通販サイトにおける新たな方程式の必要性 vol.8
CRMって、結局なんなのか。
3つのCRMから考える。
前回のコラムでは、CRMとして、行動心理に基づいたセグメント(SEM)などの視点から「誰に、何を、どう響かせるか」を解説しました。今回はその続編として、CRMをさらに立体的に理解するために、「毛色の異なる3つのCRMアプローチ」をご紹介します。
認知と信用を同時に高める「広報CRM」
CRMと聞くとフォローメールやLTV向上施策を思い浮かべがちですが、もっと前段階にある「きっかけづくり」も重要です。そこで注目すべきが、広報(パブリシティ)をCRMとして捉えることです。
これはつまり「お客様に応援される存在になる」こと。広告と異なり、お金をかけずに第三者メディアやSNS、YouTubeなどを通じてお店のストーリーを届けることで、お客様との信頼関係の土壌づくりが可能になります。
たとえば、
・メディア向けのプレスリリース(PR TIMESなどを活用)
└ 顧客の心の中に『この店は信頼できる』という貯金を生み、それがCRMの最初の入口となります。
・店長やお客様のエピソードを起点とした
「語りたくなる話題」(コンテンツ作り)
└ 信頼を産んだ顧客が知人などと語らうテーマを提供できます。
といった施策が効果的です。
自社の想いや姿勢に共感してくれた人が、自然と顧客化し、その後のCRMにつながっていく。この前段階の「信用づくり」こそがCRMの最上流であり、EC事業における静かな最強施策です。
倉庫から顧客へ「在庫調整CRM」
在庫調整というと、「仕入れ」や「棚卸し」の話だと思われがちですが、CRM的視点から見ると、在庫とは「顧客とつながるための資産」となります。つまり、「誰に、いつ、どうやって売るか」を考えることで、在庫はコミュニケーションの武器になります。
この考え方は、「賞味期限が迫っているから安売りする」だけのような消化的な在庫処理とは異なり、顧客の期待値や購買タイミングに合わせて在庫を再配置するようなイメージです。
たとえば、以下のような取り組みです。
・一定期間購入のない顧客に在庫調整品をあえて案内
└ 「再購入のきっかけ」として活用。
・賞味期限3ヶ月前から順次タッチポイントを設計
└ 賞味期限ギリギリに価格訴求だけではなく、段階的な接触機会に活用。
・誰にどの在庫を売るかを設計する
└ ファミリー層には大容量パッケージ化してちょうどほしかったに応える。
これらはすべて、在庫を売るためだけではなく「お客様に喜んでもらうための在庫活用」なのです。加えて、CRMとしての重要なポイントは、「在庫と顧客をつなげること」。単に余った商品を安く売るのではなく、「このお客様はこの時期にこのカテゴリを買いやすい」といったパターンの可視化と仮説が、精度の高い提案を可能にします。
ポイントは「仕入れ」から逆算してCRM施策を設計すること。商品企画や販売計画の段階から、「どうやって誰に届けるか」の視点を持つことで、在庫そのものがCRM資産になります。
通りすがりに声をかけるような「1対多数CRM」
最後にご紹介するのは、InstagramやTikTokなどライブ配信を活用した「1対多数のCRM」です。
従来のCRMが「顧客情報に基づく1対1のコミュニケーション」だとすれば、インスタなどのライブは1対多数だけど個人的に感じられる接点として非常に効果的です。
たとえば、
・フォローやコメントでのゆるいつながり
・「いいね」やDMでのマイクロエンゲージメント
・ライブ配信でのリアルタイム接客・商品の裏話や想いの共有
つまり、店舗で言えば「通りすがりに声をかける」「ちょっと会話して覚えてもらう」ような関係性が築けるのです。この顧客になっていない顧客との関係づくりは、従来のCRMでは拾いきれなかった層へのアプローチとして大きな価値があります。
ここまで紹介したように、CRMとは単なるメール配信やクーポン発行の仕組みではありません。パブリシティによる認知、在庫調整による再提案、ライブでの緩やかな共感づくり。それぞれが「お客様との関係性をどう積み上げていくか」という問いへの答えなのです。
CRMとは、売るための手段ではなく、また来店したくなる関係をつくる設計思想。本質を見失わず、日々の施策に落とし込んでいくことが、長く愛されるブランドの礎となります。

JECCICA理事・講師 豊島 恵太
EC得意分野/食品通販支援
大学卒業後、照明メーカーを起業。2013年、株式会社Eストアー入社。サポート、セールス、コンサルタントを経験し、現在は企画設計室のマネージャーとしてECの未来を作る活動
を行う。