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ネットビジネス 急成長への隠れた要素

来年には元号が変わり昭和はふた昔前の時代となりますが、昭和48年のオイルショックまでの高度経済成長期と言われる時代は、当時小学生であった笹本も肌感覚として覚えています。東京郊外=埼玉都民のエリアで育ったのですが、毎月の様に転校生が入ってくる、遊び場だった空き地に工場や家がどんどん建って2か月ぐらいで別の遊び場をさがす、1斤50円だった食パンが半月経つと60円になり数か月経たずして70円になる様な具合です。ただし強烈な好景気による物価上昇であり、物価の上昇と同じスピードで給料も上がっていた時代でもあります。
 現在では誰しも信じて疑わない経営の常識として利益重視の考え方がありますが、実は昭和の高度成長期が終わるまでは「常識とまでは言い難い」ものだったかと思います。当時の経営の第一命題は「規模の拡大」であって、利益の部分については「できれば利益が出るに越したことはないが、規模が拡大してさえいれば赤字でも構わない」という考え方が経営者の常識であり、また世の中の大多数を占めていた考え方だったのではないでしょうか。

 当時は世の中全体が好景気であり「規模の拡大スピード」を一番重要なKPI(経営指標)として見ていたので、決算は赤字続きでも「拡大した規模」に応じていくらでも次の借り入れや出資を募ることができたのです。どれだけ赤字を出そうとも、次の資金を調達できれば会社は存続します。従って当時の経営者としては赤字よりも規模の拡大(=一番わかりやすいのは売上の増加/新規取引先数の増加や店舗数増など)が緩む方が怖いという感覚であったかと思います。拡大のスピードダウンは次の資金調達が困難になることを意味するからです。同時に売上が微増で若干の黒字の経営者よりも、赤字増&売上大幅増の経営者の方がはるかに高い評価を受けたという時代であったとも思います。

  この様な時代の背景から当時はたとえば新規取引先を獲得するために粗利ゼロ、場合によっては原価割れでも売上や市場シェアを拡大するような経営手法も少なくなかったのではないでしょうか。現在ではこの様な経営手法はよほどの特例を除いて「リスクが高い誤った考え方」という意見が支配的で、たぶん原則としては一番安全な経営方針=利益の中から自己資金で再投資が最良と考えるのが常識とされているかと思います。
しかしながら利益の中から再投資という経営方針が世の中で選択され始めたのは、昭和の高度成長期が終わったオイルショック後から「徐々に」広まり始めたという所でしょう。十数年後のバブル景気の時期にはまた借り入れや出資などを中心とした「外部からの」資金調達で稼ぐという図式が支配的であったかと思います。

その後バブル景気が終わりを告げると同時に「次の」資金調達が難しくなった結果、有名企業の倒産やex.会社更生法を適用し、店舗数を減らして云々・・・などのニュースが世間を賑わしました。この頃から「利益よりも規模の拡大」を優先させる経営手法の【 リスク面 】が世間に浸透してゆき、その後約30年間=現在に至るまでの間に「利益を出して自己資金で再投資」を最良と考えるのが常識となっていったのではないでしょうか。
 
一方で中国など海外の「今、世間から注目されているECプレイヤー」の会社案内などを見ると、一番目立つ所に「〇〇億ドル(米)の資金調達達成!」などと書いてある場合が少なくありません。売上や利益あるいは会員数やダウンロード数などよりも「資金調達力」が「世間に誇れるKPI」であり、巨額の資金調達が「できた」という事実を以って、世間からこのビジネスが発展する可能性が充分にあると認められた「鉄板の証拠」として誇らしく謳っているのです。
これらの海外ECプレイヤーの日本法人の社長を務めたことがある知り合いなどに話を聞くと、かなりの割合で海外のオーナーから損益云々よりも売上や会員数など規模の拡大スピードを求められると言っていました。実は私自身も若かりし頃「利益よりも規模=売上」を第一命題として仕事をしていた経験があります。大卒後に韓国の財閥系商社の日本法人に勤務したのですが、折しもNICs NIEsブーム(韓国台湾などの新興工業国の好景気1988年頃がピーク?)で韓国中が好景気で沸いていたのです。これに日本のバブル景気の後期が重なり、世間も勤務先もイケイケドンドンの環境でした。たとえば当時の勤務先の状況を資金的な面から言えば、年末12月の接待費が資本金を超えたことを記憶しているほどです。今から考えれば無茶苦茶もいいところですが、その時点での会社の規模に増資という手続が間に合わなかったほど【 猛烈なスピードで 】規模の拡大が進んだということでもあります。また当然ながら「与信という見えない資金力と外部からの資金調達」で会社を運営していたのだろうと思います。
 毎週のごとく新人歓迎会があり、半年も経たずに社員数が2倍近くになったかと思います。そういえば笹本が入社した直後は私の机がありませんでした。机を注文したけどまだ届かないという程の猛烈な社員数増でもあったのです。フロアは1年に何回ものレイアウト変更を行い、社内規定もどんどん変わる、社内の人間でも誰の担当か分からない新規案件がどんどん舞い込んでくるという様な状況でした。日付の感覚がおかしくなるほどの猛烈な忙しさだったことを記憶しています。繰り返しになりますが、当時の社命は利益を出すことではなく「最速のスピードで規模を拡大させること」でした。大きなやりがいは感じつつも、「スピード」が第一命題の環境は肉体的にも精神的にもかなり辛かったのも事実ですが・・・。

