「ケン子」知ってる?最適化されたアルゴリズムの外に出る
「ほんmoney わかんのでskrrrrrr メロいちゃむ~ ドカ鬱横転ちゃんねる」
で動画が始まるTikTokアカウント、「ケン子」さん(@tkdkn4)をご存じでしょうか。
JC・JK流行語大賞2025年上半期、コトバ部門第3位※にランクインしたインフルエンサーなのですが、失礼ながら全く知らないという方も多いのではないでしょうか。

主にケン子さんはTIkTokで活動されており、フォロワーは2025年7月時点で9万人、動画を上げれば数万回が再生される人気インフルエンサーです。

しかし、私のTikTokのオススメタイムラインには全く表示されません。仕事柄毎日のようにTikTokをチェックしているのに、です。
「ああ、自分のタイムラインは完全に若者の流行から外れてしまったんだな」と、寂しくなりました。
アルゴリズムによる最適化という甘い罠
ですが、よくよく考えてみると、これは私個人の「流行からの脱落」ではないのかもしれません。
むしろこれは、「私に最適化されたアルゴリズムの世界」の限界なのではないか。TikTokをはじめ、SNSのおすすめ機能は驚くほど精度が高く、私の好みや行動傾向を的確に読み取って、興味があるであろうコンテンツを自動で見せてくれます。
だからこそ快適にスクロールし続けられるわけですが、一方で「見たいものしか見えなくなる」リスクも常に抱えています。
たとえば、私は日頃からマーケティングや広告、ECのトレンドなどを追っています。
その結果、タイムラインに現れるのは「SNS分析系アカウント」「家具や食品の紹介アカウント」などが多く、「面白さ」よりも「情報価値」が重視された動画、「お役立ちコンテンツ」が多いです。
そこには「ケン子さん」のように、意味のわからなさ、破壊力、勢い、ちょっとした謎が同居する「ノイズ」が一切含まれていないのです。快適な一方で、SNSに「お役立ち情報」を求めない、一般ユーザーのアルゴリズムからは大きく乖離しています。
ユーザーごとに最適化された「普通はこうじゃん」という感覚
私の周りの方に聞くと、「そもそもSNSのタイムラインは人によって最適化されている」ということも知らない方も多いです。それは、自分が見る世界こそが“世の中の大多数”だという錯覚を生み出します
しかし実際には、アルゴリズムが見せてくれているのは「世界」ではなく、「あなたに興味がありそうとAIが判断したコンテンツ」です。自分がどんな情報を好み、どんな投稿に反応し、どのジャンルに長く滞在したかすべてが記録され、それに基づいて“もっとも心地いい情報空間”が演出されているのです。
そのため、30代マーケターのタイムラインに、ケン子さんのような“異物”は入ってこないのです。
SNSのトレンドを追うことすら出来ない
マーケティングの現場では、「Z世代のトレンドを追え」「バズるフォーマットを真似しろ」という言葉が日常的に飛び交います。それ自体はもちろん必要な視点ですし、私も実践しています。けれど、それが「見えている範囲」の中だけで完結してしまうのなら、それは“予測可能な範囲内の模倣”にすぎません。
本当におもしろいもの、次に流行るかもしれないものは、たいてい“異物”としてやってきます。効率的に情報が収集できるようになった結果”異物”を排除してしまうと、マーケターとして必要な「次のトレンド」を抑えることが出来なくなってしまいます。これは仕事上危機的な状況なのです。
アルゴリズムの外に出るために
そう考えると、今の私たちは少しずつ「違和感耐性」を失っているのかもしれません。心地よさばかりを求めていると、“わからなさ”に出会ったときに、すぐに拒絶してしまう。
「アルゴリズムの外に出る」というのは、情報の洪水に背を向けることではなく、“好みじゃないもの”や“わからないもの”にも目を向けてみることだと思います。たとえば普段見ないジャンルの投稿を再生してみる、逆にSNSの検索機能で「人気順」ではなく「最新順」で探してみる、ストーリーではなくプロフィールを見てみる、など。
正気に戻らず、“意味不明”の海に飛び込んでみる。SNSという大きな影響力を持つツールを使いこなすためには、日々そんな小さなチャレンジをしていかないとなぁと、頭が痛いところです。

JECCICA客員講師 矢崎 宏一郎
(株)ISSUN チーフマネージャー
得意分野/WEB広告 EC販売支援
WEB広告のなかでもAI系広告を得意とし、事業規模に合わせた集客戦略でD2Cの売上を2年で10倍にするなどで、日本上位3%の代理店であるGoogle Premier Partner認定に貢献。