こればかりは各事業者がアクセルを調整できるものではありません。

訪日客に対する魅力的なマーチャンダイジングや店頭のおもてなしオペレーション(決済、免税サービス、言葉の壁対応)はもちろん、多言語対応したWebメディアやSNS、Google Mapなどを活用した情報発信の強化や、多言語対応したスマホアプリやCRMツールの導入で、国内のお客さまに行っているのと近しいレベルでのマーケティングができるようにすることが重要だと述べました。

急速に失速するインバウンド消費
そんなコラムを執筆した矢先、インバウンド消費が驚くほど急速に失速しはじめています。3月の百貨店の免税売上高は前年同月比10.7%減(日本百貨店協会の発表)の前年割れ。トランプ米大統領の高関税措置で広がった世界景気の停滞懸念や為替の円高が要因と見られる高額品・高級ブランド品の買い控えが起き、百貨店などを中心に業績を圧迫する原因となっています。
その後3か月連続で前年割れが継続しており、5月の免税売上高は前年同月比41%減、1人あたりの購買単価も同37%減の約7万9000円と大幅な減少を見せています。
逆に購買客数は3~5月期の前年同月比で10%以上も増加、過去最高を更新しているのですが、それ以上に客単価の低下が大きいという結果になっています。客数自体は大変好調であるものの、円高傾向が続く中で訪日客の財布のヒモが堅くなっているということでしょう。

円安やラグジュアリーブランド価格改定前の駆け込み需要など前年同時期の免税売上が異例といえるレベルで好調だったということもあり、今期その反動はありえるであろうことは百貨店各社ともある程度織り込んでいたとはいえ、各社業績予想を下方修正する必要にせまられるなど大きな影響が出てきています。
今後も継続しそうな円高傾向のもと、免税売上は当面厳しい状況が続くものと予想されます。

百貨店のインバウンド施策
私が所属するJ.フロントリテイリングのグループ会社である大丸松坂屋百貨店で実施しているインバウンド施策(の一部)を紹介します。

(1)スマホアプリ
インバウンドのお客さまの旅中・旅後における来店や再来店のきっかけづくりには、多言語対応したスマホアプリを活用しています。主にお買い物をされる際にダウンロードいただき、ポイントやクーポンなど、お買い上げや再来店のきっかけづくりとして運用しています。
また、中国からのお客さまに向けAlipayミニプログラムでも大丸松坂屋アプリと同様にポイントやクーポンの提供を旅中の施策として実施しています。
訪日客は、こうしたアプリやミニプログラムを利用しない限り、何度来店・買上げいただいても一見さん扱いになってしまいます。アプリやミニプログラムは旅後も継続的に繋がってもらえるデジタル接点として非常に有効だと考えられます。

同様の事例では、三越伊勢丹でも「識別化してつながったお客さま=個客」に多様な価値を提案するビジネスモデルに向け、2025年3月より海外顧客向けアプリ「MITSUKOSHI ISETAN JAPAN」のサービスがスタートしています。

海外顧客の興味・関心に沿ったイベント情報やフロアマップなどをアプリ内に掲載、お買い物で使用できる5%オフのショッピングクーポンなども提供し、国内顧客向けアプリである「三越伊勢丹アプリ」と同様に、海外のお客さま一人ひとりに合わせたサービス提案や双方向コミュニケーションができるようサービス機能拡大を目指す、としています。

(2)CRMツールの導入
訪日客に特に強く支持いただいている大丸心斎橋店では、2025年2月より、訪日客向けのCRMツールの導入を開始しました。
館内の免税カウンターで免税手続きをしていただく際、お客さまの買上実績やご希望を勘案したうえで、CRMツールへの登録をご案内し、オンライン上で会員化+顧客カルテとして管理し、登録いただいたメールアドレスやWeChatなどの連絡先を通じて以後のコミュニケーションが直接行えるようにする運用です。いわば、国内外商顧客のようなサービスを一部訪日客にも提供できるように、という取り組みといえます。

ご存じのように、大手百貨店の売上の柱の一つは、外商顧客です。国内外商顧客向けに百貨店が長年培ってきた、それぞれのお客さまに寄り添う提案力やコミュニケーション力を海外のお客さまへも広げていければ、この先も選んでもらえる事業者であり続けられるでしょう。
政府内で訪日客への課税を強化する案が浮上しているといった報道があったり、購入品にかかる免税の廃止や国際観光旅客税の引き上げ案も出ている中、今後免税の仕組みがどうなっていくか不透明ではあるものの、現在のところ館内の免税カウンターで免税手続きをしていただくタイミングは重要な顧客接点といえるでしょう。

ますます重要になってきたインバウンド対応
大阪・関西万博の開催といった追い風もあり、訪日需要・訪日客数は過去最高を更新し、今後も堅調に推移することが予想されます。一方、円高傾向が続く中、訪日客の財布のヒモは堅くなってしまっています。
インバウンドのお客さまに、どのように自社・自店を知ってもらい、呼び込み、満足するショッピングを楽しんでいただけるか。また来たいと思っていただけるか。さらには、どのように関係値を構築し、帰国後もコミュニケーションを深められるか。インバウンド対応の重要性はますます高まりました。

<リアル店頭の魅力強化>
・魅力的なマーチャンダイジング
・店頭のおもてなしオペレーション(決済、免税サービス、言葉の壁対応)

<オンラインでの情報発信強化>
・多言語対応したWebメディア
・SNS、Google Mapなどの活用

<ID顧客化>
・多言語対応したスマホアプリの運用
・CRMツールの導入、運用

訪日客を「固定客(リピーター)」にしていくために、自分たちから仕掛けていけるよう準備を進めましょう。

JECCICA特別講師

JECCICA特別講師 唐笠 亮

株式会社パルコデジタルマーケティングのコンサルタント。数々の専門店・ショッピングセンター等を背景とした大規模ECの構築やシステム連携のプロジェクトマネージャーを務める。


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