 先行者利益という言葉があります。特定のフィールドでトップシェアを一度取ればそう簡単に追い抜かれることはないということなのですが、ECの場合特にこの傾向が顕著である様にも思えます。検索のGoogleやポータルのYahoo!JapanあるいはLINEやメルカリZOZOタウンなど様々なフィールドでそれぞれのビックネームが存在しています。これらのビッグネームの全てに共通していることは、新しいブルーオーシャンを見つけて手ごたえを感じた時点からは「トップスピード」で現在に至るまで走り続けていることではないでしょうか。
 「人の成長と会社の成長は同じスピードであるべき」という素敵な言葉があります。個人的にはこちらの方を好みますが、多少の無理は承知の上でトップスピードで駆けているアグレッシブな姿も魅力に感じます。読者の皆さんはどちらがお好みでしょうか。

 近年の中国におけるECプレイヤーのごとくマーケットにも恵まれ、拡大スピードを第一命題として掲げられる環境が整った場合、ここ30年ぐらいの間に日本で浸透していった常識と言われる経営手法=利益を出して自己資金の中から再投資という形で、あるいは人の成長と会社の成長は同じであるべきの形で、果たして「必要とされる強烈なスピード」を出せるかどうか・・・。もちろんこちらの方が安全度としては最良であることは間違いなく、諸々の軋轢やストレスなども段違いではあるのですが。またトップスピードで走った結果、付随してくる軋轢や不備によって途中で転んでしまった例も数知れず・・・。
もちろんそのリスクは見えています。見えてはいるのですが、それでももしも笹本が大卒後に勤めていた会社のごとき拡大のスピードを必要とする場合には、外部からの資金調達と多少の無理は承知の上で走りながら考えるぐらいの覚悟が必要かと思います。
海外勢の「強烈なやり方」を垣間見ながら日本のECプレイヤーを見ていると、ちょっともったいない気がするのも事実です。
 
コンサルタントの立場では責任を取れないリスクでもあるので、さすがにクライアントには借り入れをしてトップスピードで息が切れても走れとまでは言えないのですが、ビジネスシーズとしてかなり将来性があると思われるものでも笹本のクライアントさんの中には(ex.新規に借り入れを起こして)トップスピードにギアチェンジをしようとする所は残念ながらいらっしゃいません。利益の中から自己資金で再投資という安心安全の枠の中で、昨年対115%ぐらいでホッと一息。もちろんこれは一つの最適解であるとは思います。一方で、他の形の解もあることは知っておいて欲しいなと思う次第です。
現在は安心安全の枠の中で充実した時間を過ごされている方々の中にも、昔ネットを始めた頃は ク:「パソコンを4台買ったけどインターネットが見られないのですが・・・。」笹:「ネット回線に繋ぎました?」ク:「ネット回線って何ですか?」というぐらいに根拠も知識もないままにパッション先行でPC購入という“当時の月商を超える投資”をした人もいたのですが・・・。持っているビジネスの素材自体は秀悦でも、一定規模の段階から資金調達でギアチェンジしてトップスピードで走れる人はごくわずかの様です。(あ、ちなみに笹本自身のことは完全に棚に上げております。お許しの程。)

先行者利益がありえるブルーオーシャンとは、自分が開拓者になるということでもあります。開拓者とは事前の「知識を持たずに」諸処の課題に取り組む立場と言えます。もう少し言えばベンチマークをするお手本も無く、誰もその市場規模を知らないという状況であるとも言えます。従って事業計画なども客観的な裏付=「根拠」に薄いものになるはずです。それでも「根拠のない確信」とでもいうべきパッションを持った人だけがブルーオーシャンを進むことができるのではないでしょうか。客観的な根拠の薄い状況においても自らの判断においてex.借り入れなどの資金調達を行い、投資をしてスピードを上げ、付随する様々なリスクを承知の上でトップスピードで走ることができる源はまさにパッションと言う他にない様な気がします。前述では好景気という表現を使いましたが、言い換えれば世の中の皆が素敵な未来を信じられる環境と言えるかも知れませんね。

私自身、強烈なパッションを持てる「何か」が見えてきて欲しいなと思いつつ・・・。

JECCICA客員講師

JECCICA特別講師 笹本 克

全国各地で有名ネットショップを輩出。自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。


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