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ギガログ時代の行動指針 -ECプレイヤーの道徳規範‐

お酒と肴がちょうどよくお腹に納まったころ、何も言わずともタイミング良く濃いめのお茶が出てきたりすると至福の満足感♪ 少し高いけどやっぱ「いい店」は違うな~と思ったりします。欲しいと思った時に「そこにある」という体験は「基本的には」高い評価/高い満足をもたらすものであることは間違いないでしょう。
 一方で人のこころを読み取ってしまう「覚(さとり)のお化け」という民話が日本の「様々な地方」に残っています。覚は化け物であり、疎まれる存在です。そして日本各地に残る民話の多くは、覚のお化けが「人が思っていなかった偶然」によって「やっつけられる」という帰結で物語が終わっています。人の気持ちを察することはとっても素敵なことであり喜ばれることである一方で、人のこころを読み取ることは、強烈な拒絶や不快感を与える可能性があるわけです。今後のECプレイヤーはこの点をいつも強く意識しておく必要があると思います。

 表題の「ギガログ」は笹本の造語なのですが、今後のECを考えるにおいて「ビッグデータ」とは概念として明確に区別しておく必要があるという意図から、ギガログというコトバを使っています。
 ドッグフードを販売しているあるショップの社長さんから以前聞いた話なのですが、リピート注文の間隔とその客様からのドッグフードに関する質問を照らし合わせれば客様が飼っている犬の種類が高い精度でわかると言っていました。しかし犬種についてはお客様の方から開示されない限り、お客様がex.“中型犬“という表現でご相談された場合であれば そのまま”中型犬“という曖昧な名称のままで返信をすることを「徹底」しているとのことでした。この辺りの「線引き」が、嫌われる覚のお化けとベストタイミングの濃いめのお茶の差につながってくる様な気がしていますが、読者の皆さんのご意見はいかがでしょうか。

 ギガログとはビッグデータと異なり、各個人のプライベートがそのまま見えてしまうログ(データ)という意味で使っています。ビッグデータはユーザーの“全体像”や動向などを把握する目的で利用されるものなので、“個”を特定する必要はありません。従って全体像に集約される前の「個別データ」においても場合によっては「匿名でも構わない」という特徴を持っています。たとえば交通量の全体像を把握するための調査において、「誰が」という項目は必要ないのです。スーパーなどのPOSデータにおいても何がいつどれだけ売れたかを把握する目的において「誰が」という項目は、いい意味で排除されていると思います。

 一方で、既に現在においても“個”を特定してそのプライベートやこころの中までを覗くことができてしまうギガログが存在しています。たとえばPOSの販売データにポイント利用やカード支払などの“個”のデータを結び付けたとしたらどの様なことが起こるでしょうか。
 いつも午前2時ぐらいに一人分の食材を買う〇〇町何番地の誰々。これだけの情報でもその人の仕事や生活パターンが見えてきてしまうかと思います。お酒を買う/買わない 成人雑誌を買う/買わない・・・もうこれだけで忌み嫌われる覚のお化けと見られても仕方がない域に達しているのではないでしょうか。
 ポータルサイトやモールなどではユーザーの過去の検索キーワードなどを基にして個別のユーザーごとに異なる広告や商品を表示させたりしています。 

いちネットユーザーとしての笹本の個人的な感想としてですが、過去の検索キーワードや閲覧した商品などの「履歴」を元にしたもので、自分自身も「昔、この商品を探したことがあったな・・・」などの記憶があるものについてはまだ許せるのですが、そうでないものについてはネットに見透かされた様な気がして「気持ちが悪い」のです。即座にブラウザの閲覧履歴やクッキーを削除したり。それでも履歴が消えない場合にはブラウザそのものをアンインストールしてもう一度インストールしなおしたこともあります。
 笹本個人の感想としては現在のレベルでも「許せるギリギリの線」だと思うのです。仮に「履歴」に基づいたものであってもex.繰り返し表示される各種ダイエットの広告などを目にすると、一線を超えてしまっている様な気がしています。

 IoT時代を迎え、ここに人口知能や商品に付けられるICタグなどが加わると本来は高度にプライバシーが守られるべき家庭の中までもが覗けてしまうことになるのではないでしょうか。冷蔵庫の中の食材に付けられたICタグを読み取って、勝手に夕食のメニューを考えてくれる冷蔵庫。レシピサイトから適宜引用して食事の作り方まで教えてくれるとか。ここまでは「大変便利」で良いかも知れません。一方で冷蔵庫の中の食材の量と消費の度合を知ることができれば、家族構成や嗜好なども分かってしまうでしょう。たとえば離乳食があれば乳児がいるはずですし、食材の値段などについて人工知能を使って分析すればおおよその世帯年収なども分かってしまうかも知れません。何時に冷蔵庫からどんな食材を取り出したかが分かれば食事の時間も見当がつくでしょう。19時過ぎに冷蔵庫に食材を入れることが多い&食材の消費量からみて4人家族⇒共働きの家庭? こんなことも分かってしまうかも知れません。

