物流・宅配便の2024年問題 今、EC事業者が認識しておくべきポイントについて
毎年経済産業省が発表するEC市場規模として、EC-BtoC は 20.7兆円(前年19.3兆円、前々年19.4兆円)うち、物販分野は13.3兆円規模であった(2022年8月12日発表)。
EC事業者としては、たとえ世界的にコロナ渦でマーケットが不安定、もしくは下落している中であっても年々市場規模が拡大している業態であるため、これから先においてもアップセルのチャンスは多く潜在する状態といえます。ただし、ここで考えなければならないのは、「売り手の都合のみでは成り立たない業態」であり、売り手と買い手の橋渡しをする宅配便業者が抱える問題について、認識、知見を広めておかねばなりません。
いわゆる、最終拠点からエンドユーザーへの物流サービスとなるラストワンマイルはもちろんのこと、その手前部分となる荷主から送り先への最終拠点(荷受け先エリアの宅配便営業所等)までの物流形態において、これから大幅な変革が待ち受けています。現在、宅配便の2024年問題という言葉が浸透しつつある中、実際の変革についてのポイントに触れたいと思います。
国土交通省の2021年度「宅配便等取扱個数の調査」として、1992年が12億4500万個に対し、2021年は49億5300万個(398%↑トラック運送)前年度と比較して1億1676万個・約2.4%の増加としています。
ECの拡大に伴い宅配便の取扱個数が5年間で約9.3億個(+約23.2%)増加していますが、その裏で令和4年10月の宅配便の再配達率は約11.8%であり、実に10個に1個以上は再配達という事態となっています。
荷物を受け取るお客様の都合もありますが、宅配業者からするとやはり再配達にかかる様々なコストにおいては「自社のロス」になるわけです。国土交通省としては、配達率の削減目標として2020年度10%程度、2025年度には7.5%程度に設定しているようです。
そのような状況のなか、物流2024年問題として大きく3つのポイントが浮上しています。ここに私自身の考え方も添えさせて頂きます。
1.送料値上げは続く
ヤマト運輸の場合、2014年4月の消費税5%→8%増税による値上げ、2017年10月の宅急便料金変更による値上げ、2019年10月の消費税10%増税による値上げであった。物価高騰に伴う価格改定は否めないが、燃料費などの高騰に加え賃上げとして、2023年2月に、4月3日から宅配便の運賃を、平均でおよそ10%値上げすると発表した。
これから値上げは続くことを想定すると、EC事業者、EC利用するユーザーにとっての送料値上がり問題はそれぞれに大きな障壁になる部分もでてきます。たとえばとあるショップは主力商品の売価が2,000円であり、送料が930円であっても売れた商品が、今までの購入率で考えることが出来なくなったりする場合も出てきます。自身が販売する商品が、送料がかかっても欲しい商品、そこでしか売っていない商品、送料分を加味しても付加価値が高い商品等々の条件下である場合も含め、実は商品単価の値上げや、セット販売率の向上等の見直しチャンスも潜在しています。値上がりを続ける送料問題にどう対応していくか、今から何ができるか、ここで一度じっくり検討する必要があります。
2.自動車運転業務における働き方改革
2024年4月1日より、時間外労働の上限規制などに代表される働き方改革関連法の施行となり、「自動車運転の業務」の時間外労働が年960時間と上限規制となります。運送会社では、収入減少によるドライバーの離職や売上の減少が懸念されることとなります。ちなみに労使間で36(サブロク)協定が合意された場合でも、月100時間未満や年720時間などの上限規定があり、かなりガチガチな状況下となることが伺えます。EC事業者の視点としては、EC物流において総合的にメリットを生む改革として受け止めたいものです。3PLやフルフィルメントの質が向上しても、そこからラストワンマイルに至るまでのフローが円滑に遂行できる環境や仕組みになることを願います。
3.高速道路の割引条件変更
国土交通省、および高速道路会社(NEXCO)3社(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)は、高速道路の深夜割引を見直す方針を明らかにした。令和6年度(2024年度)中の見直しを目指している。
現行の深夜割引は、0時から4時までに「1秒でも」高速道路内にいれば、それまで走ってきた分を含めた高速料金が3割引だが、国交省が今回出した見直し内容は、そのどちらにも該当しない「22時~5時に走った距離のみの割引適用」としている。昨今問題になっている、深夜割引を狙うドライバーによる高速道路インター入口や、サービスエリアでの過剰な待機時間による渋滞を削減するといった内容かと思いますが、これにより業務遂行時間が大きくぶれ、ドライバーの生活の昼夜逆転化が加速することが懸念されます。運転時間は基本的に2日平均1日当たり9時間であり、連続運転時間は4時間までであり、運転開始後4時間経過直後に30分以上の休憩が義務である中での見直し。良かれ悪かれ、この条件変更がEC事業者にとってどれだけ根が深いものか、今から様々なシュミレーションを行う必要があります。
先の運転業務における働き方改革と合わせ、EC事業者とって「遅配」の脅威はさらに増すこととなるかもしれませんし、日時指定の緩和ルールも出現するかもしれません。
宅配便の2024年問題に対し、EC事業者としてしっかり受け止め、今から環境の変化に向けて準備していくことが先の成功につながることと考えます。
JECCICA理事・講師 小林 厚士
EC得意分野/地方型EC運営、戦略構築総合支援
地方拠点かつ海外事業部展開をしたEC企業経営で培ったマーケティングノウハウ及び実績を活かし、経営戦略的視点を重視した、現場最優先の実践的なアドバイスを得意とする。