通販サイトにおける長期トレンドへの対処 Vol.3:空気と感性が企業価値を決める時代への対処
前回までの連載では、「人口減少」と「情報消化不良」という避けられない構造課題に対し、基本に立ち返った対応策を整理してきました。今回のテーマは、より根本的な変化「空気と感性が企業価値の中心になる時代」への対処です。
消費者の価値観は、ヒト→モノ→コト→イエと移り変わり、今はその先の「エアの時代」に入ろうとしています。商品が溢れ、情報が溢れ、豊かさが当たり前になった現代では、スペックや価格では差がつきにくく、「空気感」や「感性への共鳴」が意思決定を左右する時代です。
たとえば、1万円以下のTシャツがブランド名だけで20万円になること。同じ食品でも「その店の空気感」で売れ行きが大きく変わること。これらはすべて、経済合理性だけでは説明できない価値が選ばれているという事実です。そしてこれは商品だけでなく、企業そのものにも当てはまります。安心感・透明性・ナチュラルさ・誠実さといった空気そのものが企業価値になる時代です。では、対処を考えていきます。
1. 中性(ニュートラル)という価値
現在の市場では、「中性」というニュートラルな価値が存在感を強めています。男性か女性か、若者向けかシニア向けか、といった属性を強調しすぎない曖昧さが好まれる傾向です。
これは、
●若い人が大人っぽい商品を選び
●大人が若者っぽい商品を選ぶ
というクロス現象にも表れており、商品企画やデザイン面でも誰にでも馴染む心地よさがひとつの基準になっています。ECの商品企画でも、過度なターゲティングではなく、違和感を生まないニュートラルさが評価される流れが加速しています。
2. 魂部分(空気と感性の核)は必ず自社で行う
省人化や外注化が進む中でも、絶対に外注してはいけない領域があります。それが企業の魂部分です。
具体的には、
●商品への想い
●ブランドが大事にする価値観
●文章・写真・動画のニュアンス
●顧客への語りかけ方
といった、空気と感性が表れる部分です。
外部業者は「効率的な作業」は得意でも、「空気をつくること」は不得意です。だからこそ、企業が最も集中すべきはこの魂部分であり、調査・制作・配送など外部化できるものは外部化し、空気をつくる仕事にこそ社内の力を割くべきなのです。
3. 商品だけでなく伝え方もエアが価値になる
エアの時代では、商品そのもの以上に、伝え方の空気感が価値になります。たとえば、カメラ市場。モノの時代は重厚で高性能が価値でした。コトの時代は簡単でカラフルが価値でした。しかし今は、GoProやスマホで撮れる「空気感のある映像」が求められています。
ASMRやタイムラプスが人気なのも同じ理由で、「その場の空気」を感じられる表現に価値が生まれています。
ECもまったく同じで、
●世界観のある写真
●温度を感じる文章
●暮らしの中の動画
●作り手の物語
といった、空気のある伝え方が購買動機をつくります。
4. 三河屋さん戦略
「空気を届ける企業」の象徴例が、いわゆる三河屋さん戦略です。
顧客の家庭事情・好み・過去の購買記録を把握し、その人に合った提案を行い続けるスタイルは、データ分析というより「極端に深い顧客理解」です。
同じ食品を売る大企業が大型広告を展開しても、三河屋さんほど支持されないのは、
●顧客を深く知っている安心感
●距離の近さが生む信頼
●顧客の生活に入り込む空気感
といった、アナログで温かい価値が勝っているからです。
これはデジタル時代のECでも同じで、顧客理解の濃度が空気価値を決める時代です。
まとめ
空気と感性が商品価値・企業価値の中心になる「エアの時代」。
この時代に強い企業は、
●中性というニュートラルな価値を理解し
●魂部分(想い・世界観)を自社で磨き
●空気を纏った表現をつくり
●極端な顧客理解で距離を縮める
企業の「空気」は、数字では測れません。しかし、消費者は確実にその空気を感じ取り、空気の心地よさで企業を選ぶようになっています。
エアの時代を生きる企業は、空気づくりこそ最大の経営テーマです。

JECCICA理事・講師 豊島 恵太
EC得意分野/食品通販支援
大学卒業後、照明メーカーを起業。2013年、株式会社Eストアー入社。サポート、セールス、コンサルタントを経験し、現在は企画設計室のマネージャーとしてECの未来を作る活動
を行う。