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ネットと「シュリンクマーケット」

 「車を使わないと欲しいモノが買えない」ふと気がつくとわが町でもこの様な状況が進んでいます。わが町は典型的なベッドタウン。駅前には丸井やイトーヨーカドーやダイエーや西友があり、駅からおよそ2㎞離れた国道バイパスや産業道路には様々な大型チェーン店が立ち並ぶというまさに大都市郊外型商圏の典型例。駅前の商店街はシャッター通りにはなっていないのですが、呉服屋だったところが美容室に/老舗の文房具屋さんが駐輪場に/薬局がマンションに/眼鏡屋が飲食店に・・という具合に“店舗“ではあっても”物販“の店ではなくなっているのです。

たとえば百円均一の店では売っていないレベルの「ちゃんとした文房具」=スチール製の30㎝の定規を買おうとした時には結局隣の市まで車を飛ばさなければなりませんでした。駅前の商店街のはずれには唯一小さな文房具屋が残っているのですがスチール定規は扱っておらず「取り寄せ」になるとか・・・。本屋も駅前に2店あるのですが駅高架下のショッピングタウンの中にある本屋は若干規模縮小の感。読みたい本を指名買いするならアマゾンや楽天で買えばいいだけの話なのですが、本屋をなんとなくぶらつきながら「適当に目についた」本を買うごときの「出会いの喜び型」のウインドショッピングが好きなのです。特に本の場合は・・・。

いわゆる金物屋は我が町ではほぼ全滅。JIS規格の普通のネジ(1本4円)を6本買うために6㎞ぐらい離れた大規模ホームセンター(駐車場が3100台の規模)まで買いに行かなければなりませんでした。風呂場のマットはまだ買うことができていません。古くなったからそろそろ交換したいと思い近所の「そこそこの規模の」ホームセンターを3軒ほど回ったのですが、系列が異なるホームセンターにも関わらずなぜか似たような品揃えで色柄&キャラクターがついた品物ばかり。普通の白かアイボリーの浴室用マットを1畳分・・・うぅ こんな一般的な品物が買えなくなっているとは・・・。
昨年末の同級生との忘年会でケチャップ味のナポリタンが食べたいという話になったのですが、“昭和の喫茶店“自体が絶滅危惧種。電車で2駅行けば昭和の喫茶店があるという情報はネットで得たものの、ケチャップ味のナポリタンがあるかどうかは不明。渋谷にケチャップナポリのお店があるのは知っていますが、そこまで行くほどの「強い購買デマンド」があるわけでもないので、この「ゆるい購買デマンド」は「フェードアウト」した次第。
 
 前述いずれの例も「ごくたまに」の話であり、「売り手」から見ればこの様な“需要”を相手にしていたのでは商売は成り立ちません。店舗面積当たりの売上などの“経済効率”を考えれば、売れ筋商品を什器に並べるのが上策。あるいは利益率x資金回転率を鑑みて交叉比率重視の品揃えで・・・。ごもっともな話です。売れなければ商売は継続できないのです。また利益率は高くても利益総額が一定以上にならなければ、やはり商売は継続できません。利益率がどれだけ高くても、需要の絶対量=利益総額が人件費や家賃などを下回ることになれば商売はやっていくことができないのです。
 従って需要の少ない「死に筋商品」はいつも淘汰されていっています。また需要自体は減少していなくても商店街vs.郊外型大規模店舗のごとく競合の結果として淘汰されるケースもあります。店舗だけでなくもちろん生産者も・・・。

 需要が徐々に減少してゆく市場はシュリンク(縮む)マーケットと呼ばれますが、シュリンクマーケットには2つの大きな特徴があります。またこの大きな2つの特徴はEコマースととても親和性が高いと思うのです。ちょっと逆説的ですがECプレイヤーから見ると全体需要が「減少している」マーケット(あるいは商材)は「大きなチャンス」があると笹本は考えています。以下その理由を説明して行きたいと思います。

 シュリンクマーケットはその名の通り需要が減少してゆく市場なのですが、需要が減少してゆく【過程】においては「恒常的」に「大きな潜在需要」が見込めるマーケットだと思っています。例えば、元々10の需要があり、その市場のパイに対して3社の販売者(あるいは生産者)がA社5/B社3/C社2のシェアで供給していたとします。供給側の各社ともに売上=需要が1/2になった時点で利益総額が固定費などを下回る状態になると仮定します。
この時点で各社は「採算が合わない商品や事業」となり商品の取扱をやめたり事業そのものから撤退することになるわけですが、時を経て10あった全体需要が8.5になったとします。仮に需要減少分の1.5がB社またはC社に集中した場合、B社またはC社は撤退を余儀なくされることになります。需要の減少は1.5にも関わらずB社またはC社の撤退により供給量は「ある時突然に」3または2減るという形になるのです。
つまり淘汰が進む環境においては、どこかの供給者が撤退した時点で「需要が供給を上回る状況」が創り出されることになります。店舗の撤退や商品の取扱い中止によりお客様の生活“圏内”=従来の商圏内では買いたくても買えない人が生み出されると同時に、いつもの生活“圏外”までその商品を買いに出かけるごとく広く薄く分布する広域商圏のお客様に変化します。