 狭義のIoT=家電専用の家庭内サーバーが普及したとしましょう。このログには洗濯機が「何時に動いたか」や照明や空調のスイッチが「何時にONになったか」、玄関のドアの開閉時間などのデータも蓄積されるはずです。とすれば家族構成やその嗜好だけでなく、出勤時間に帰宅時間なども把握できることになるでしょう。日中の時間帯は照明も空調もOFFの状態で、昼食時に冷蔵庫を開けた形跡もなしとすれば、専業主婦がいる家庭かどうかなども分かってしまうのです。
 ちょうど味噌や醤油が切れたタイミングでECデバイスが「ご購入の提案」をしてくれる所までは便利でありがたいツールと言えそうですが、それ以上に踏み込んで一線を超えてしまうと強烈な拒絶に会うことになると思っています。ギガログは仮に商用利用をしないとしてもユーザー側から見れば「知られているだけでも気持ちが悪い」と思われてしまう存在であることは間違いないでしょう。

 先日スマホが故障して別の機種に変えた際に改めてLINEのアプリを入れたのですが、グループや友達などについては復活したものの「会話の履歴」については全て消えていました。つまりログインIDに紐づけされたグループや友達などのデータはLINEの方で持っているものの、会話そのものについてはローカルデバイス(=各個人のスマホやPC)の方に記録されていてLINE本体には会話のデータは残されていないということになります。
この点についてLINEの内情をよく知る方に聞いた所、厳密にいえば予測変換や文字揺れなどコトバについてのテクノロジーの精度を高めるために厳しく限定された範囲内において社内的に利用することはありえるかもしれないが、仮に個を特定できないビッグデータの形であってもこれを開示することはありえず、今後もない。ということでした。会話の内容については「ログ自体を残さない」という方針は大変賢明な判断だと思っています。LINEやフェイスブックの会話の内容は「高度なプライベート」に相当するものであり「会話している当人以外の第三者」が知るということは電話の盗聴に匹敵する行為に等しいかと思いますが、家電専用サーバーやSNSのプラットフォームを提供している立場であればログさえあれば「やろうと思えばできる」環境にあるのです。だからこそギガログ自体を持たないことによって、誤って一線を超えるリスクを回避していると言えるかも知れません。

リアルタイムの“会話”や家電専用サーバーなどのギガログは、個を特定できないビッグデータの形にしただけでも大きな商用価値があるのは明らかです。たとえば“会話のギガログ”からはex.今、何が流行っているのか?などのトレンドを随時抽出することが可能になり、検索キーワードのビッグデータから抽出されたものよりもさらに高い精度になるのは間違いありません。一定の目的を持って行う検索ではなく、リアルタイムのごくありふれた会話のログなのですから。しかし、このギガログの商用価値の高さこそが一線を超えてしまうリスクをはらんでいると言えるのではないでしょうか。

一例として、人流解析のソリューションの一つに顔認証システムというものがあります。実は人流解析用途での顔認証システムの多くが、瞳や骨格などの距離や角度などをデータにして判別を行うというものなので、データから顔写真が再生できるわけではありません。またあくまでビッグデータとして個を特定できない形で利用されており、入り口Aから入ったお客様の〇割はB地点に向かう などの形で人が殺到して事故が起きたりすることが無い様に売り場を設計するなどの用途で使われるものです。厳密な判別制度を求められる入国管理や表情までを読み取る必要がある遠隔医療の用途での顔認証システムなどとは中身が大幅に異なるのですが、“顔認証”というコトバ自体がお客様からの拒絶反応をおこしている気がします。
強い拒絶反応は、事実とは異なる“邪推“にまで発展することもあります。防犯と入場者数のカウントを目的としてパチンコ店が導入した例では、「前回勝ったから顔認証で玉を出なくした」(人によって出玉をコントロールすることは厳しく禁じられています。)ごときの”邪推”による“ウワサ”で客足が大幅減とか。さらには顔認証を導入していない店まで邪推が広がるということまで起こっているようです。ちなみに顔認証システムは本来、防犯や防災の見地からは大変有用なソリューションなので世間一般の方々の誤解がとけることを祈っています。

メガログ時代を迎えてのECプレイヤーは、できるけどやらない 儲かるのは分かっているけどやらない という様な「道徳規範」を強く持つ必要があると思います。気がつけば「覚のお化け」になっていたという様なことがない様に「いつでも賢者」でありたいですね。もしかするとギガログは「持たない」のが一番安全かもしれませんが。たとえば万一アレクサ君が一線を踏み外してしまったら、本は本屋さんで買う時代に戻ったりする可能性も・・・。

笹本 克プロフィール写真

特別講師・参事 笹本 克

全国各地で有名ネットショップを輩出。 自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務める。 DeNA社やYahoo!Japanショッピング事業部スタッフへのレクチャーや、ドリームゲートの起業講座の他、上場企業から中小企業までコンサルサイトの累計は約600社、多岐にわたる業種でのコンサルティング実績も豊富。


 

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