新生「渋谷PARCO」が見せた、オムニチャネル戦略への本気度
株式会社パルコ(以下、パルコ)は「渋谷PARCO」が11月22日、リニューアルオープンすることを受け、マスコミ向けに11月20日、内覧会を実施した。
「渋谷PARCO」は1973年に開店して以来、「インキュベーション」「街づくり」「情報発信」に取り組み、街に活気をもたらしてきた存在。それから50周年を迎え、「渋谷PARCO」はアニバーサリーイヤーである今年、3年の充電期間を経て大きく変貌を遂げて新たな小売の姿を提示している。
コンセプトは「世界へ発信する唯一無二の次世代型商業施設」。数多くのブランドも名を連ねたが、今回、我々が注目したのは、リアルとネットの垣根を超えて小売を行う「オムニチャネル」を意識したフロアである。
「渋谷PARCO」の5階は、写真のように従来の百貨店などとは少し雰囲気が異なる近未来的な雰囲気を醸し出している。パルコは、この場所を「リアルな売り場を持つ商業施設としての今後の方向性を提案していく売り場」とした。
彼らはこの場所を「PARCO CUBE(パルコキューブ)」と名付けた。ここには11店が集まり、ひとつ一つのショップは従来の売り場面積の約半分、10坪前後で展開されているのが特徴だ。
勿論、その場でも購入することはできるが、興味深いのは各ショップに用意されているディスプレイだ。
5階フロアの中央にもディスプレイは存在するが、各ショップにも設置されていて、ここには同フロアのブランド服の数々が次々と表示される。それらは、いずれもタッチすることで商品がピックアップされ、その詳細画面が映し出されるとともに、QRコードが出てくるのだ。
このQRコードを手持ちのスマホで読み取ると、このディスプレイとスマホが接続されて、スマホ上では、ECサイトの「PARCO ONLINE STORE」のその商品画面へと遷移。そのまま、ディスプレイに映し出された商品を、カートの中に入れて、購入することができるようになっている。
当然、スペースを縮小した分、ショップは限定商品や戦略アイテムに絞って展示すればいいわけだし、それ以外の商品はそれらディスプレイやEC内でフォローできて、固定費を抑えることができる。ECサイトでは、色バリエーションも含めて、そのサイト内で確認もできるから取りこぼしもないわけで、ショップの在庫情報は常にECサイトのそれと連携されているので、店側の負担も少ない。
パルコとしてはこの連動したことにとどまらず、ショップのスペースとECサイトのコストのバランスを考慮し、店舗とともに、リアルとECサイトの売上比率などを検証、改善して、採算性の高い売り場を作っていけるようにしていきたいという。
オムニチャネルに一定の道筋を示す渋谷PARCO
先ほど、近未来的で、普通の売り場とは違うと説明したが、パルコはこのリニューアルに当たって、上記の検証ができるような内装を独自開発して、リアル、ネットどちらに偏りがない、ショップと顧客の両方の利点を踏まえた、未来のショッピングのあり方を提示しているというわけなのだ。
ショップも興味を持ってこの取り組みを受け止めていて、「何個かチョイスしてカートの中に入れておけば、ある一定期間は入ったままになっています。だからその店内、あるいは家に帰った後で、厳選して、購入することができます。リアルな場で出会ったブランドに対しての理解を深め、ショッピングを深く楽しんでもらえるきっかけにしてもらえたら」と「emily temple cute」の向井留美子さんは話していた。ショップと共に作る渋谷PARCOのオムニチャネルの革新への期待は、自ずと関わる全ての間で高まる。
それ以外でも、顧客の利便性を向上させる様々な工夫が随所に見られ、JINSでは眼鏡をかけている人が眼鏡をかけたままでも、試着できるバーチャルのディスプレイを用意した。当たり前だが、眼鏡を外すと前が見えないという悩みにAIなどのテクノロジーで応える仕組みである。
また、試着時にカメラで撮影したものを数秒遅れで表示することで、自分の後ろ姿が見られる「CUBE Miller」も斬新な発想。このフロアにあるものは、オムニチャネルを筆頭に、ハイテクを上手に小売に組み込んで、顧客のニーズに答えようとしているのが特徴で、渋谷PARCOの先進的な取り組みは、渋谷の街の活気とともに、これからのECサイトの現場にもどういう活況を、未来にもたらしてくれるのか、期待は膨らむばかりである。