過疎地においての買い物難民と呼ばれる状況は、まさに前述のようなステップを経て生み出されてしまった典型例なのですが、実は都市部においてもシュリンクマーケットの状況が生み出されています。駅前には大型ショッピングセンターがあり一応商店街も健在という町で最寄り駅まで徒歩10分という様な環境にお住まいのお客様においても、郊外型大規模店舗に淘汰されつつある各種商品ex眼鏡や紳士靴ホームセンター関連の商品や、あるいは精度の高い文房具なども含め・・・従来の生活圏内(=この場合には駅前商店街)では手に入りにくくなっているのではないでしょうか。ちなみに読者の皆さんは最寄り駅の駅前でex.家電や紳士靴を買えますでしょうか。仮に買えるとしてもその品揃えは充分でしょうか。

郊外型大規模店舗は多くの場合、従来の中心街ではなく駅から数キロ離れた幹線道路などに集中しています。商店街の小規模店舗とは異なり“大規模”店舗ですから、元々が「やや広域」の商圏から一定数以上のお客様を必要とする構造になっています。そしてそのほとんどが「やや広域」から「自家用車」で来店されるお客様を意図して店舗が作られているかと思います。
加えて申し上げれば、徒歩や自転車で来店されるお客様と車で来店されるお客様の「平均顧客単価」は格段に異なるのが一般的です。顧客単価が高いのはもちろん車で来店されるお客様です。わざわざ遠くから時間をかけて店に行く必要があるお客様は、買い物に行く手間を減らすべく「ついでに」「どうせならまとめて大量に」お買い上げになる傾向にあるからです。手に持ちきれないほどの商品をお買い上げ頂くことも稀ではありません。買った品物は車に乗せればいいのですから。一方で徒歩や自転車で来店されるお客様は「持って帰ることができる量」を超えてお買い上げ頂くことはまずないかと思います。

前述同様に経済効率=ex.平均顧客単価というKPIを考えただけでも徒歩&自転車で来店されるお客様を対象としたex.従来の商店街のお店は淘汰される方向にあり、車でのお客様を対象とした郊外型大型店が“残る”という構図が進みます。また郊外店は通勤や通学で徒歩/バス/自転車などを利用する人々の行動導線を意図しない(行きづらい)距離/場所に立地しているのがほとんどです。この様な状況になった際に車の運転ができないお客様や広域=遠くまで出かける時間的余裕を持たないお客様は、特定の商品ジャンルに関しては都市部や都市郊外においても過疎地と同様に必要なものを手に入れにくい状況になるわけです。高齢化はもとより、日本全体の人口減少が進む中では地方のバス路線のごとく公共交通機関の廃止や縮小も進んでゆくかと思います。お店まで行くことができない人が徐々に増えていることが容易に想像できるわけですが、それでも商品を買いたいとすれば/多くの品揃えの中から選びたいというデマンドを満足させるとすれば、(ある意味ではしかたなく)ネットでということになるのではないでしょうか。ネットでプロ向け工具類を充実させたモノタロウさんや雛人形や五月人形を扱う人形屋ホンポさんなどは「気がつくとわが町では買えなくなっていた品物」をネットで充実させて「全国に広く薄く分布している需要」を取り込んでいった好例になるかと思います。

また全体需要が減少する環境においては多くの場合「弱い」供給者から撤退が始まります。これがシュリンクマーケットの2つめの特徴です。簡単に申し上げれば寡占化&独占化が進みやすい環境なのです。またその商品や業種の需要自体が減少しているのですから他者の新規参入も考えにくい状況にあります。需要自体は減少していく方向にあるのでブルーオーシャンとは言えない経営環境ではあるのですが、撤退=淘汰が進むにつれて同業他社との“競合”状態は【緩和】してゆく方向にあります。需要が減少してゆく割合よりも競合緩和による利益率の向上の方が高く、かつ利益の絶対額が事業を維持できる状態であれば、最後の1社は「言い値が通る独占商売」となるのです。
一方でシュリンクマーケットの需要は「減少はしてゆくが無くなりはしない」ものがほとんどです。例えば今でも下駄や草履を必要とする人は必ずいるわけですし、この想像は容易かと思います。シュリンクマーケットの傾向にある商材でネット1番店を目指すのは思いのほか「おいしいビジネス」なり得ます。事実、今まで全国各地の「衰退地場産業」(←あまり適切な表現ではないかも知れませんが)のクライアントをこのロジックで元気にさせてきました。あくまで“成長“ではなく”元気“に なのですが。
ウチが1番で需要もこれ以上は減らないと読み切った時点で「値上げ」します。ネットで探して競合が無ければOK。簡単な判断です。原価50円売価100円だったものを150円で売るだけの話。販売数は同じなので固定費も材料費も以前同様。値上げ分は純益に直結。で元気♪ 都市部においてのシュリンクマーケット商材/業種は探すと結構あると思いますよ。仕立てシャツや百貨店にならぶ品物などもこの一例かもっ・・・。♪

JECCICA客員講師

JECCICA特別講師 笹本 克

全国各地で有名ネットショップを輩出。自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。


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